平成5年

年次世界経済報告

構造変革に挑戦する世界経済

平成5年12月10日

経済企画庁


[前節] [次節] [目次] [年次リスト]

第2章 持続的成長及び市場経済化の条件

第5節 成長著しい中国経済の課題

中国経済は経済改革・対外開放政策の下,高成長を続けている。81~90年を通じた平均成長率(実質)は9.1%と高く,90年代に入っても92年は前年比13.0%となり,93年も13%の成長が見込まれる等,引き続き経済は急テンポで拡大している。-対外経済面でも80年代以降の中国の成長は著しい。貿易総額をみても,79年から92年までの13年間で,輸出は6.2倍,輸入は5.1倍に増大し,92年は貿易額では中国は世界第11位に位置する貿易大国となっている。

このような急成長を遂げた中国経済に対して,国際的な関心も次第に高くなっている。92年には,世界銀行が中華経済圏(中国に台湾,香港地域を含めている)の経済規模を評価し,購買力平価で換算すればこの地域の経済は2002年までに米国の規模に達するとの見方を示した。またIMFも,独自の手法で中国経済の実力を購買力平価で推計し,既に世界第3位の規模にあると評価している。一人当たりの経済水準でみれば中国はまだ途上国のレベルにあり,上記のような評価については見方の分かれるところであるが,11億の人口を抱えた中国経済の発展は世界経済に対する影響も少なくなく,その行方について注目されている。

ただし,中国経済も急成長を遂げた一方で問題点も多く抱えている。中国は現在,「社会主義市場経済」という新しい目標を掲げ,経済の市場化を進めている。すなわち,中央政府の指令の下に-経済を動かしてきた計画経済体制から,市場経済システムを採り入れた経済体制へと,中国の経済体制は過渡期にある。このため,市場経済システムを支える土壌(法制度,金融・財政システム,人材育成等)が十分に確立されていない。またインフラ整備の遅れも経済発展の足かせとなっている。中国経済は過去4回にわたり過熱化とその後の調整期とを繰り返している。中国経済の過熱化しやすい体質の背景には,このような問題があると考えられている。

これらの問題点を解決するためには,①市場経済体制に必要な諸制度の確立と,②持続的成長に耐えうる経済の基盤強化が必要となる。①については,経済活動に関わる法規制の成立(企業法や契約法など),銀行制度の強化などが,また②については,基幹産業や交通網等のインフラ部門の強化が求められる。

以下では,中国経済の抱える問題点と今後の課題について,①92年後半より生じている経済の過熱化,②地域格差の拡大,③最近の貿易の自由化の進展状況,の3点を゛取り上げつつ検討することとする。中国経済が今後順調に拡大できるかどうかは,これらの問題点をスムーズに解決できるかどうかにかかっているといえるだろう。

1 経済過熱の現状と対策

(1) 92年後半から始まった過熱化

中国経済は,87,88年と過熱化した経済の鎮静化を図り,88年後半より経済調整期に入った。引締め政策を採ったことから投資,消費共に減退し成長率も鈍化した。鉱工業生産額も90年第1四半期には前年同期比横ばいと落ち込み,国営企業の中には資金不足から経営を更に悪化させる例も増加した。このため,中国政府は物価の安定化を受け七,90年半ばより引締め政策を緩和し,金利の引下げ等により経済の活性化を図った。

この結果次第に成長の速度を速め,90年に前年比4.1%に落ち込んだ成長率も91年には同8.2%と高まった。しかし,その後成長率の高まりとともにマネーサプライも急増し物価も上昇を始め,92年後半から経済は過熱状況を呈している。

物価の動きをみると,小売物価上昇率は,92年第4四半期から高まり,93年に入ると上半期で前年同期比10.5%と高い伸びが続いている。都市部ではさらに伸びは顕著で35大・中都市の生計費指数上昇率は,93年上半期で前年同期比17.4%,特に6月は前年同月比21.6%の上昇と高まった。

(今回の過熱化の背景)

92年後半からのインフレの要因としては,①価格体系の見直しの影響,②過剰な投資に伴う資本財の需給のひっ迫,③資金需要の増大に伴うマネーサプライの急増などが挙げられる。

① 価格自由化の一層の推進

中国では79年より硬直的な価格体系の見直しが進められており,90年代に入った榎も更に進展がみられる。資本財や穀物類,エネルギーの価格については,経済への影響が大きいことを理由に,これまで価格の自由化が消費財に比べてより慎重に行われてきた。しかし近年これらの価格についても価格統制の緩和が進みつつある。例えば,石炭は92,93年と部分的に価格自由化を進めているし.,石油製品の価格も93年より部分的に買付け価格を国際価格の水準まで引き上げている。鋼材も93年1月より軍需用,農業用,鉄道建設用を除いて原則自由化された。また,穀物や食用油についても91年5月の販売価格引上げに続いて,92年4月には政府の買付け価格と販売価格を同時に引き上げた。広東省ぞは92年4月,北京では93年5月より販売価格を全面自由化し,93年半ばの段階では90%以上の県・市で販売価格自由化が実施されている。小売物価上昇率の内訳をみると,91,92年と上昇率が高いのは燃料類と穀物類の価格であり,価格自由化の影響も現れたものとみられる(第2-5-1図)。中でも,穀物価格は91年前年比8.6%の上昇から92年は同24.3%の上昇へと急速に高まっている。

② 過剰投資による影響

投資の動きを基本建設投資総額(実質)の推移からみると,88年第3四半期~89年第4四半期の間前年同期比で減少を続けていたが,その後90,91年と次第に拡大し,92年第1四半期以降は急速に増勢を強め,93年第1四半期は前年同期比で61.0%の増加となった(第2-5-2図)。このような投資の急速な拡大の牽引役となっているのは建設投資である。建設投資の動向を建設着工面積からみると,91年前年比14.1%増の後,92年は同32.6%増と大幅に増加した。固定資産投資額に占める商品住宅建設のシェアも,91年6.9%,92年9.5%と高まっている(第2-5-3図)。

経済改革の一環として中央政府から地方政府へと権限の委譲が行われているが,投資活動に対しても地方政府の自主裁量権が拡大されている。中国では,現在「第8期5か年計画」(1991~95年)が進行しているが,93年春の全国人民代表大会ではこの計画期間の成長目標が平均8~9%へと上方修正された(当初は6%成長が目標)。中央政府の採った高成長路線に従い,地方政府も地域開発に積極的に取り組んでいる。基本建設投資額の内訳をみても,91,92年と地方の寄与がより高まっている(第2-5-4図)。

このような建設投資の急増は,建築資材の需要を圧迫し,鋼材や木材,セメント等の建築資材価格を急騰させることとなった。資材価格の上昇を建築業(国有部門)の建築コストを示した統計からみると,鋼材の価格は92年に前年比24.6%,木材価格は同12.6%上昇している(第2-5-5図)。

③ マネーサプライの急増の影響

マネーサプライは,金融緩和を始めた90年半ばより急速に伸びを高めている。Mlの動きをみると,89年第3四半期に前年同期比0.8%減となった後は次第に高まり,90年第3四半期には19.4%増と急増,92年以降は30%台の高い伸びが続いている(第2-5-6図)。国内需要の拡大に伴い企業に対する貸付残高も伸びは高く,90年第2四半期に同21.0%増に達した後は20%台での増大を続けている。

銀行の融資総額も増大している。前年比でみた増加率は91年19.0%増の後,92年は19.8%増となった。融資総額の大半は国有工業企業向けで占められているが,最近増勢の強いのは非国営企業や建設業向けの融資である(第2-5-7図)。

(前回の過熱期との相違点)

中国は,改革・開放路線を開始した79年以降,経済の過熱期と引締め期とを交互に繰り返している。前回の過熱化は87~88年に生じているが,20%を超えるインフレの高まりと実質賃金の低下は国民生活を圧迫し,政府は88年後半から経済の引締めに着手することとなった。

前回と今回の過熱期とでは,幾つかの相違点が存在する。まず第1に,今回は投資の急増が顕著だが,消費は比較的落ち着いた動きをみせている点が挙げられる。国内の投資と消費の動向(実質)をみると,前回の過熱期87~88年には,消費の伸びは高かったが投資の動きはむしろ落ち着いており,今回の過熱期とは対照的な動きがみられる(第2-5-2図)。

不動産や株式に対して投機的な投資が拡大した点も今回の過熱期の特徴の一つとして挙げられる。不動産向けの投資総額は,92年は前年比117%増(732億元)の後,93年上半期では前年同期比で143.5%の急増(274億元)となった。

中国では,社会主義体制の下,全ての土地は国有となっているが,その使用権については有償での譲渡が認められている。地方政府にとっては地域開発のための資金が必要であり,土地の有償譲渡も資金の調達手段として必要視されている。中国政府が,住宅の商品化を目指し住宅建設を強化し始めたことも,国内の不動産開発に対する関心の高まりに影響を与えたとみられる。また,第3次産業への外資の参入を部分的に認めたことがら香港,台湾資本が不動産部門に参入するケースも増大しており,国内の不動産ブームに拍車をがける要因の一つともなっている。

証券取引についても90,91年に2つの取引所(上海,深川)が開設されて以後,取引高は次第に増大している。92年末の時点で上海取引所に上場している株式は73銘柄,時価総額は前年比535.5%増の640億元に達した。92年年間の取引高は648億元,前年比で7倍の増加となった。深馴取引所でも92年は取引高が前年比12.1倍増の424億元に達する等,急速に証券市場の規模は拡大している。

しかし,92月8月の深での新規株式購入の取付け騒動にみられるように,証券取引制度はまだ未成熟であり,政府も国家証券委員会と中国証券監督管理委員会を設立,同時に証券取引に関する法整備を進めている。

(2) 過熱化への対策の必要性

今回の過熱化については,前回での経験が活かされ,比較的迅速に引締め政策が採られた。前回中央政府が経済の引締めの必要性を認識し,金利引上げを行ったのは,88年9月だが,この時既に小売物価上昇率は20%を超えており,89年後半に入ってようやく物価上昇率は過熱化以前の水準に落ち着いている。

今回は小売物価上昇率が10%を超えた時点で金利の引上げを実施しており,より早い段階で引締め政策が採られている。

中国では,引締めの手段として,従来,銀行の貸付額の縮小,投資プロジェクトの規制,社会集団消費(政府関係機関,国有企業などでの梢費)の抑制など,行政主導の直接的な調節手段が採られてきた。このような対策は中央政府の統制力が強い計画経済体制の下では一定の効果を果たすことができる。しかし,経済の市場化を進める中国では,次第に直接的な需要抑制策のみでは経済の動きを調節することが困難となりつつある。このため,中国でも市場経済化の進展に対応した調節手段が必要となってきている。

(中央政府の採った引締め政策)

経済の過熱化が問題視され始めた92年第4四半期,中国人民銀行は各専門銀行に対する貸付枠の縮小を決定した。金利調整の面では,93年5,7月の2度に渡り預金・貸出金利の引上げを実施,更に3年物以上の定期預金金利に対しては物価スライド制を導入し,同時に国債の利率も引き上げた。また,今回の過熱化の原因とみられている地方の過剰投資を抑制するため,既存の開発区を整理するともに今後の開発区設置に対して規制を行っている。

引締め政策の導入により経済の過熱感には緩和の兆しがみられる。まず,鉱工業生産額は7月より増勢がやや鈍化しつつあり,前年同月比の増加率をみると,6月30.2%増の後,7月同25.1%増,8月同23.4%増となった。急増を続けていた固定資産投資總額(国有部門)も,6月同70.7%増の後,7月同68.5%増,8月同58.1%増と増勢にやや鈍化の兆しがみられる。また物価については,全体の上昇率は依然高いものの,項目別にみると需給ひっ迫から価格が高騰していた鋼材や化学原料,自動車についても,7月以降販売量が減少,価格の上昇率は低下しつつある。

しかしまだ予断は許されず,35大中都市の生計費指数上昇率は7月前年同月比23.3%の上昇,8月同22.2%の上昇と高率の上昇が続いている。中国経済が過熱から安定へとソフト・ランディングできるかどうかは,中国の経済改革・対外開放の進展に対しても影響を与えうるであろう。中国の対外諸国に対する開放政策と,経済の安定的な成長は,アジア,ひいては世界にとって極めて重要であり,今後の中国経済の動向については引き続き注視が必要である。

(金融制度の整備)

93年7月,中央銀行である中国人民銀行の総裁を兼任した朱鎔基副首相は,引締め政策の実施について,経済活動の総量規制と同時に金融制度の整備が必要だと発言している。この発言からも,中国政府が経済過熱化の根本的な原因として,金融制度の未熟さを認識していることがうかがえる。

経済の発展に従って国内の通貨供給量は急速に拡大している(第2-5-8図)。M2(現金通貨+銀行預金)の規模は,81年には名目GNP総額の41.1%だったが,92年にはほぼ同じ規模にまで拡大している。経済の安定的な成長を促す上でも,過剰な通貨供給量は適当な水準までに引き下げる必要がある。高度成長期にある現在の中国では,潜在的な資金への需要圧力も高いが,これを野放図に認めることは過熱化を引き起こすことになる。このためマクロ管理能力を高める必要があるが,とりわけ金融制度の整備が重要な課題となる。

93年6月,政府は金融制度の整備を図るため16項目の対策を掲げたといわれている。この中では,①非金融機関(いわゆるノンバンク)の非合法な債券発行による資金調達の禁止,②金融機関が非金融機関に対して貸し付ける資金の整理など,金融秩序の是正も挙げられている。資金需要が増大する中,企業や地方政府は銀行借入のみでなく様々な手段で資金調達を行っている。非金融機関の設立も増加し,非金融機関を経由した銀行の投資資金融資が拡大している。また,企業が独自に高利で債券を発行し,資金を調達するケースも増えている。こうした動きに対応するため,金融制度を見直すことは必要ではあるが,同時に国民の貯蓄を促進しつつ,円滑に金融機関に吸収しうる金融制度を確立することも必要である。その際,直接金融の拡充を図るため,債券,株式市場の一層の整備も求められる。

銀行制度についても改善すべき点は多い。まず人民銀行は中央銀行としての役割に徹するとともに,各支店や専門銀行に対する監督機能を強化することが必要である。また,銀行が独自の判断で効率的な融資を行なうよう,銀行に対する政府の経営干渉を排し,銀行の独立採算性を確立することも求められる。

(ボトル・ネックの解消が不可欠)

過熱化が生じる背景には,社会基盤が弱く,ボトル・ネックが発生しやすいという中国経済の弱点がある。中国政府は,インフラ部門の強化を投資の重要課題として掲げているが,実際は利潤率が高い加工産業やサービス関連業へと投資資金が流れる傾向がある。

中国では投資の項目は生産性投資と非生産性投資とに大別される。非生産性投資とは,住宅建設,文教関連施設,研究機関,公共事業などを含む概念だが,91,92年とこの非生産性投資の寄与度が拡大している(第2-5-9図)。88年の過熱期にも,公民館やホテル等の建設が地方政府主導で活発となり非生産性投資を増大させたが,今回も別荘やホテル,ゴルフ場等の建設が増加するなど同様の現象が生じている。市場原理に基づけば,より利潤率の高い分野に資金が流れるのは自然な現象ではあるが,中国においてはまだインフラ整備,基幹産業の供給能力の強化を図ることが経済発展を進める上で不可欠であり,政府が中心となってこれら重点部門に資金を分配するよう配慮する必要がある。

また,国家の重点プロジェクトヘ資金を配分し,その管理・監督を行なう機関として,政府系金融機関の設立も必要であろう。これらの課題については中国政府も着手を始めており,来年には開発銀行の設置を予定,商業融資と政府系融資とをともに管理する中国の銀行制度を改めるとしている。

2 地域の経済格差

高成長を続けてきた中国も,地域によりその経済パフォーマンスは異なっている。中国は,経済発展の手段として,「先富起来」(豊がになれる所を優先して発展させる)を掲げ,沿海地域に対して,経済特区の設置,地方政府の許認可権の拡大など優遇的な措置を付与してきた。結果として,沿海地域では地域開発が活発に進められ,成長率も全国水準を上回る高い伸びを続けている。特に3つの経済特区を有する広東省の成長は顕著で,福建省と共に「華南経済圏」を形成しており,21世紀にはアジアの四龍(韓国,台湾,香港,シンガポール)に追いつくという計画を掲げている。

しかし,内陸の農村部へ目を向けるとまだその経済水準は低く,四川省の農家一人当たりの純収入は91年で111ドル,安徽省は84ドノ凶とすぎず,農村がら都市へと労働力が移動する「盲流」現象が生じている。また,農村部では農家に対して様々な課徴金が課せられており,そもそも低所得である農家の生活を更にひっ迫させている。93年は,四川省の農村などで,数回にわたって農民の抗議運動が発生した。農民に対する様々な課徴金や,農産物に対する政府の支払いの遅延(「白条」と称される証書のみが渡されている)なども今回の不満の対象となっているが,このような所得の相対的な低さが農家の反感を買う基本的な要因であったとみられる。

農業生産自体も生産性が低迷しており農村部の経済を鈍化させている。中国はいまだ農村部に人口の8割を抱えている農業国でもあり,農業の強化は,経済の安定的な成長を促す上で必要な課題でもある。

農村部の経済活性化については中国政府も改善すべき課題として重視している。93年春の全国人民代表大会でも,①農産品の買い付け価格の引上げ,②潅漑設備など農業インフラの強化,③農村部の企業である「郷鎮企業」を内陸部にも発達させること,④農民に対する様々な負担金の軽減等の政策が示された。

(1) 沿海と内陸との経済パフオーマンスの違い

沿海地域とその他の地域との経済パフオーマンスを比較すると(第2-5ー10表),沿海地域は,面積では全国の13.5%に過ぎないが,人口が集中し所得水準も高く,一人当たりのGNPをみても中部地域の255ドルに対して421ドルと高くなっている。工業生産額は全国の63.7%を占め,外資優遇地区が点在することから直接投資の受入額も大きく85.1%が沿海地域に集中している。また,輸出総額の68,9%は沿海地域が担っている。「第6期5か年計画」(81~85年)期,「第7期5か年計画」(86~90年)期の国家投資総額の地域配分をみても,ともに沿海地域に大半の投資が集中していたことが分かる。

沿海地域の急成長は中国経済全体の発展に大きく寄与したが,その一方で内陸部との経済格差も生じている。一人当たりGNPを用いて91年の地域ごとの経済水準を比較すると,内陸部の青海省は300ドル,東北部の遼寧省は500ドルであるのに対して,上海市は1,100ドル,広東省の都市,広州市では1,200ドル(GDP)と高く,深圸経済特区では2,700ドル(GDP)にまで達している(第2-5-11図)。成長率でも,全国では前年比7.4%だったが,広東省は同17%,深馴経済特区では同23%と急成長を遂げている。

中国全体の産業別のGNP成長率をみると,第1次産業が鈍化する一方で第2次産業が急速に伸びており,工業化の進展がうかがえる(第2-5-12図)。この趨勢に対応して成長を高めているのは主に沿海地域であり,内陸部ではまだ第1次産業に対する依存が高く,産業構造の変換があまり進んでいない。各省ごとに成長率と産業構造変換の度合いの相関性を比較すると,広東省,福建省,浙江省,江蘇省,山東省といった沿海中南部地域の各省は工業化を促し経済成長を高めてきたことがわかる(第2-5-13図)。

(低迷する農業生産)

中国が経済改革の着手にあたって最初に取り組んだのは農業部門の改革である。79年にその第一歩として,①個人農家の創設,②農産品価格の政府買付け価格の引上げ,③農業投入財の販売価格の引下げ等の措置が実施された。これら一連の農業改革は,農業の生産性を向上させ農村経済の活性化に大きな役割を果たした。

しかし,84年以降,経済改革の重点が都市部の企業改革へと移るとともに,農業の生産性の向上は鈍化した。穀物の土地生産性の推移をみると,79~84年の間急速に上昇したが,その後は豊作だった90年には若干向上しているものの横ばい推移となっている(第2-5-14図)。

農業生産が伸び悩む背景には,①農業向け投資の低迷,②耕作地の減少,③農業の交易条件の悪化といった問題がある。農業向け投資の動きを基本建設投資の内訳からみると,81年に農業向けのシェアは6.6%だったが,91年には4.0%に低下した。その一方で,重工業向けのシェアは39.0%から47.O%へと拡大している。また,穀物耕作地の推移をみると79年から耕作地は減少傾向にある(第2-5-15図)。92年には各地方政府が地域活性化のために開発区を設置するケースが増大したが,用地確保のため農地を収用する地域もみられた。また,農業の交易条件は価格体系のゆがみが影響し悪化しつつある。交易条件(農産品の販売価格と農業投入財の購入価格との比)をみると,79年には前述の価格の見直しから交易条件は大きく改善したが,その後大きな改善はみられず,89年からはむしろ悪化する傾向にある(第2-5-16図)。農業機具や肥料など投入財の価格が上昇する一方で,穀物類の政府買付け価格の見直しが80年代半ば以降比較的進んでいない点が,交易条件の悪化の原因となっている。

農業の低迷は農村部の所得にも影響し,85年以降の都市部と農村部との実質所得を比較すると所得格差は年々拡大する傾向にある(第2-5-17図)。

(比較的成長の速い沿海農村地域)

農村部の中でも地域ごとに経済状況に違いがみられ,沿海地域に位置する農村部がより経済成長の度合いが高い。農家一人当たりの収入の推移を地域別にみると,広東省,江蘇省等の沿海地域の農村部では内陸地域よりも収入の伸びが高くなっている(第2-5-18図)。

同じ農村部で経済発展に差が生じるのは,農村内の経済の多様化,つまり農業一辺倒の経済体制が地域によっては変化を遂げつつあるためである。

農村部における農業従事者の割合をみると,安徽省,四川省では91年の時点でも80%以上,貴州省では90%以上に達している。これに対して広東省では,85年から91年にかけて急速に低下し,91年の農業従事者の割合は65%に低下し,江蘇省でも62%と更に低い(第2-5-19図)。第2次,第3次産業の発展による農業部門の過剰労働力の吸収は農業の生産性も向上させる。農業の労働生産性を地域ごとに比較すると,安徽省,四川省,貴州省に比して,広東省,江蘇省では生産性が高くなっている(第2-5-20図)。特に広東省は次第に生産性が高まる傾向にある。農業生産性の向上は,結果として農業従事者の所得を向上させ,農村経済全体の成長を促すことともなる。

(農村経済活性化への対策)

農村経済の発展を促し,地域の経済格差の是正と中国経済の根幹である農業の強化を図るということは,中国政府にとっても重要な課題となっている。

中国政府は,93年6月,農民の負担軽減に関する政策を発表,農村経済の活性化を図ろうとしている。この中では農民に対する課徴金について37項目が廃止されることとなっている。ここで挙げられている項目には,農村宅地の使用料,農地建設の資金負担,水利・電力建設の資金負担や学校の費用調達などがあり,これまで多岐に渡って農民の収入が圧迫されていたことがうかがえる。

3 国際社会と融合する中国

中国の対外経済面に目を向けると,貿易や対外直接投資の受け入れ等対外諸国との経済的な結びつきは急速に高まっている。しかし,中国では貿易活動や外資導入について中央政府の管理が強く,またこれらに関する法・制度が曖昧で対外的にわかりにくくなっている。中国政府はGATTへの参加を望んでおり,この審査を通過するためにも更なる貿易の自由化が求められる。

(輸出競争力は次第に強化)

対外開放政策を進める中国では対外貿易も活発に拡大している。中国の貿易量は92年で世界第11位となり世界貿易の中での中国の地位は高まっている。

また貿易の規模が拡大したのみでなく,輸出商品も一次産品や労働集約型製品から次第に資本・技術集約型製品へと高付加価値化が進んでいる。85~91年の間の中国の輸出特化指数の推移をみると,ゴム製品や繊維製品,衣類,靴などの労働集約型製品は85年から既に競争力が高く,その後の特化指数の動きにはあまり変化はみられない(第2-5-21図)。金属関連の特化指数は91年も依然マイナスとなっているが,85年と比較すると次第に指数は高まっており,特に鉄鋼,非鉄金属などは顕著で製品の輸出が高まりがみられる。また,85年にはほとんど輸入に依存していた機械製品も急速に特化指数が高まっており,通信機器などでは91年には特化指数がマイナスからプラスに転じている。

(進展する貿易制度の自由化)

諸外国との貿易取引の拡大に伴い,中国に対しても,国際ルールに沿った貿易活動が強く求められつつある。中国の貿易制度は,制度改革が進められているとはいえ,いまだ不合理,不透明な部分が多い。ただし中国政府もGATTへの参加を申告中であり,その準備作業として貿易の自由化政策を徐々に進めている。

以下では,中国が取り組んでいる自由化措置についてみることとする。

① 通貨の交換性の一部回復

93年3月に人民元の国外持ち出しを制限付きで許可することとなった。

現在中国では,公定レートとは別に外貨調整センター(注1参照)での取引で決定される市場レートがあり,複数の為替レートが存在している。また,国内の外国人向けの通貨である外貨兌換券(注2参照)は元がより高めに設定されているため,人民元と外貨兌換券を交換するという非合法な行為も行われている。公定レートは92年4月より変動フロート制へ移行,市場レートとの統一を目指しているが,市場レートの方も,貿易収支の赤字転化等の影響から,92年より次第に下落しており93年6月の中国人民銀行の大量のドル売りにより,1ドル=8.7元程度にまで戻したものの,公定レートとのかい離は大きくなっている(第2-5-22図)。中国政府は,今後5年間で為替レートの一本化を図る方針である。

② 関税の引下げ

中国の関税率は,加重平均で約20%であり,GATTに参加している途上国の水準(13~14%)より高率になっている。特に,自動車,電気製品などに対しては100%を超える高い関税が課せられており,政府も91年よりこれらの関税引下げを進めている。91年1月に225品目,92年12月には3,371品目の税率を平均7.3%引き下げた。また,一部の輸入商品に対して課せられていた輸入調節税も,92年4月に廃止されている。今後も,政府は関税引下げを進め,今後3~5年で加重平均関税率を50%引き下げる方針を示している。

③ 輸出入管理の緩和

中国では,貿易活動に対して行政的管理を行っており,一定の商品については輸出入を制限している。対象となった商品については,国家の計画に基づき輸出入量を割り当てる割当管理制度や,取引に際して許可証の取得を義務づける許可証制度が採られる。

これらの規制も緩和される方向にあり,例えば,輸入許可証制度については,今後4年間で全53品目のうち,46品目の許可証を廃止する方針が示されている。

④ 外資に対する参入規制の緩和

これまで規制されていた,小売業についても,92年末より外資の参入を部分的に認めている。許可されたのは,北京,上海などの5都市と,5つの経済特区で,既に日本の流通企業も中国への進出を進めている。

(GATT参加を目指す中国)

中国は,1948年,中華民国時代にGATTに参加したが,中華人民共和国の成立後台湾に移った中華民国の政権がGATTを脱退したことから,事実上参加国からは外れることとなった。その後86年より中国政府はGATT参加を申請し,GATT側も参加についての作業部会を設置,準備作業を進めてきた。89年の「天安門事件」の発生で,交渉の進展は停滞したが92年より再開している。

ただし,参加となれば国内の生産品は外国製品との競争にさらされることとなり,それまで政府が保護してきた国内産業は大きな打撃を受けることとなる。前述の通り,衣類,靴類などの労働集約型産業は国際競争力が高いが,ようやく成長しつつある自動車や電気機械はまだ国際競争力が低く,輸入規制の緩和の影響も大きいとみられ,今後は国内産業の競争力強化が必要となる。

中国がGATTへの参加を強く望むのは,国際社会での信用度を高めると同時に,参加によって締約国から一般的最恵国待遇が取得でき,また貿易摩擦が生じた場合の公式の交渉の場を持つことができるなどのメリットを重視しているためである。中国の貿易体制にはまだ改善すべき点が多く,今後国外に対してより一層開かれた貿易体制を採ることが必要であるが,このことは中国の経済市場化を間接的に促すことともなる。