第1章 第1節 アジア通貨・金融危機の影響広がる

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(アジア通貨・金融危機の影響が世界経済全体に及ぶ)

世界経済は,1994年から97年まで4%前後の成長を遂げ,全体として順調な拡大が続いていた。しかし,97年7月のタイ・バーツ危機に端を発するアジア通貨・金融危機は,域内の経済成長を低下させただけでなく,東アジア地域への輸出減少,一次産品価格の低下等を通じて,世界経済全体にも影響を及ぼし,ロシアや中南米諸国等の為替・金融市場にも動揺が広がった。

世界の実質GDP成長率(IMF統計による)は,96年4.2%の後,97年は4.1%となった3,97年にはアメリカ,EU諸国等の先進国で成長が高まったほか,市場経済移行国でも景気が回復したが,通貨・金融危機の影響からアジアで成長率が鈍化した(第1-1-1表)。

98年の世界経済は,IMFの見通しによると,アメリカやEU諸国は引き続き順調な拡大を続けるが,日本はマイナス成長となり,先進国全体の成長率は鈍化が見込まれている。途上国では,東アジアで多くの国がマイナス成長となり,中南米でも成長率が低下することから,全休として成長率は大幅に低下し,世界全体の実質GDP成長率は2.O%と減速が見込まれている。

(先進国経済:欧米で景気拡大続く)

先進国の実質GDP成長率は,97年3.1%の後,98年は2.O%の見込みとなっている。

アメリカ経済では,景気拡大が8年目に入った。設備投資と個人消費に牽引された内需中心の拡大が続いている。失業率は低水準で推移し,物価は安定している。財政収支も改善している(第1-1-2図)。一方,アジア向け輸出の減少などから,98年に入って貿易収支赤字は拡大している。

西ヨーロッパ経済をみると,大陸欧州諸国では,97年全体を通じた為替レートの減価傾向により輸出が好調となり,これが内需に波及する形で景気が回復した。98年に入っても低金利政策によって設備投資や個人消費が伸びており,景気は拡大している。失業率は高水準ながら低下がみられ,物価は安定している。一方,拡大を続けてきたイギリス経済は,97年における度重なる金利引上げにより,拡大テンポに鈍化がみられる。

その他先進国では,カナダ経済は内需中心の拡大が続いているが,98年4~6月期に入ってやや減速している。オーストラリア経済は拡大が続いているが,98年に入ってアジア向け輸出に鈍化がみられる。日本では景気の低迷が続いている。

(途上国経済:アジア中心に景気後退色強まる)

途上国の実質GDP成長率は,96年の6.6%の後,97年は中南米で景気が拡大したが,アジアで鈍化したため5.8%へ低下した。98年は東アジアを中心にアジアで成長率の大幅な低下が見込まれ,中南米でもアジア通貨・金融危機の影響を受けて成長率が低下することから,全体として2.3%と低い伸びが見込まれている(第1-1-3図)。

物価は,アジアでは近年上昇率が低下していたが,98年に入って通貨減価の影響などから,ASEAN諸国などで上昇している。中南米では依然二桁の物価上昇が続いているが,上昇率は低下傾向にある。

経常収支は,アジアでは97年後半以降の輸入の大幅な減少から97年に黒字に転じ,98年は黒字の拡大が見込まれている。中南米では赤字の拡大が続くものとみられている。

(市場経済移行国経済:中・東ヨーロッパで拡大続く)

市場経済移行国の経済は,97年には中・東ヨーロッパで拡大が続き,ロシアでもプラス成長に転じたことから,全体として2.0%の成長となった。98年はポーランド,ハンガリーなど中・東ヨーロッパで拡大が続くものの,ロシアで再びマイナス成長が見込まれている(第1-1-3図)。

物価上昇率は高水準ながら低下が続いていたが,ロシアでは98年8月のルーブル切下げ後上昇している。

国際収支をみると,中・東ヨーロッパでは経常収支赤字の拡大が続いている。ロシアでは,98年に入って経常収支の赤字が拡大している。

(世界貿易:途上国を中心に伸びが大幅に鈍化)

世界貿易量の成長率は,96年に世界的な半導体の輸出低迷などから途上国を中心に伸びが鈍化した後,97年には,市場経済移行国で伸びが鈍化したが,先進国,途上国ともに伸びが高まり,9.7%と高い伸びとなった。98年には,アジア通貨・金融危機の影響から途上国を中心に輸出入が伸び悩み,3.7%と伸びが大幅に鈍化することが見込まれている(前掲第1-1-1表)。

貿易財・サービス価格(米ドル建て)の動きをみると,96年に1.2%の下落に転じた後,97年も原油価格が下落に転じたことなどから5.6%の下落となった。98年に入っても,東アジアの景気低迷などによる需要減退から,原油価格,国際商品価格は更に下落しており,IMFの見通しでは4.5%の下落が見込まれている。原油価格(北海ブレント,ドル/バレル)は,97年に19.2ドルとやや低下した後,98年に入っても下落傾向が続いており98年7~9月期には12.5ドルとなった。一次産品価格(CRB先物指数)は,97年半ば以降下落基調が続いて,おり,98年に入り一時強含んだものの,その後は低迷を続けている。

世界貿易機関(WTO:World TradeOrganization)では,98年5月に第2回の閣僚会議がジュネーブで開催された。多角的貿易体制の設立50周年目にあたるこの会議では,多角的貿易体制がもたらしてきた成果を再確認するとともに,多くの加盟国が金融市場の混乱を経験しているなかにあっても,市場を開放的に維持すること,及び保護主義的措置の使用を拒否することの重要性が強調された。

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