平成2年
年次世界経済報告 各国編
経済企画庁
I 1989~90年の主要国経済
第11章 中 国:経済引締め策の一部見直しから回復に向かう
財政面をみると,89年度は,歳入が前年比11.1%増の2,919億元,歳出が同11.4%増の3,015億元となり,財政赤字は予算を14.86億元上回る95.35億元となった。しかし,中国の統計では,歳入の中に「債務収入」(国債,外債)を含んでおり,この収入分を差し引いた実質上の財政赤字は369.65億元となる(前年は341.51億元)。90年に入りても,上半期は歳入が前年同期比10.5%増に対し,歳出は同12.2%増と歳出の伸びを上回った。財政赤字の原因としては,工業生産の停滞,市場の販売不振から税収が伸びないことや,国営企業の経営状態が改善されず,企業収益が悪化していること等が挙げられる。特に国営企業の経営不振は深刻で,国内需要の不振から在庫増が続いており,政府が補助金を供与しても在庫費用に回され,生産の向上に結び付かないため,赤字経営の企業が増大している。企業利潤をみても,1~9月期で前年同期比57.9%減と大幅に減少している。財政赤字の増大に対応し,政府は90年に入り,価格制度,金融制度等の改善を行う等赤字削減に積極的に取組んでいる。まず,11月に全国的に砂糖(45%),綿製品(25%),合成繊維(6%)といった一部生活物資の小売価格引き上げが実施された。88年からのインフレ高騰により価格改革は一時足踏み状態にあったが,今年に入りインフレが鎮静化したことから今回のような全国レベルでの比較的大規模な価格引き上げに踏みきったとみられる。また,88年9月よりインフレ抑制の対策として導入合れた定期預金金利の物価スライド制(本来の利回りに10%以上を上乗せ)も,財政負担の軽減から90年11月に停止となった。同月の為替レートの切下げも,輸出競争力を高めることに加え,増大する輸出補助金の削減としての意味も含んでいるとみられる。また,物資部は,91年の計画の中で,市場で通用する基準に達した製品のみを購入するよう,傘下の流通企業に通達した。従来は,国営企業製,品を国の計画に従い流通企業に割り当てていたが,今回の通達でこの図式は否定され,実施が徹底されれば国営企業の製品も全面的に市場の競争にさらされ,経営効率の改善が迫られることとなる。