平成3年
年次世界経済報告 資料編
経済企画庁
I 世界経済白書本編(要旨)
第1章 世界経済の現局面とその特徴
今回の湾岸危機に伴う原油価格の高騰は短期間で終了し,しかも価格は上昇前の水準に戻ったことから,世界経済に及ぼす影響も比較的小さなものにとどまった。このほか,今回の石油危機の特徴として,価格の決定権が市場に委ねられたことがあげられる。原油の価格形成の歴史を振り返ってみると,60年代までは欧米を中心とした国際石油資本(メジャー)が価格支配力を持っていたが,70年代にはOPECという供給国間のカルテルに価格支配力が移った。これに対し,80年代は,OPECのシェアが低下したことや先物市場が発達したこと等を背景に,市場が価格を決める時代となった。
今回の石油危機は,湾岸産油国における戦闘を伴ったものであったため,産油国においては戦争費用の分担,周辺国への援助,破壊された施設の復興という形で多額の支出が必要となった。このため,石油価格上昇による収入増は,支出増で相殺され,むしろ借入れが必要となる事態となっている。
湾岸危機後,OPECの中でサウジの生産シェアが増大し,その発言権も強化された。この結果,石油価格の大幅な引上げを主張する国の意向が通りにくくなった。しかし,中・長期的にみるとアジアをはじめ途上国の石油消費は着実に伸びている一方,非OPECの生産は頭打ちであり,ソ連の生産の先行きも不透明な要因が多い。加えて,OPECの生産稼働率は近年,上昇しており,生産余力が滅少している。このため,石油価格の安定を図るためには石油消費の節約を進める一方で,世界の確認埋蔵量の4分の3を占めるOPECが生産能力を拡大することが重要になっている。