平成3年
年次世界経済報告 資料編
経済企画庁
II 1990~91年の主要国の政策動向
第8章 東 欧
(1)財政政策
91年の新経済改革計画では,財政収支は均衡の回復が目標とされていたが,共和国財政に対する共和国の権限強化を背景に,スロベニア,クロアチア,セルビアといった共和国による連邦への拠出金不払,違法なディナール増刷等が行われたため,5月半ばには財政赤字が約3,600億ディナール(約163億ドル)に達し,連邦財政は急速に逼迫しはじめた。このため7月には,連邦政府は共和国の拠出金による歳入不足に対応するために,連邦歳出の60%削減を決定した。
(2)金融政策
91年の新経済計画では,金融政策は,社会総生産の前年比実質15%滅,インフレ率75%の想定の下で,前年比48%増程度の中立的な通貨供給を行い,インフレ抑制と生産回復の双方を企図しており,抑制的な色彩は弱められていた。
通貨面では,91年5月,89年12月以来維持されてきた7ディナール/マルクの対マルクレートが13ディナール/マルクへと大きく切り下げられた。その後,6月末には外貨準備の減少から外国為替市場が閉鎖され,外国への支払い以外の外貨取引は停止された。
(3)その他
・ 91年4月,連邦政府のマルコビッチ首相は,90年の「ショック・セラピー」型改革に修正を加えた新経済改革計画(「11+3」プラン)を連邦議会へと上程した。その骨子は以下の通り。同年7月,連邦議会は,この経済改革案を承認した。
a)通貨ディナールの30.7%の切り下げ(9ディナール/マルク→13ディナール/マルク)
b)通貨交換性の回復(外貨市場への中央銀行の介入,企業・個人への外貨へのアクセスの回復)
c)連邦予算支出の削減,財政状態の改善(軍事費の削滅,連邦行政機関の予算の大幅削減,政府債の発行による連邦財政の部分的なファイナンス)
・ 91年6月,スロベニア,クロアチア両共和国は,連邦からの独立を宣言した。これを契機として,連邦と両共和国は激しい内戦状態となった。
その後,EC,国連の仲介による停戦合意が十数回にわたって行われたが,完全停戦には至っていない。このため,停戦実現を派遣の条件としている国連平和維持活動(PKO)の要員派遣も困難となっていることから,12月15日,国連安全保障理事会は,PKO派遣準備を目的とした国連監視団を求める決議を採択した。また,同月17日には,EC外相会議がブリュッセルで開かれ,少数民族の人権尊重等の条件を満たす共和国については,92年1月15日以降,E Cとして独立を承認していく方針を決定した。6月のスロベニア,クロアチア独立宣言以降,ボスニア・ヘルツェゴビナ,マケドニアも独立宣言を行っており,この4国がECへ独立承認の申請を行っている。最終的にはこれら4共和国の独立が承認される見通しとなっている。