平成6年

年次世界経済報告

自由な貿易・投資がつなぐ先進国と新興経済

平成6年12月16日

経済企画庁


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第1章 世界経済の現況

第4節 低迷続くロシアとパフォーマンス分化の東ヨーロッパ

1 回復への糸口探るロシア経済

(1) 混迷のロシア・その他CIS経済

1991年12月のソ連の崩壊と前後して,独立国家共同体(CIS;Commonwealth of Independent States,バルト3国を除く旧ソ連共和国12カ国で構成)に参加した諸国は,経済改革の内容やスピードに違いがみられるものの,市場経済移行への歴史的大改革に乗り出した。しかし,改革の道のりは平坦ではなく,生産の大幅な縮小,高インフレなど,各国経済は低迷に陥っている(第1-4-1図)。

旧ソ連時代の計画経済体制下で網の目のように張りめぐらされていた産業間,企業間の強固な取引関係が,ソ連の崩壊,各共和国の独立と計画経済の機能停止によって短期間に断絶,崩壊する一方,それに代わる市場も容易に形成されなかったことから,CIS諸国の生産は急速に縮小に向かった。92年初からの口シアにおける価格自由化,財政赤字削減によるマネー・サプライの厳しい抑制,いわゆる「ショック療法」による経済改革が,保守派の抵抗もあって不徹底となり,短期間に動揺したこともロシア経済の混乱に拍車をかけた。しがもロシア経済の混乱は,他のCIS諸国が独立後も一定期間,ルーブルを自国通貨として使用していたため,ルーブルを通じて他のCIS諸国の経済運営に多大なマイナスの影響を及ぼした。

CIS諸国全体の実質GDPは,92年17.8%減の後,93年には11.5%減と落ち込み幅が縮小したものの,94年1~6月期には前年同期比20.0%減と再び落ち込み幅を拡大させた。生産の減少は広範な部門にわたっており,特に鉱工業生産や農業生産の滅少により,物財生産の縮小幅が最も大きかった。生産が大幅に縮小するなかで,財政赤字の拡大等によりハイパー・インフレの状況が続いた。93年のCIS諸国平均の小売物価は前年比15.5倍の上昇(92年同13.9倍)となった。

CIS諸国の域外諸国との貿易(交換可能外貨決済の貿易)をみると,ロシアを中心に多くの国が黒字となっているため全体としても黒字を続け,93年は180億ドル,94年1~6月期では約90億ドルの黒字となった。外貨獲得のために,エネルギーや原材料等の国際競争力をもつ商品の輸出を増加させていることが貢献した。輸出は94年1~6月期に前年同期比9%増となった。輸入は,食料品が大幅に減少しているものの,全休では同6%増となった。CIS諸国間の貿易は,貿易代金未払い問題の悪化,非CIS諸国輸出の活発化の影響等から大幅に減少している。

(2) 経済安定化に向け,経済改革努力続けるロシア

(ロシアにおける引締め政策の維持)

CIS諸国の生産の7割強(93年)を占めるロシアでは,92年初から開始された経済改革政策の下で,高インフレと生産の縮小,生活水準の実質的な低下等,経済は低迷を続けた。経済低迷が顕在化した92年中頃より,改革の進め方を巡って保守派と改革派による政治対立が激化し,それが更に経済低迷を深めるという悪循環に陥った。

93年12月の新議会選挙では,経済低迷に対する国民の不満を背景に急進改革派勢力が後退し,保守派が勢力を盛り返した。この結果,エリツィン政権の中から急進改革派のガイダール第一副首相,フョードロフ蔵相が閣外に去り,産業界出身で漸進改革派のチェルノムイルジン首相の閣内での経済指導力が高まる結果となった。エリツィン大統領は,94年2月「年頭教書」において,経済低迷への不満をつのらせる世論を背景に,それまでの急進改革路線を軌道修正する旨を明らかにした。

しかし,政府は一部産業への資金援助を行ったものの,財政赤字の抑制方針を貫き,緊縮的な財政・金融政策を維持した。また,国営企業の民営化,産業構造改革を継続的に推進することで,従来の改革路線を維持して,改革路線の明確な後退を示す施策は実施されていない。急進改革派の実力者が閣外に去ったことから厳しい財政・金融引き締め措置への反発も弱まり,チェルノムイルジン首相の下で従来の引締め政策が維持されるという事態が生じた。

また,経済改革の進展に大きな影を投げかけてきた政治闘争は,94年4月に,政府,議会,政党,地方指導者等,各界・各勢力の代表によって,政治対立の先鋭化の回避,インフレ抑制や犯罪対策等の推進による社会・経済情勢の安定化を目指すことなどを内容とした「社会国民合意協定」が締結されたことにより小康状態になった。

(一連の経済政策パッケージの決定・公表)

政府はインフレ抑制,国営企業の民営化等,経済改革の前進に努めているが,市場経済化のための法整備は,必要とされる法律の多さなどもあって大幅に遅延している。このため,法律の不備を補うため,94年5月以降,一連の経済関連政策パッケージが大統領令の形で決定・公布されている。これらは,国営企業改革,税制改善,企業間債務問題の解決,貿易自由化,銀行制度の改善,消費者保護,住宅等の投資促進,企業活動の管理等,多岐にわたって規定している。ただ,エリツイン大統領も指摘しているように,これらの法律や政令を実施する上で行政府の執行体制・能力が十分ではなく,この体制整備をいかに円滑に進めていき,政府に対する信頼性を回復していくかが重要な課題となっている。

(物価上昇鈍化と94年秋のルーブル相場の動揺)

緊縮的な財政金融政策の維持によって,生産の縮小幅は拡大したものの,インフレは鎮静化の動きがみられた(第1-4-2表)。財政赤字の抑制の結果,マネーサプライの伸び率が低下して,これが物価上昇の鈍化をもたらした(第1-4-3図)。また,価格自由化により国内価格水準が大幅に上昇するなかでルーブルの減価が8月頃まで相対的に小幅にとどまっていたことから,ルーブルの実質的な対外購買力が高まることで良質の輸入品に対する需要が増加して,競争力の劣る国産品への需要が減退していることも国内物価の上昇圧力を弱めた。

ロシアの消費者物価は,92年秋以降は毎月前月比でおおむね20%台の高い上昇を続けていたが,94年2月以降は上昇率は目立って鈍化し,8月には前月比4%と92年初の改革開始以来最低の上昇率を記録した。物価上昇の鈍化に伴い,実質所得の上昇,貯蓄の増加等,好ましい状況も現れた(前掲第1-4-2表)。また,市中金利の低下も急テンポで進み,これに追随するがたちでロシア中央銀行の公定歩合(再割引率)が94年4月の年率210%がら累次にわたり引き下げられ,8月下旬には同130%となった。

連邦財政は,生産の大幅な減少の影響から計画を大きく下回る歳入となったものの,歳出面でも支出抑制が行われたため,94年1~6月期の財政赤字は,対GDP比で10%を下回る水準に押さえ込まれ,インフレ抑制に効果があったとみられる。

しかし,緊縮財政の維持は,需要減退による生産の大幅な縮小や手形制度等の決裁制度の未整備等とあいまって,企業間を中心とした未払い債務を急速に拡大させた。100兆ルーブルを超える(対GDP比14~15%に相当)といわれる未払い債務が深刻な問題となり,政府はこの問題を解決するためにいずれ92年央の時のような中央銀行融資に頼らざるを得なくなり,その結果,通貨増発を促して再びインフレを悪化させるのでないかとの見方が拡がった。モスクワ銀行間外国為替市場では,こうしたインフレ期待と中央銀行が断続的に続けてきた介入を中止したことなどもあって,9月下旬以降ルーブルは大幅に減価した。10月中旬にはルーブルが1日で20%以上の暴落となったため,政府は取引規制の実施や公定歩合の引き上げ(130%→170%)を行った。その結果,ルーブルは急速に値を戻したが,輸入品等の価格高騰はおさまらず,物価の先行きは不透明となっている。

(悪化する雇用情勢)

緊縮的な財政金融政策を背景に,これまで安易な政府支援に頼ってきた赤字体質の国営企業の経営状態が,需要の減少,企業間債務の膨張による資金難等によって極度に悪化している。94年央時点で,従業員1,000人以上の大中企業の中でも約1,800社が破産状態にあるとされた。政府は,再建の見込みのない企業に対して,これまであまり手を付けることのなかった「企業破産法」を適用して,企業の整理・処分に乗り出している。

他方,民営化証券(バウチャー)による国営企業の民営化が順次進められ,94年6月末時点で約7割の国営企業の民営化が実施された。この民営化により4,000万人の株主が誕生したといわれるが,6月末でバウチャーによる民営化は事実上終了し,7月からは現金競売方式による第2段階の民営化が開始された。

生産の縮小,国営企業の民営化,企業破産の執行,企業リストラの進展等により,失業者が急増している。ロシアにおける失業者数は,94年央時点で公式登録ベースでは120万人,失業率は1.6%であった。しかし,企業内には賃金無支給で自宅待機している者や,賃金未払いの状態で働いている者が多数いるといわれ,ロシア政府もILO基準では同時期に約450万人の失業者がいたとしている。さらに,94年末までに1,000万人近い人が実質的に失業状態になる(失業率13~14%)との予測もあり,これら失業者の再就職や配置転換等を円滑に進めることが重要な課題になっている。

(3) 役割高まるロシアの対外経済部門

(輸出需要に下支えされる資源関連産業)

鉱工業生産の業種動向をみると,軍需の減少や農工業等での投資需要の低迷の影響を受けて金属,機械,化学等の重工業の生産の落ち込みが大きい(前掲第1-4-2表)。また,輸入品との競争激化から,最近では軽工業も大幅に減少している。反面,国際競争力をもち,輸出需要のあるエネルギーや資源関連の落ち込みは比較的軽微である。ロシアの燃料・エネルギー輸出は,国際エネルギー価格の低下状況にもかかわらず,非CIS向けに着実に増加しており,これが燃料・エネルギー生産減少を小さくしている要因である。

しかし,これら輸出商品は,世界の需要動向や価格動向に左右され易く,また,経済困難下で探鉱や設備近代化に十分な投資が行われていないなど,将来の安定的な輸出拡大にとって不安材料もある。

(積極化する外資政策)

ロシア経済の再生と発展にとり,外資,特に民間資金の流入が重要になっている。旧ソ連時代にも,経済改革促進の一貫として外資法の改正,自由貿易地域設置等によって,外国民間資本の活用を図ろうとしていた。しかし,ソ連崩壊と市場経済移行への改革による経済混乱の中で,外国民間資本の流入は,経済活動全般に大きな影響を与えるほどには増加していない。

ロシアへの外国投資は少ないながらも一貫して増えており,合弁企業登録数(100%外資企業を含む)は93年末時点で累計8,000件,このうち実際に稼働しているのは約8割の6,400件余りであった。投資国としては,アメリカ,ドイツ,フィンランド,ポーランド,イギリスなど,欧米諸国が中心となっているが,最近では中国や韓国といったアジアからの投資も目立つようになっている。投資対象は,金属・機械工業,燃料工業,建設業,商業・外食産業への投資が大きい。ただ,1件あたりの投資額が小さいのが特徴である。

なお,わが国からの直接投資は,93年央時点で累計173件で第9位(金額では第10位)と規模は相対的に小さいものの,対日輸出に関係する企業が多く,ロシアの貿易に対する貢献度は比較的高い。

ロシアでは,経済再生促進の一貫として外資の役割・重要性を再認識するようになっており,直接投資受入れを積極化するなどの政策がとられつつある。

しかし,外資に関連する法律・制度が不透明で,かつしばしば変更されるなど,投資対象国としては依然として問題点が多い。こうした問題を解決するため,ロシア政府は94年6月に外国企業の代表を入れた外資導入諮問評議会を政府部内に設置して,投資環境の改善と投資誘致促進に役立てようとしている。

2 成長と低迷に分かれた東ヨーロッパ

93年の東ヨーロッパ経済は,市場経済移行の初期段階での生産の縮小状況から脱しつつあり,ポーランドが92年に続きプラス成長を遂げ,チェコもゼロ成長まで回復した。しかし,一方,市場経済への移行過程で,経済パフォーマンスの分化が進んでいる。この様子を示したのが第1-4-4図である。実質GDP成長率,工業生産といった指標を「生産指標」,物価上昇率や財政赤字といった指標を「安定化指標」とすると,東ヨーロッパ諸国は,(1)生産回復は順調だが安定化がやや不十分なポーランド,ハンガリー(生産回復先行国),(2)生産回復はやや遅れたが,安定化が進んでいるチェコ(安定化先行国),(3)生産回復が遅れ,安定化が不十分なルーマニア,ブルガリア,スロバキア(生産低迷・未安定化国)の3グループに分類できる。

(東ヨーロッパ経済の回復の様相)

「生産回復先行国」のポーランド,ハンガリーについては,市場経済移行のための改革を早期に開始し,民間部門の成長(GDPに占める比率は両国ともに93年には50%以上),外資の導入,余剰人員の整理等が進み,工業生産の回復,生産性の上昇がみられた。しかし,内需の回復や為替レートの切下げの影響で,生産者物価が上昇傾向にあり,消費者物価も94年に入り,ポーランドでは前年同期比30%台,ハンガリーでは同20%近くの上昇が続いている。財政赤字については,ポーランドではIMFの融資基準(財政赤字の対GDP比5%以内等)を達成すべく,付加価値税の導入等で歳入基盤を整備し,年金関連の支出抑制等の歳出抑制を行った結果,93年の財政赤字は対GDP比2.8%と改善がみられた。一方ハンガリーでは失業給付その他の社会保障関連支出増等のため,93年の財政赤字は対GDP比6%と依然高水準であり,94年に入っても大幅な赤字が続いている。また,ハンガリーは外需不振や干害による農業生産不振等のため,工業生産は増加を続けるなかで,93年の実質GDPはマイナス成長となった。

「安定化先行国」のチェコは,東ヨーロッパ諸国の中で,物価,財政,失業,対外収支等で最も安定しており,外資の流入もハンガリーについで多い。

しかし,これは工業生産の減少,生産性の低下を伴うものであり,その背景には,金融システムの未成熟さから生じた銀行の不良債権増で貸出が抑制されたこと,失業増を恐れて余剰人員整理が先伸ばしされたことなどがあった。94年に入り,生産回復の面ではポーランド,ハンガリーに遅れていたチェコも,民間部門の成長や企業合理化の進展等で,工業生産の回復がみられるようになった。また,92年後半から94年にかけて2回の大規模企業を中心とするバウチャー方式の大衆民営化の実施等により,民間部門のGDPに占める比率は,92年の20%から93年には60%に拡大している。輸出も持続的な増加が続いている。

「生産低迷・未安定化国」のスロバキア,ルーマニア,ブルガリアについては,物価安定のためのマクロ安定化政策が不十分で,工業生産も回復が遅れている。またこれら諸国は生産回復先行国,安定化先行国と比較して,民間部門の比率や外資の流入額は低い。各国別にみると,スロバキアではチェコとの分離でチェコからの財政援助がなくなったこと,軍需産業を中心とした重工業部門を多く継承したことなどで,チェコに比べて分離後の回復が順調ではなく,分離前には比較的良好であった失業率や物価上昇率といった指標も93年には悪化した。しかし,94年に入り物価の安定と工業生産の回復がみられ始めている。ルーマニアでは政府が緊縮姿勢を緩和したこともあり,93年はプラス成長を遂げ,特に輸出志向の部門で成長がみられた。しかし,94年に入り,工業生産は再び減少してきている。消費者物価上昇率は依然高率で推移しており,94年1~6月期前年同月比224.5%となった。ブルガリアは,生産面では明確な回復はみられず,消費者物価上昇率も94年1~5月期前年同期比738%と高い上昇が続いている。

(貿易パフォーマンスの相違)

市場経済への移行のための改革開始から数年を経過した東ヨーロッパ経済で特徴的なのは,全般的に内需回復により輸入増が続くなかで,改革開始以来,経済回復を先導してきた輸出パフォーマンスに相違がみられることである。輸出の伸び悩みについては,東ヨーロッパの主要な輸出先であるEUの景気低迷が要因の一つといわれるが,全輸出に占めるEU向け輸出のシェアが同程度の国の間でも相違がみられる。すなわち,前述の生産回復先行国,安定化先行国では,いずれの国も全輸出に占めるEU向け輸出のシェアが5~6割近くを占めるが,ハンガリーの93年からの輸出減が著しく,他方チェコの輸出が最も伸びている。また,未安定化国では,いずれの国もEU向け輸出のシェアは3~4割程度であるが,ルーマニアの輸出は伸びているが,ブルガリアの輸出は大幅に減少している。このような輸出パフォーマンスの相違の要因は,①為替レートや賃金動向,②貿易品目等にあったと考えられる。以下では,回復が先行している国(生産回復先行国,安定化先行国)と,遅れている国(生産低迷・未安定化国)に分けて輸出パフォーマンスの相違の要因をみてみよう。

(為替レートと賃金の動向の相違)

まず,回復が先行しているハンガリーとチェコについてみると,為替レートの面からは,政府が設定する公定レートの割高度に相違がある。購買力平価レートをその国の経済実勢を反映した為替レートだと考え,1米ドルあたりの各国通貨建て単位で表示された購買力平価レート(Plan Econ社試算)を公定レートで除した値(この値が相対的に大きいほど公定レートが相対的に割高に設定されていることを意味する)を比較すると,ハンガリーの方がかなり高く,チェコに比較して相対的に割高なレートで推移している(第1-4-5図①)。ハンガリーでは93年から貿易収支改善のための断続的な為替切下げを行ったことで実質実効レートの増価が弱まっているものの,94年前半の時点では依然相対的に割高なレートとなっているといえる。その結果もあリドル建て賃金はチェコより高い水準となっている(第1-4-5図③)。

一方,回復の遅れているルーマニアとブルガリアについてみると,購買力平価レートを公定レートで除した値は93年はそれほど大差ないが,92年との比較でみるとブルガリアの方が比率がより上昇しており,実質実効レートをみると,ブルガリアで増価が著しい(第1-4-5図②)。また,ドル建て賃金をみると,ブルガリアの方が高い水準となっており,ルーマニアは前年と比較して減少さえしている(前掲第1-4-5図③)。

このように,ハンガリーとブルガリアの輸出不振を生む要因の一つは,割高な為替レートの設定と,その結果としての賃金などのコストの相対的な高さであると考えられる。

)。

(輸出品目の相違)

また,貿易品目をみると,92年の東ヨーロッパ各国の輸出品目の内,農産物,食料品の占めるシェアに相違がみられる。回復が先行している国の中ではハンガリー,遅れている国の中ではブルガリアが最も高く,25%近くを占める一方,他の諸国はいずれも10%近くであった。この結果,93年の干ばつによる東ヨーロッパ全般の農業生産の低迷は,ハンガリーとブルガリアの輸出に最も悪影響を与えたと考えられ,実際,93年のハンガリー,ブルガリアの農産物,食料品輸出は,それぞれ前年比25.9%減,27.8%減であり,輸出全体の低迷に影響した。

このように,ハンガリー,ブルガリアでは,農産物,食料品の占めるシェアが相対的に高く,天候等の不確定な要素の影響を受けやすい構造であることも,輸出不振の要因の一つと思われる。

(輸出主導の回復へ)

東ヨーロッパ諸国の輸出と生産の関係については,輸出主導の生産回復というにはまだ不十分である。現在,成長回復の要因は内需拡大による方が大きいが,国内市場の小さい東ヨーロッパ諸国の高度成長の源泉は将来的には外需に求めざるを得ない。東ヨーロッパ諸国が93年中に対外収支改善を企図して行った為替切下げなどの価格面の輸出促進策は,為替切り下げのペースを上回る物価上昇のため実質的には不十分であった。物価安定と実質的な為替切下げは,中長期的には輸出産業分野の収益性を高め,その部門の投資増,生産増にもつながる。東ヨーロッパで最も安定化が進んでいるチェコで輸出も好調なように,物価安定等のマクロ安定化をまず達成し,名目的な為替切下げが実質的な切下げにつながるようにさせることが,輸出主導による自律的な経済成長にとって重要であろう。