平成3年
年次世界経済報告 資料編
経済企画庁
I 世界経済白書本編(要旨)
第1章 世界経済の現局面とその特徴
90年7月に東独地域は西独地域と経済的に完全に統合され,加えて,通貨の交換比率は東独の経済実勢を大きく上回る1対1に設定された。その結果,東独地域は,大幅な生産の低下と失業の増大に苦しむ一方,急速な構造調整の必要性に迫られている。東独地域の経済は,コンビナートと呼ばれる巨大国営企業の生産のシェアが大きいこと,サービス業のウェイトが小さいこと,貿易面ではコメコン諸国との取引が大きいこと等の特徴があり,これを西独型の経済構造に変えていかねばならない。そのため,旧国営企業の民営化,西側からの投資を呼び込むためのインフラ整備,環境問題への対応等が必要である。さらに,1対1の通貨交換比率の下で急上昇した労働コストの更なる上昇を抑制するために,このところの急速な賃上げを抑制することも,西側企業の進出を図る上での重要な条件となる。
他方,ドイツ連邦政府の予算では東独地域向けの財政支出は,92年には全歳出の4分の1に達すると見込まれる。連邦政府の財政赤字(純借木れ)は,91年には664億マルクでピークに達し,その後縮小すると見込まれているが,これは増税と補助金等の歳出削滅措置を講ずることによって賄われることとされている。ただし,東独地域の経済再建の予定が遅れるとこの財政見通しの達成も難しくなる。
ドイツ統一は,周辺諸国に対しドイツ向けの輸出が急増するという形で積極的な景気拡大効果を及ぼしている。一方,国内のインフレを抑制するために採られたドイツの金融引締めはERM(ECの為替レート・メカニズム)を通じて周辺西欧諸国に高金利を波及させ,これら諸国の景気にマイナスに作用していると考えられる。現在のドイツが採用している拡張的な財政政策と緊縮的な金融政策というマクロ政策の組合せは80年代前半のアメリカのレーガノミックスと似ている。両国におけるこのようなマクロ政策が財政収支と経常収支に及ぼした影響をGNPに対する比率で比較してみると,ドイツの財政赤字の拡大の程度(変化幅)は,当時のアメリカの半分程度であるが,経常収支の悪化の程度(変化幅)ではドイツがアメリカを大きく上回っている。しかし,ドイツの財政赤字の拡大と経常収支の悪化が構造的な問題となる可能性は,アメリカの場合と比べて相対的には小さいと考えられる。その理由としては,ドイツの場合には,①家計の貯蓄率が高く,統一後も低下していないこと,②財政赤字の拡大に対して増税措置がとられていること,③貿易相手国の大半がEC域内に存在し,その通貨をマルクにリンクさせているので,マルクの独歩高という現象は生じないこと等をあげることができる。ただし,東独地域の再建が大幅に遅れるような場合には,巨額の財政赤字はアメリカと同様に構造的なものとして持続する恐れがあるが,再建に成功すればドイツの潜在成長力は一段と高まると考えられる。