平成6年
年次世界経済報告
自由な貿易・投資がつなぐ先進国と新興経済
平成6年12月16日
経済企画庁
第1章 世界経済の現況
アジア新興工業経済群(NIEs;Newly Industrializing Economies),東南アジア諸国連合(ASEAN;Associatin of Southeast Asian Nations)の経済は,堅調な内需,アジア域内輸出の増加により拡大を続けている(第1-3-1表 )。これら諸国・地域では,所得水準の急速な向上による消費拡大,経済構造転換を進めるための投資拡大によって,経済成長パターンがこれまでの外需主導型から,外需と内需の双方に立脚した成長へと変化し,より自律的な経済成長の性格を強めつつある。もっとも,アジアNIEs,ASEANにとって輸出は,依然として成長の重要な要素であることに変わりはない。アジア域内での分業関係の進展,相互依存関係の深化を背景としたアジア域内輸出の大幅な伸びが,先進国向け輸出の伸び悩みを補う形で輸出を増加させ,経済拡大に寄与している。以下では,個々の国・地域の最近の経済動向を調べてみよう。
韓国では,90年の年間消費者物価上昇率が9.4%に達するなど,景気は過熱化していたが,91年初めには,金利の上昇とともに資本設備のストツク調整が始まり,景気は緩やかに減速し始めた。92年後半には,経済成長率も総固定資本形成の落ち込みから大きく滅速した後,93年初めには,景気の底に達したとみられる。その後,輸出の増加に伴い,輸出企業を中心に設備投資が上向きはじめたことから,内需主導により景気は着実に拡大している(第1-3-2図)。
93年以降の動向を詳しくみると,93年1月には公定歩合(再割引金利)が引き下げられる(7%→5%)とどもに,4~6月期には建設投資が,1月の建設行政規制の緩和の影響もあって増加に転じた。円高に伴うウォンの対円レートの減価と中国・東南アジアの需要拡大から,輸出が大きく伸びるとともに,自動車,鉄鋼,通信機器等の輸出企業の投資が増加しはじめた。資本設備のストック調整も進展してきたことから,設備投資も93年半ばから増加しはじめた。消費もゆるやかに拡大しはじめている。94年1~9月期の実質GDPは前年同期比8.2%と高い成長となっている。景気拡大を牽引している項目としては,産業別にみれば重化学工業,需要項目別にみれば設備投資と民間消費があげられる。
産業活動では,稼働率は93年10~12月期以降80%を越えており,内訳をみると,自動車等の重工業が好調な反面,中小企業の多い軽工業の伸びは低迷している。国内民間機械受注額は93年後半から94年前半にかけて二桁の増加が続くなど,設備投資は大幅に増加している。住宅投資は93年1月の建設行政規制緩和の影響が一巡しており,94年に入って92年水準にほぼもどっている。失業率は低水準(94年7~9月期2.2%)で推移している。賃金は,94年に入って上昇率を高めており,物価上昇をもたらさないようにすることが当面の課題である。消費者物価をみると,94年の年初から10月まで5..3%上昇しており,これには93年の天候不順や,94年の猛暑による農水産品の上昇率が寄与している。
他方,工業品価格は,ASEAN等からの低価格品輸入の影響があり,安定して推移している。
94年1~10月の経常収支は大幅な赤字となっている(45億ドル,93年同期6億ドルの赤字)。貿易収支は,輸出も好調であるが,それ以上に景気の加速に伴い輸入が増加しているため,赤字となっている。貿易外収支は海外旅行の増加等で赤字となっている。
台湾経済は,80年代後半の高成長の後,90年代に入り成長率はやや鈍化しているが,民間投資の増加や,輸出の伸びから安定的な拡大を続けている。実質GNP成長率は,94年4~6月期前年同期比5.8%となった。国内産業をみると,製造業生産額は93年前年比4.4%成長となり,堅調さを持続している。また,サービス業生産額は,93年は7.5%と高い伸びを示した。失業率は,1%台と極めて低い水準で推移している。消費者物価上昇率は,94年7~9月期には,前年同期比5.9%と,若干高まったものの,おおむね落ち着いている。
貿易動向をみると,貿易収支は黒字を続けている(94年1~3月期GNP比16.9%の黒字)。輸出は香港,ASEAN向けを中心にアジア向けが増加している。輸出額でみると,87年はアメリカ向けは全体の44.1%,アジア(日本含む)向けは28.2%であったが,93年にはアメリカ向けは27.7%,アジア向けは46.0%となり,台湾の輸出の対米依存が低下,アジア域内依存が高まっている。
香港経済は,91年以降中国経済の高成長に伴って拡大している。実質GDP成長率は,94年4~6月期前年同期比5.4%となった。消費者物価は,住宅費や交通費の上昇から,高い上昇率が続いている(94年4~6月期前年同期比8.1%上昇)。雇用情勢をみると,失業率は,93年以降平均2%程度と低水準で推移しており,労働力不足が続いている。実質賃金上昇率は93年は前年比7.0%と高水準であった。貿易動向をみると,貿易収支は赤字傾向にある(93年GDP比8.7%の赤字)。輸出は,香港の地場輸出は低迷しているものの,中国との委託加工貿易の増加に伴い再輸出が大幅に増加している。輸入は,日本,台湾からの輸入を中心に伸びている。
シンガポール経済は,89年より減速傾向にあったが,92年より成長が高まっており,94年4~6月期の実質GDP成長率は前年同期比9.3%と高い成長となった。内需が引き続き活発であるのに加え,94年に入ってからは,外需の寄与度が高まっている。消費者物価は,94年4月に物品サービス税(税率3%)が導入され,一時的な高まりがみられたが,基調としては落ち着いている(94年5月前年同月比3.5%上昇)。国内産業をみると,輸出の好調から製造業部門,特に電気・電子産業が好況である。また,株式市場の活況や,アジアのビジネスセンターとしての役割の高まりから,金融・サービス部門が高い成長を示している。貿易動向をみると,貿易収支は赤字幅が拡大している(93年GDP比20.4%)。輸出は,94年に入り先進諸国,近隣諸国・地域向けの増勢が強まっている。輸入も高い伸びを示している。
インドネシア経済は,92年の金融緩和を契機に,90年半ばからの調整局面から抜け出し,景気は拡大している。実質GDP成長率は,設備投資を中心に内需の寄与度が高まっており,93年前年比6.5%,94年1~3月期前年同期比6.9%,4~6月期同6.9%となっている。製造業生産は,94年1~3月期前年同期比12.0%増,4~6月期同9.3%増と好調を持続している。消費者物価は,93年には公共料金の値上げ実施に伴い年間上昇率が10.1%となり,インフレ懸念が高まったが,94年は年初から10月までの上昇率が8.6%(93年同期9.1%)となり,若干落ち着いてきている。貿易動向をみると,貿易収支は黒字(93年GDP比6.2%)が続いているが,94年に入って黒字幅は縮小してきている。輸出は,原油価格の低迷による石油・ガス輸出の落ち込みと,繊維製品等労働集約産品の落ち込みにより,93年10~12月期より前年同期比で減少していたが,94年4月以降回復をみせている。輸入は,94年に入り堅調に増加している。
タイ経済は,88~90年の二桁成長の後,91年以降成長率が一桁へと鈍化したものの,内需を中心に着実に拡大している。実質GDP成長率は,93年は7.8%となった。民間投資が工業品輸出の好調等を背景に活発化しており(93年5.9%増),公共投資も高い伸び(同12.9%増)を示している。民間消費は,賃金上昇,金利の低下から93年は前年比7.2%増となった。鉱工業生産は,輸送機器,IC等の増加によって94年1~7月前年同期比10.3%増と二桁の伸びを維持している。消費者物価は,94年7~9月期前年同期比5.1%と,かなり落ち着いている。貿易.動向をみると,貿易収支は赤字傾向にある(93年GDP比7.5%の赤字)。輸出は,アジア域内向けを中心に拡大している。特に,バーツ経済圏の形成もあって,インドシナ諸国・ミャンマー向け輸出は規模が小さいながらも,93年に前年比81.5%増と著しく拡大した。輸入は,投資財を中心に大幅に増加している。
フィリピンでは,90年から自然災害などにより,景気は低迷していた。その後,電力不足のため景気の回復は遅れていたが,建設していた発電所が93年9月より一斉に稼働を開始し,電力不足は大幅に緩和した。このため,景気は内需主導により拡大している。実質GDP成長率は,93年前年比2.o%,94年1~3月期前年同期比3.7%,4~6月期同4.5%と高まっている。とくに,実質資本形成(政府・民間)は,94年1~3月期前年同期比16.9%増,4~6月期同16.4%増と高い伸びが続いている。消費者物価上昇率は,94年に入って10月まで前年同期比7%以上で推移しており,高めの上昇となっている。貿易動向をみると,貿易収支は赤字が続いている(93年GDP比11.6%)。輸出は,主要輸出先であるアメリカの景気拡大により増加している。輸入は,国内景気の回復を受けて,一次金属や資本財等の輸入増加により伸びている。
マレイシア経済は,87年より消費,投資の強い増勢を受けて拡大しており,実質GDP成長率1よ,94年1~3月期前年同期比8.8%となった。国内産業をみると,製造業,特に電子・電気,繊維・衣料などの輸出関連産業が好調である。消費者物価は,93年3.6%の上昇となり,94年に入っても落ち着いて推移している。貿易動向をみると,貿易収支は93年末より赤字傾向にある(93年はGNP比2.4%の黒字)。輸出は,電気・機械製品を中心に増加している。輸入は旺盛な国内需要から,輸出の伸びを上回る伸びとなっている。
中国経済は88年後半より経済調整期に入ったが,90年後半より引締め政策を緩和したため次第に成長テンポが高まり,92年以降は旺盛な内需と輸出の増加を軸に,高成長を続けている。しかし,93年に入ると次第に物価上昇率が高まり,経済は過熱化した。このため中国政府は93年央より引締め政策を実施し,経済過熱の鎮静化に努めている。その結果,93年後半より投資,鉱工業生産の増勢が鈍化するなど,政府の引締め政策の効果がみられた。しかし,物価上昇率は94年に入った後も依然として高く,また投資も94年半ばに再度増勢が強まっており,経済は過熱が続いている(第1-3-3図)。
政府は94年もインフレ抑制を重視し,引き続き通貨管理や投資規模の抑制等,引締め政策を維持する方針を示している。
中国では,過熱化を抑制するため93年半ばより,①預金・貸出金利の引上げ,②各国有銀行の融資規模の抑制,③新規投資プロジエクトの抑制,④物価の監視(価格モニタリング)等の措置に積極的に取り組んだ。この結果,急騰していた沿海地域の地価や建設資材価格の一部に鎮静化みられ,またマネーサプライの増勢も93年に入り鈍化するなど,引締め政策の効果が徐々に現れた(前掲第1-3-3図)。
一方,物価上昇率は引き続き二桁台の高い伸びが続いている(94年1~9月小売物価上昇率20.9%)。特に93年末からの食料品価格の高まりが著しい。93年10~12月期に沿海南部を中心に穀物価格が急騰した後,94年に入っても野菜,肉類等の副食品価格の伸びが高まっている。このようなインフレが続く基本的な要因としては,マネーサプライの増勢が未だ十分に抑制されていない点があげられる。93年10~12月期からはマネーサプライ(M2)はむしろ増勢が高まっており,94年6月末時には前年同期比28.4%増と急増した。また,94年1月の税制改革(注)の実施以降に各地で発生した便乗値上げも,年初の物価上昇の一つの要因とみられている。
また,非効率な経営を続ける国有企業の存在は,引締め政策自体の継続にとって制約要因となっている(94年6月末で,国有工業企業約3万社のうち約半分が赤字企業)。政府は引締め政策を採りつつも,一方では資金不足にあえぐ国有企業に対し,救済措置として93年秋より数度にわたって資金供与を行っておリ,銀行貸付残高も,93年半ばより伸びがやや鈍化したものの増勢は依然として強い。政府は国有企業の倒産の結果生じる失業者の増大を懸念しているため,経営不振の国有企業に対しても資金面で援助せざるを得なくなっている。
このため,政府にとっては適切なマネーサプライの調節が困難となっている。
中国では地域により経済パフォーマンスがかなり異なっており,沿海地域,特に南部の各省は全国平均を上回る高い経済成長を遂げている。
93年の各地方の実質GDP成長率を比較すると,沿海南部では全国平均(13.4%)より高く,広東省で21.0%,山東省で24.2%,浙江省では25.0%となった。沿海南部では諸外国・地域からの直接投資が急増しており,これら各省の投資活動をさらに活発にしている。また,固定資産投資額(各目,国有部門のみ)の増加率を各省別にみると,沿海北部や内陸部に比べて,沿海南部の各省で伸びが高くなっている(第1-3-4図)。ただし,一方で物価上昇率も沿海南部でより高まる傾向がみられ,経済の過熱化も沿海地域が中心となっていることがうかがえる。
中国への直接投資は,中国経済が高成長を続けるなかで拡大を続けており,契約ベースでの93年の受入れ額は,前年比92%増の1,114億ドルとなった。実績ベースでみても,93年に前年比130%増の260.2億ドルとなった後,94年上半期も前年同期比54.9%増の147億ドルと急増している。地域別では香港からが最も多く,93年までの直接投資受入れ件数(契約ベース)全体の67.6%を,香港からの投資が占めている。次いで台湾(13.0%),アメリカ(7.3%),日本(4.5%)となっており,アジアからの投資が大半を占めている。ただし,香港からの投資の中には,香港に現地法人を設立した他国・地域の企業による投資も含まれている。このため,例えば台湾からの投資も実際の規模はさらに大きい可能性もある。
中国の貿易収支は93年より赤字傾向が続き,93年全体では121.9億ドルの赤字(対GDP比2.2%)となった。しかし,94年に入ると,輸出の伸びが高まる一方で輸入が鈍化し,次第に赤字幅は縮小し,6月以降は黒字傾向となっている。
輸出は93年上半期に伸びが低迷した後,年央より機械製品,繊維・同製品を中心に伸びを高めた。94年1月に実施された為替レートの一本化(公定レートをより人民元安となっていた市場レートの水準に統一)により,人民元が実質上切り下げられたことも輸出増大の一要因となった。輸入をみると,93年は国内需要の増大から金属製品,機械製品,輸送機器を中心に増勢が強まった。しかし,引締め政策の実施により内需が鈍化するにつれ,輸入も93年10~12月期より次第に伸びが低下している。
ベトナムでは86年に「ドイモイ(刷新)」と称される改革・開放政策を採択し,市場経済化を進めつつ,国内経済の活性化に努めている。86年には前年比775%に達していた小売物価上昇率も,①ドイモイの進展に伴う国内産業の供給力の強化,②金融引締めの実施により,鎮静化に向かっており,マクロ経済は安定化しつつある。また,ベトナムへの直接投資も拡大しており,国内産業の活性化を促している。なかでも,日本やアジアNIEs,ASEAN等のアジア域内からの投資が多く,近隣諸国・地域に比して生産コストの低いベトナムが,アジア域内の経済関係を強める姿が見られ始めている。
ベトナムでは実質GDP成長率で92年8.3%,93年7.5%と高い経済成長を遂げ,また94年に入っても,1~3月期の工業生産額が前年同期比11.4%増,小売販売額が同14%増となるなど,経済は引き続き拡大を続けている。
他方,高騰していた物価上昇率は次第に鎮静化している。92年より財政赤字補填のための通貨増発を抑制したことに加え,農業部門の生産拡大を背景に食料品価格が安定したことも,インフレ抑制に効果を奏した。マネーサプライ(M2)の伸び率は92年に急速に低下し,小売物価上昇率も90年前年比67.4%,92年同17.6%,さらに93年には同5.2%と一桁台に低下した(第1-3-5図)。
貿易収支は94年に入っても赤字傾向が続いている。輸出は,原油,ゴム,コーヒーなどの一次産品を中心に,93年に前年比20%増,94年上半期には前年同期比27%増と増加した。相手地域別でみれば,日本,アジアNIEs,ASEAN等,アジア域内向けの輸出が活発である(第1-3-6図)。しかし,輸入も国内需要の拡大を反映して93年前年比24%増,94年上半期前年同期比23.4%増と増加が続いており,結果として貿易収支赤字を拡大させている。
ベトナムでは,88年に「外国投資法」を制定,89年に対外直接投資受入れの監督機関として国家協力投資委員会を設立するなど,積極的な外資導入のための基盤整備に努めている。92年には「外国投資法」が改正され,①外資企業の事業期間を従来の20年から50年へ延長(さらに延長したい際には,期間終了6カ月以前に国家協力投資委員会に申請),②100%外資企業への優遇税制の導入等,外資に対する規制緩和を進めた。
安価で豊富な労働力を有するベトナムは,有望な投資先として国外からの注目度が高く,ベトナムへの外資進出は年を追って増大している。93年の直接投資受入れ(承認ベース)は件数で前年比35%増(計261件),金額で同35%増(26.2億ドル)と大幅に拡大した。地域別では台湾がらの投資が最も多く,4.1億ドルと全体め15.6%を占めている。香港,韓国,マレイシアが後に続き,アジア域内からの投資が活発にみられる(第1-3-7図)。また日本がらの投資も89年より増加に向かっている。93年の日本からの直接投資は,92年が石油開発向けを中心に大規模投資が相次ぎ投資金額が急増したことから,金額ベースでは前年比65.5%減となったものの,件数では92年の11件から15件に増えた。
78年のベトナムのカンボディア侵攻により停止していた西側諸国,国際機関の援助も,91年のカンボディア和平協定成立を受け,次第に再開されている。
93年11月には世界銀行の融資が再開された。また,アメリカはベトナム戦争の行方不明米兵・捕虜の捜索に対するベトナム政府の協力が進んだこともあり,94年2月には対ベトナム経済制裁を完全に解除した。日本も,92年に円借款の供与に関する書簡を交換した後,94年にはインフラ部門の整備を中心とした円借款の供与契約を締結するなど,対ベトナム支援を進めている。このような国際社会との関係改善の進展に伴い,今後更に国外からの資金流入が進むとみられる。
3 オーストラリア・ニュージーランド経済,改革進展を背景に成長軌道へ
オーストラリア経済は,80年代前半に労働党が政権に就いて以来続けられてきた規制緩和,労使関係改革等,国内経済改革の進展を背景に,90年初からの累次にわたる金利引き下げの効果もあって,1991年7~9月期には景気後退から抜け出した。その後も実質GDPは着実に成長を続け,94年4~6月期には前年同期比4.5%増と高い成長を示した。
個人消費,民間住宅投資は91年後半から増加を続け,景気拡大を牽引している。民間設備投資は低迷していたが,景気拡大により企業の生産能力拡大意欲が高まるなど,設備投資回復に向けて明るい兆しがみられる。また,景気拡大に伴い,失業率は高水準ながらも低下傾向にあり,就業者人口が増加している(94年9月失業率9.5%)。インフレ発生を防止するため,94年8月には公定歩合引き上げに転じ,物価上昇率は引き続き2%以内に抑制されており,オーストラリア経済は,インフレなき経済成長という良好なパフォーマンスを示している。貿易収支は90年来黒字基調であったが,景気拡大持続に伴い輸入が輸出以上のテンポで増加しているため赤字傾向にある。輸出は堅調に伸びており,アジア地域,特に中国,韓国,シンガポール向けの輸出が増加している。
ニュージーランド経済も,80年代前半の労働党政権への交代以降,金融・労働市場の規制緩和,農業補助の撤廃及び公的部門の再編等,自由市場経済志向の経済構造改革が進められた結果,オーストラリア経済同様,インフレなき持続的成長を1991年後半から続けている。
88年からの長期にわたる景気後退から,91年後半に景気回復に転じた後,国内需要の拡大と輸出の堅調な増加により経済は拡大を続けている。94年1~3月期の実質GDPは,前年同期比5.9%増となった。消費者物価は1%前後で推移している。失業率は低下しているものの依然高い水準にある(94年4~6月期8.2%)。貿易収支は堅調な輸出拡大.により黒字基調である(93年度GDP比2.1%の黒字)。ニュージーランドは,輸出・輸入相手国第1位のオーストラリアへの貿易依存が強いが,東アジア地域との貿易取引も増加している。
オーストラリアとニュージーランドは,地理的にも近いアジア市場に対して接近を強めている。アジアNIEs,ASEAN,中国向けの輸出シェアの合計をみると,オーストラリアでは1987年の22.0%から92年の31.9%へ,ニュージーランドでは同期間で12.5%から18.5%へと顕著な高まりをみせている。こうした変化を背景に,オーストラリアとニュージーランドは両国間の経済緊密化協定(CER;Closer Economic Relations Trade Agreement)とASEAN自由貿易地域(AFTA;ASEANFreeTradeArea)との両自由貿易地域の連携構想の実現に前向きな姿勢をみせるなど,ASEANに対する働きがけを強めている。