平成3年

年次世界経済報告 資料編

経済企画庁


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II 1990~91年の主要国の政策動向

第14章 中南米

2. ブラジル

ブラジルでは,90年3月に発足したコロール政権は,輸入代替政策に端を発するこれまでの国内産業保護政策を放棄し,ブラジル経済の開放を通じて自由競争による効率的な経済を追求する方向へ政策を転換した。具体的には,90年3月,91年2月の2度にわたる「コロール・プラン」によって赤字財政の改革およびインフレの克服を目指し,経済体制の再構築を図っている。

(1)通貨政策

従来の,過剰流動性を放置したままでの賃金・物価統制が,結局は過大な需要を生むことでことごとく失敗に終わったことを踏まえ,90年3月に実施されたコロール・プランでは流動性の圧縮を主眼に,貯蓄性預金を含む預金凍結が実施された。具体的には,通貨を新クルザードからクルゼイロに切り換える過程で預金引き出しに限度額を設け,それを上回る額については中央銀行に強制預託させることとした。この結果,90年3月の実施当初は通貨量のほぼ67%が凍結され,マネー・サプライ増加率(M4)は2月の前月末比75.2%から3月には同マイナス21.3%へ急低下した。

こうした預金凍結策は91年2月の第2次コロール・プランにも引き継がれているが,産業界の資金繰り悪化による経済活動の低下や,企業の賃金支払い困難等の問題に対応するため,一部流動性を緩和するなどの微調整が行われている。

(2)所得政策

コロール・プランにおける所得政策は,慢性化したインデクセーション方式による賃金決定が高インフレの原因との認識を背景に,基本的には労使の自由交渉による賃金決定と政府のコントロールを廃した自由な物価形成を実現することを主眼としている。具体的には当初1か月間は賃金・物価を凍結し,その後,政府のインフレ目標に基づく賃金・物価の統制期間を経て,90年5月以降物価は一部製品を除き自由化,賃金も労使交渉による決定への移行が推進された。

しかしながら,物価・賃金の凍結解除と同時にインフレが再燃する体質は改善されておらず,90年7月以降インフレは昂進した。更に,これに対応して91年2月の第2次コロール・プランで賃金・物価再凍結が行われたが,これが6月に解除されると,インフレは再び騰勢を強めている。

(3)為替政策

ブラジルでは,為替政策に関しては68年以降クローリング・ペッグ制がとられ,インフレ率に応じて小刻みな為替切下げを実施してきたが,コロール・プランでは変動相場制への移行がなされた。

変動相場制移行後は,流動性の圧縮による極端なクルゼイロ不足を背景にクルゼイロ高が続き,政府の再三の介入にもかかわらず為替レートの切下げ率がインフレ率を下回る状態(実質的な為替切上げ)が持続している。

(4)財政改革

コロール・プランにおける財政改革は,赤字財政の改革を主眼とするものであり,①国営企業の民営化,②行政改革,③税制改革を柱としている。

国営企業の民営化は,財政赤字削減の切り札として期待されたが,労働組合側の反対などもあって再三のスケジュール変更を余儀なくされており,91年10月にようやく第1号としてウジミナス製鉄所の株式競売が実施されるなど遅々として進んでいない。

行政改革については,行政機関の統廃合とそれに伴う公務員の削減が中心となっている。具体的には,現在の23省体制を12省体制に再編整理したほか,行政機構,基金,公社等の政府機関のうち24機関が廃止された。

税制改革では,主として課税の強化と補助金の廃止に取り組んでいる。課税強化の面では,①貯蓄性預金を含むすべての資金運用を対象とした金融取引税の導入,②奢侈品を中心に工業製品税の税率引き上げ,③農業所得への課税,④大型資産税の導入,等が実施されたほか,輸出所得に対する各種減税措置や,輸入税の減免措置の等の優遇税制の廃止も実施された。

(参考)


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