平成3年
年次世界経済報告 資料編
経済企画庁
II 1990~91年の主要国の政策動向
第3章 ドイツ
90年10月のドイツ統一に伴い東独地域の再建の負担が加わったことから,ドイツの連邦政府の財政赤字は90年に大きく拡大した。このため91年7月には,所得税・法人税,鉱油税の増税を行ったが91年の赤字は90年をさらに上回る見通しである。92年以降は赤字が減少するとの見通しであるが,東独地域の再建が遅れれば見通しの達成も危うくなる。
② 91年度連邦予算および中期財政計画ドイツ政府は,90年11月に「91年度連邦政府予算案および92~94年度中期財政計画ガイドライン」を策定した。この大綱に沿って,91年6月に91年度予算が議会で可決され,同年7月,「91~95年度中期財政計画」が発表された。それぞれの概要は以下の通り。
(i)91年度連邦予算(政府案)および92~94年度中期財政計画ガイドラインのポイント(90年11月14日,閣議承認)
・ 91年中に350億マルクの歳出削滅を行い,連邦政府の赤字幅を700億マルク以内に収めることにより,公的部門の赤字を1,406億マルク以下に抑制する。
・ 92~94年についても歳出削滅努力を継続し,94年時点で連邦政府の赤字を300億マルク程度に縮小させる。
(ii)91年度連邦予算(91年6月7日,連邦議会可決)
91年度の予算については,90年11月にガイドラインが閣議で承認されていたが,その後91年3月に政府が一連の東独追加支援策(注1)および増税案(後述)を決定したことから,これらを含めたうえで,議会審議が行われ,91年6月に可決された。
歳出については,歳出総額4,103億マルクのうち,東独地域関連支出として930億マルク(約23%相当)かあてられた。
歳入については,政府税収見通しの上方改訂や,一連の増税措置(所得税,法人税,鉱油税等)により,税収は当初見通しより180億マルク増加(2,938→3,118億マルク)する一方で,ドイツ統一基金のスキーム変更等により税外収入が約40億マルク減少(363→321億マルク)することから,総額は3,439億マルクが見込まれた。
これにより,91年度の財政赤字は673億マルクとなった。
なおドイツ政府は91年10月16日の閣議で,56億マルクの91年度第1次補正予算を承認した。うち,50億マルクは連邦雇用庁による東独地域の雇用促進事業′に,残りの6億マルクは西独地域の構造改善にあてられる。
(iii)91~95年度中期財政計画の概要(91年7月11日,政府発表)
中期的な財政政策の方向を示す91~95年度中期財政計画は,90年11月の「91年度連邦政府予算案および92~94年度中期財政計画ガイドライン」に基づき策定された。その要点は(下表)の通りである。またこの中期財政計画の一環として,総額333億マルクの補助金等の削減(92~94年の3年間,概要は下記参考を参照)が予定されており,92年度連邦予算(91年11月29日に連邦議率会で可決成立)にも織り込まれている。
〈参考〉補助金等削減計画の概要
(ア)各年の削減額(前年度比)
92年 97.5億マルク 93年 116.7億マルク
94年 119.1億マルク
(イ)項目別内訳(金額は前年度比)
・ベルリンへの補助金削減
92年 13億マルク 93年 25億マルク 94年 20億マルク
・西独地域の雇用創出プログラムに対する補助金削減
92~94年まで 毎年 5.6億マルク
・石炭補助金削滅
92~94年まで 毎年 2億マルク
・各種優遇税制の廃止及び緩和
92年 55億マルク
③ 92年度連邦予算
(i)政府案(91年7月10日閣議決定)
92年度予算は91年7月に閣議決定されたが,前述の補助金等の削滅は織り込まれていなかった。このため,政府は9月までに予算案を補助金等の削減策を織込んだ形に修正のうえ,議会審議に付した。なお同予算案には,政府ならびに議会のベルリン移転に関する費用(別添の参考資料を参照)は計上されていない。
歳出は総額4,226億マルクが計上され,このうち東独地域関連支出として1,090億マルク(約26%相当)があてられた。
歳入は総額3,727億マルクと,前年比288億マルクの増加が見込まれている。
これは,91年7月実施の石油税引上げや92年施行のタバコ税引上げに伴い税収が前年比261億マルク増加し,3,379億マルクに上ることが見込まれることが主因.である〔増税による増収額:石油税91年58億マルク→92年140億マルク,タバコ税92年16億マルク〕。この結果,連邦財政の赤字幅は497億マルクと91年(664億マルク)の約4分の3程度の規模にとどまる。
(ii)92年度連邦予算(91年11月29日,連邦議会可決成立)
ドイツ連邦議会は,11月29EI,前年度を2.9%上回る総額4,221億マルクの92年度連邦政府予算を可決,承認した。
歳出総額4,221億マルクのうち,東独地域関連支出は1,1100億マルク(26%相当)が充てられだ。ただし,旧東独国営企業の再建・整理を進めている信託庁の赤字300億マルクは一般会計に含まれていない。また,ボンからベルリンヘの首都移転関連予算としては2億8,000万マルクが計上されている。
歳入は,税収の伸びが相当見込まれており,純借入れは91年の664億マルクから453億マルクに改善するとみられている。
① 増税の背景
湾岸での戦闘や中東欧の市場経済への移行等の世界的な情勢変化に伴う支出増に加え,追加的な歳出削減が困難であること等により実施された。東独地域の経済再建を直接の目的として行われたものではないが,東独地域再建に伴う大幅な支出増が増税実施の背景の一つとなったことは否定できない。
② 増税の方法とその規模
所得税・法人税,鉱油税等の引き上げを内容とする増税は,91年7月1日より実施された。所得税・法人税については,91年7月1日~92年6月30日の1年間につき時限的に実施され,タバコ税については,92年3月1日に実施されることになっている。
① 法人税減税
90年12月18日,大蔵大臣の諮問委員会は,法人税率を現行の65%から50%に引き下げることが必要であり,それを実現するための法律の制定を91年中に行い,93年までに同法を発効させるよう提案した(この法人税減税が実施されれば年間168億マルクの減税が見込まれる)。これを受けて,91年1月16日,ドイツ連立与党は92年末までに法人税減税のための法律を制定し,同法を95年までに発効させることで合意したが,依然,政府決定には至っていない。
② VAT(付加価値税)の税率変更
ドイツ政府は,91年9月2日,VAT(付加価値税)の税率を93年1月1日より,現行の14%から15%に引き上げることを閣議決定した。これはVATに関するECの最低税率15%を達成することで,EC統合に向けた税制調和を図ったものである。しかし91年11月29日,野党のSPD(社会民主党)が過半数を占めるドイツ連邦参議院は,VATの引上げ等を内容とする税制改革法案を否決したため,連邦議会と連邦参議院は両院協議会を設置し,同法案の審議を続けている。
③ 利子源泉課税の再導入
利子源泉課税は,89年に一旦導入された(当時の税率は10%)ものの資本の国外流出を招いたため半年で廃止され,その後自己申告制となっていた。しかし申告率が50%を下回っていたこと等により,連邦憲法裁判所が91年6月に,現行の利子課税は「法の下の平等」を損なうとしで違憲判決を下し,93年までに新しい課税制度を導入するよう求めていた。
91年11月12日,ワイゲル蔵相は,税率25%の利子源泉課税政府案を発表した。同政府案によると,93年1月からの導入を目指しており,非課税限度額は独身者の場合,現行の600マルクから6,000マルクに,既婚者は1,200マルクから12,000マルクにそれぞれ引き上げられる。これにより貯蓄者の約80%が課税対象から外されることになるが,与党側は今回の課税案で年間100億マルクの税収増を見込んでいるとされている。