平成3年
年次世界経済報告 資料編
経済企画庁
II 1990~91年の主要国の政策動向
第8章 東 欧
91年度予算は,歳入が前年比56.7%増の289.2兆ズロチ,歳出は同60.9%増の293.5兆ズロチ,赤字額は4.3兆ズロチ(対GDP比0.5%)と90年度に引き続き緊縮型となっていた。価格規制が残される僅かな品目を除いて価格補助金は廃止され,企業に対する直接の補助金も完全に廃止されている。また財政赤字と対外債務支払費用は,国債の発行や前年度からの繰越によって賄われる予定となっている。
しかし,91年初から導入された貿易制度の変更によるコメコン,特にソ連市場の急速な縮小は,ソ連向けを主力としていた輸出企業の業績を悪化させた。
このため,企業からの税収を主体としていた歳入は見込みを大きく下回り,第1四半期末で,全所得税収が年間見込の5.6%,売上高税収が同11.1%にしか達しない状態となり,財政赤字は3月末で5.0兆ズロチ,6月末で約13兆ズロチと急速に拡大した。このため,8月,バルセロビッチ蔵相は,歳出規模を250兆ズロチ程度に削減する一方,赤字を24兆ズロチに拡大させる予算修正を提案したが,財政赤字はその後も拡大を続け,10月末には26兆ズロチに達した。このため,IMFは対ポーランド融資供与を9月から停止し,11月から行った現地調査では早急な赤字縮小とインフレ抑制を求める警告を行っている。
こうした財政状況にもかかわらず,国内には景気後退に対する積極的な政策を望む声が高まっており,92年度予算の策定は難航が予想される。
92年1月からは個人所得税,付加価値税の導入が決定されており,企業からの税収に依存した従来の歳入構造は,或る程度改善されることとなった。
① 金融緩和へ
90年9月以降のインフレ率の上昇に対応して,国立銀行は,まず10月に基準金利(リファイナンス・レート)を34%から43%へと引上げ,翌11月には55%へとさらに引き上げた。その後インフレ率はなお上昇を続けたため,91年2月には72%へと引き上げた。しかし,コメコン市場の崩壊による企業収益の悪化や失業増大に伴う国内の不満の高まり等から,5月には引き下げに転じ,59%とした。続いて7月には50%,8月には44%,9月には40%へと引き下げている。
② 資本市場
91年4月には,ワルシャワに株式市場が開設された。上場されたのは5銘柄で,11月現在8銘柄に増加している。インデックスで見た株価は,6月第2週までは上昇基調であったが,その後下落傾向となり,底となった10月第1週には,4月時点から約30%の下落となっていた。株価はその後反騰し,11月第1週には4月の水準まで戻したが,その後再び下落し始め,同月第3週には第1週から約11%の下落となっている。92年に入り,市場の活性化を図るため,それまで週一回であった立ち会いが2回に増やされた。
91年4月の証券市場開設と同時に,ポーランド国立銀行による証券オペレーションが開始され,続く5月にはTBによるオペレーションも導入される等,中央銀行の金融調整手段が拡充されている。
③ 通貨政策
通貨政策では,5月にそれまで堅持していた対ドル・レート(9,500ズロチ/ドル)を放棄し,11,000ズロチ/ドルへと切り下げ,10月には主要通貨バスケットに対するクローリング・ペッグ制へと,調整方法を改めた。通貨バスケットは,米ドル45%,ドイツマルク35%,英ポンド10%,仏フラン,スイスフラン各5%となっている。またクローリング・ペッグによる調整幅は,月間1.8%以内とされている。
ズロチへの国内交換性の導入に伴って90年に設置された「通貨安定基金」については,設置当初から91年7月まで,ポーランド銀行による,ズロチ買い支えのための支出は行われていない模様である。
・ 90年7月に「国営企業民営化法」が制定され,同年11月には試験的なケースとして5社の株式公募が行われた。
・急増する西側からの輸入の抑制と,ECとの関税水準調整のため,平均関税率が引き上げられた。
・ 91年4月,IMFとポーランド政府は,ポーランドへの追加融資に伴う,93年までの3ヵ年の経済政策に関するガイド・ラインについて合意した。その主要点は,①経済安定化を続け,インフレ率を91年には36%,93年には10%未満へと抑制すること,②93年末までに経済の民間比率50%を達成するべく,市場経済化を促進する,③対外債務の削滅を行う,となっている。
・ 10月末に行われた総選挙の結果,連帯系政党の退潮,旧共産党系政党の躍進等から,国会は小党分立の状態となっており,連立工作の困難から2カ月近く内閣の存在しない状態が続いたが,12月238Iこようやく中道同盟のオルシエフスキを首班とする閣員名簿が国会で承認された。新内閣は,バルセロビッチ前副首相を閣員に加わえておらず,経済政策策定の実権を,積極財政論者のエイシモント新中央計画庁長官に移す等,経済改革の方向に大幅な変更を加えることを表明している。しかし与党は下院の安定多数を占めておらず,国会運営は今後も難航が予想される。
・ 12月16日,ポーランド,ハンガリー,チェコ・スロバキアの3カ国各々とE Cとの間に,連合(準加盟)協定が締結された。協定は,中東欧諸国における政治・経済改革を促進し,自由貿易地域を徐々に形成すると共に,緊密な政治関係の発展を促す環境の創出を目的としている。3カ国に共通する枠組みとしては,①それぞれの協定の前文に,将来のEC加盟が最終目標として明記されている,②政治的対話のための政治的枠組みとして,「連合理事会(協定実施を監視する政治的最高機関,閣僚レベル会合の場)」,「連合委員会(連合理事会の準備機関)」,「議会連合委員会(欧州議会と当該国議会との協議機関)」の3機関を創設する,③自由貿易地域の設立,サービス・資本・人の移動の自由の実現を保証,④経済・産業協力(産業協力,投資の促進・保護,基準・認証制度,職業訓練,エネルギー,環境,運輸,通信等)の実施,⑤文化協力の実施,⑥金融支援(各国の経済力に応じて,贈与・借款の混合援助を行う。形態は,職業訓練,技術協力,利払いへの贈与,輸出信用,投資保険等)の実施,が掲げられている。また,東欧からの食料品・繊維製品・鉄鋼等の輸入については,EC市場が撹乱される場合には,セーフ・ガードを導入する条項が設けられている。