平成3年
年次世界経済報告 資料編
経済企画庁
I 世界経済白書本編(要旨)
第3章 世界の資金循環の変化
アメリカへの資本流入額をネットでみると90年に大きく縮小した。項目別にみると,まず証券投資と直接投資については,海外からの流入が大幅に減少した。その結果,ネットでは証券投資は流出超に転じ,直接投資の流入超は大幅に縮小した。次に,銀行部門をみると,外銀の対米貸付が大きく減少し,米銀の対外貸付は引上げ超となった。海外からの資本流入の減少傾向は91年に入ってからも持続している。91年上半期には,証券投資は再び流入超に転じたものの,直接投資は流出超に転じた。また,銀行部門では,米銀の対外貸付の引き上げが加速する一方,外銀の対米貸付も引き上げ超に転じ,ネットでみると銀行貸付は流出超となった。
80年代後半においては,アメリカの大幅な経常収支の赤字は,活発な対米証券投資や主要国の協調的な政策運営等を背景に大きな混乱なくファイナンスされた。しかし,今後は,アメリカの経常赤字が再び拡大するようになると,①各国が国内重視の金融政策をとっていること,②日本の資金余力が減少していること,③EC市場へ資金がシフトしていること等により,所要の資本流入が円滑には進まず,アメリカの長期金利が大幅に上昇することが懸念される。
他方,日本からの資本流出は90年に大きく縮小し,91年もこの傾向が続いている。特に,対外証券投資が90年に急減している一方,外国の対日証券投資が91年に急増するなど証券投資に大きな変化が生じている。日本の長期金利の上昇は対外証券投資を減少させる要因となり,また,日本の株価の下落は,株式関連債の起債を低迷させ,日本の証券投資を流出,流入の両建てで縮小させる要因となった。ドイツの資本流出も全体として90年には縮小しており,91年には流入超に転じている。ただし,ドイツのEC域内向けの借款や直接投資,ソ連・東欧向けの借款等については流出超が続いている。
途上国の資本収支の特徴をアジアと中南米で対比すると,いずれも直接投資は流入超となっているが,証券投資と借款については,アジアが流入超となっているのに対し,中南米では流出超となっている天が異なる。中南米では,82年の債務危機以降,先進国から銀行借款は流出を続けており,また,国内経済も停滞を続けていることから,新規の資本流入が細っている。
なお,主要国の対外資産と負債の残高をみると,90年にはドイツが世界最大の純債権国となる一方,アメリカが引き続き最大の純債務国となった。内容的には,日本が資産と負債の両面で巨額の残高を有しており,世界的な金融仲介機能を果していることわかる。また,ドイツは資産と負債の規模がいずれも小さいこと,イギリスについては銀行部門の資産と負債が大きく,世界の金融センターとして機能していることが特徴として指摘できる。
国際的なマネー・フローをグロスの長期資本流出額でみると,80年代後半に証券投資,直接投資を中心として急拡大した。特にアメリカを中心に先進国への資金フローが急増し,途上国へのフローは伸び悩んだ。しかし,90年には,直接投資は増勢を維持したものの証券投資が大幅に縮小し,長期資本全体でも縮小した。地域別に見ると,アメリカ向けが増勢を維持している。中南米向けは,公的資金は流入したが全体としては引上げ超となっている。
ユーロ市場を含む国際金融・資本市場の規模は,90年末には資産残高で8.8兆ドルと米,日の名目GNP(それぞれ5.5兆ドル,3兆ドル)の合計を上回る規模となっている。ユーロ市場は,70年代には,オイル・マネーを途上国に還流させる上で大きな役割を果たし,80年代にはアメリカの経常収支赤字のファイナンスを円滑化することに寄与した。しかし,90年には,ユーロ市場の拡大傾向に鈍化がみられた。これは,邦銀と米銀がともに国内市場に回帰し,ユーロ市場における活動を低下させていること,及び,本邦企業が株価の大幅下落を背景にユーロ市場での株式関連債の起債を減少させていることが影響している。ただし,欧州の銀行はEC統合を控え活発な国際的金融活動を続けている。ユーロ市場は,今後とも世界の資金需給の調整の場として一定の役割を果たしていくことが期待される。