平成3年
年次世界経済報告 資料編
経済企画庁
II 1990~91年の主要国の政策動向
第10章 台 湾
中国の対外開放政策と,台湾の規制緩和の進展に従い,80年代より台湾・中国相互間のヒト・モノ・カネの往来が活発化している。
政治面の交流については,台湾が従来掲げていた「三不政策」(接触せず,交渉せず,妥協せず)にみられるような断絶状態が続いていたが,91年には台湾側で新たな動きがみられた。まず,4月の臨時国民代表大会で,中国共産党を反乱団体と規定する「動員反乱鎮圧時期条項」廃止が議会承認された。4月末には,李登輝総統が,中国共産党との「内戦」状態を5月1日より終結させるとの宣言を正式に表明した。この結果,中共政権は「大陸当局」と位置づけられ,一つの政治実体として認められることとなり,今後の中国・台湾の対立緩和が進むとみられている。
経済面については,80年代に入り,投資,貿易等の交流が活発化している。
貿易は,90年に中国向け輸出が前年比13.2%増,輸入が30.4%増と拡大した後,91年には増勢が更に強まり,1~9月で輸出が前年同期比76.1%増,輸入が同106.9%増となっている。貿易収支は台湾の大幅出超となっており,同期の黒字は19.8億ドルとなった。中国は台湾の貿易相手国としては既に第5位の位置にある。中国向けの投資(香港等の第三地域を経由)も好調である。中国側の統計によれば,90年末の累計で治湾からの投資は約2,000件,金額にして20億ドル以上とされている。90年は特に活発で,単年で約1,000件の投資が行われた。91年も,タイヤ・メーカーの正新稼曜工業の2,000万ドルの大型投資案件が当局により許可される等,活発な投資活動が続いている。91年に入り,中国向け投資についての統計が公表され出したが,これによれば91年1~11月期累計の投資金額は1.5億ドル,台湾の海外直接投資金額全体に占める割合は9.9%となっている。
投資については,従来台湾当局が中国への直接的な投資を禁止し,第3地域を経由した間接的な投資については黙認していたため,民間企業は香港等を経由して投資を行っていた。しかし,90年10月に第3地域経由の投資を許可する品目,業種リストが公表され,以後はリスト内の品目においては事後申告を行えば,投資活動が合法化されることとなった。許可されたのは3,353品目で,これらの品目については100万ドル以下なら6カ月以内の事後申告,100万ドル超なら事前申告が必要となる。許可品目数は,91年4月に3,679品目に増え,総品目数の52%に達することとなった。
90年10月には同時に,既に中国へ進出していた企業に対して,91年4月までに投資審議委員会へ申告を行うよう通達が出され,期日までに2,503件の申告が済まされた。未申告業者に対しては,今後行政処分が行われることとなっており,今まで当局でつかめなかった中国への投資活動状況が明らかにされることとなった。
ただし,サービス業の投資については,当局も慎重な姿勢をとっており,現段階では,2段階(第1段階では,金融・証券業以外についてケースバイケースの許可制,第2段階ではポジティブリストを作成し,それに従った許可制へと移行)に分けてサービス業投資の開放を進めでいくとの方針が示されている。
91年8月末には,中国への間接送金が解禁された。行政院で,「現段階における金融機構の対大陸地区間接為替送金取扱い作業要点」が承認され,これにより,台湾在住民の外為公認銀行,郵便貯金局から第3地域の銀行経由での中国への送金が認められることとなった。送金限度額は,現行の外貨送金の取扱いに準じ,一人当たり年間300万ドルが上限とされた。また,経由する第3地域の銀行の範中には,台湾・中国の銀行の海外支店や,台湾・中国の住民が50%以上出資している銀行は入らない。10月末の台湾の報道によれば,解禁以来月平均約1,000万ドルの送金が行われているとされている。
人的交流の面では,従米「三不政策」に従い中国大陸からの台湾訪問については,共産党党籍離脱宣言書の提出等入境のための条件が厳しく規定されていた。しかし,91年8月,台湾当局は,中国国営の新華社通信の記者が台湾を訪問することを許可した。この訪問は,台湾に拘束されている中国漁船員の送還手続きのため,台湾に入境する中国赤十字スタッフに同行するものであった。
中国との交流組織として,台湾は90年に「国家統一委員会」(統一に向けて設置した総統府の諮問機関),「行政院大陸委員会」(大陸政策の調整,執行機関),「海峡交流基金会」(大陸委員会から事務処理の委託を受ける民間機関)を設置した。中国側は91年12月に「海峡交流基金会」との交渉窓口として新たな民間団体,「海峡両岸関係協会」を設置した。