平成3年
年次世界経済報告 資料編
経済企画庁
II 1990~91年の主要国の政策動向
第8章 東 欧
① 91年度予算
90年12月に成立した91年度予算は,歳入8,529億フォリント,歳出9,317億フォリント,財政赤字額を788億フォリントとしている。歳出面では,生産・消費に対する補助金が90年度の1,228億フォリント(実行ベース)に対して,1,011億フォリントと大きく削減されている一方,国内債務返済のための支出は627億フォリントから1,100億フォリントへと拡大している。また,これまで特別会計となっていた国家プロジェクトへの支出が本予算へと組み込まれた。歳入面では,これまで地方税となっていた個人所得税を国税とした点が大きな変更点である。企業からの税収については,昨年度の2,412億フォリント(実行ベース)から2,316億フォリントと縮小を見込んでいるのに対し,消費税収については,2,552億フォリントから3,115億フォリントヘ,個人所得税については412億フォリントから1,339億フォリントへとそれぞれ拡大を見込んでいる。しかし,実際には経済情勢悪化により税収が見込みを大きく下回っており,赤字は900億フォリントに達する模様である。
② 92年度予算
91年10月に議会に提出された政府案では,92年の経常赤字を5億ドル以内,GDP成長率を1~2%,総輸出量の伸びを5~6%と想定し,消費支出が0.5~1%,雇用収入が8%増加し,インフレ率は20~25%に抑えられることを見込んでいる。財政赤字は91年よりやや小さい600~800憶フオリントとなっており,歳入は約1,000億フォリントの増加となっている。家族手当や労働者への病気補償等,社会保障関係の支出が増加している一方で,企業補助金は80~90億フォリント,価格補助金は150~160億フォリント,住宅建設等への補助金は40~50億フォリントとそれぞれ大きく削減されることとなっている。
① 金融緩和
インフレ抑制のため,基準金利(割引率)は,91年に入って27%の高水準を続けていたが,失業の増大やインフレの低下等から,10月には,短期政府証券の平均落札利回りが35.2%から34.2%へと低下したことを契機に,89年以降初めて引き下げられ,26%となった。また商業銀行に対するリファイナンス・レートも30%から29%へと引き下げられた。国立銀行は,今後も短期政府証券の利回りの変動を参考にして,政策金利を原則として3カ月ごとに見直していく方針としている。
② 金融機関に関する制度整備
10月には,金融政策における中央銀行の独立性と,経済政策の立案・遂行における政府との協力義務を規定した「国立銀行法」が制定された。これにより,政府は,同法が定める金融政策上の事項について国立銀行に命令することができなくなる。国立銀行総裁(任期6年)及び副総裁は,首相が指名し大統領が任命することされている。一方で,全ての金融機関に対して二国立銀行の許可を得ることなく,外資の導入と10%未満の外資との合弁を行う;とを認めており,国立銀行の許認可権限を縮小している。
11月には,金融機関の活動の指針となる金融機関法が制定された。同法は,商業銀行の設立には最低10億フォリントの資本金が必要としており,外資の金融機関に対する出資については,出資比率10%未満は自由,それ以上は政府の事前承認が必要としている。また,銀行検査庁に対し金融機関への活動査察権限を与えることが明記されており,不明朗な行為が認められた場合には,事情説明要求,営業規制,罰金賦課といった措置が取られるとしている。従来認められていなかった個別企業の財務情報の開示も,不渡りの発生や借入金の返済遅延等については第三者からの照会に応じることが可能となった。
専門金融機関として,12月には投資開発銀行と輸出入銀行の創設計画が明らかにされている。投資開発銀行は,資本金46億フォリント(国家開発庁56%,国家資産庁43%,民間資本1%)の政府直系の長期投資専門の金融機関として発足する。輸出入銀行は,資本金20億フォリント,100%政府出資で92年1月に設立される。当初は輸出金融・保険や融資保証を軸とした金融機関としてスタートし,遅くとも1年後までに本格的な輸出入銀行へと転身する予定とされている。
③ 通貨政策
通貨政策では,11月に5.5%の切り下げを行った。また,為替レート算定に使用される通貨バスケットの構成は,これまで米ドルが50%,残り50%が貿易量1%以上の国の通貨となっていたが,10月には,米ドル以外の50%の部分についてECUの比率を高めていく方針が決定された。
また91年1月からは,貿易相手の承認があれば,輸入決済にフォリントを使用することを認めており,部分的な対外交換性を導入している。
・ 91年2月には,新しい失業対策法が制定された。これによると,失業給付金は最低4年間勤続の者を対象に,最低賃金以上3倍以下の範囲内で支払われ,1年目は給料の70%,2年目は50%が支給され,2年間で打ち切られる。給付金の受給者は,雇用庁による職業斡旋に協力しなければならないが,斡旋された仕事が受給者の資格・健康状態に合致し,通勤時間が3時間以下である場合を除いて,就職を強制されることはない。また,給付金の原資として,91年7月から,雇用者は全給与額の1.5%,労働者は給与の0.5%を社会福祉基金に払い込むことが義務づけられる。同基金は,この拠出による60億フォリントと91年度予算からの90億フォリントとで運営を開始している。
・ 6月には,共産化によって国に不動産を接収された旧所有者に対して,金銭による補償を定めた「補債法」が制定された。同法は,1938年以降政府によって土地・家屋等の接収を受けた人を対象に,施行後90日以内に申請のあったものについて補償証を発行し,20万フォリントまでは全額,それ以上は部分的な金銭補償を行うとしている。但し,土地については,現在の権利者が5年間耕作が可能か,農業事業主として登録している場合には,100万フォリントまで満額補償を行うとしている。
・企業関連法規では,企業会計法が5月に,企業破産法が10月に制定され,ともに92年1月1日から発効する。
「企業会計法」は,企業の財務状況と実績の評価に国際基準を適用するためのもので,企業に貸借対照表の監査・公表を義務づけている。この義務を怠った企業に対しては商法の規定に基づいて相応の罰則が適用される。企業家は,毎年,貸借対照表,収支報告書,注釈,業務報告書からなる報告を行うことが義務づけられ,それらは5月末までに登録裁判所に預託されて一殻への閲覧に供される。貸借対照表の書式は,EC委員会の指針が採用されている。また自己の資産については自由な滅価償却が保証されており,2万フォリント以下の資産については即時償却も可能となっている。
「企業破産法」は,これまで破産制度の外にあった国営企業を破産手続きの対象としている。同法により,企業は債務履行が不可能と判断した場合の破産宣告が可能となり,破産申請後,債権者との協議のため90日間の支払い猶予期間が与えられ,その間に協議が成立しない場合には,裁判所が破産手続き,資産処理を進めることとなる。ハンガリーでは,既に同法の成立以前に見切り発車の形で120社が企業清算手続きに入っている。