平成2年
年次世界経済報告 各国編
経済企画庁
I 1989~90年の主要国経済
第11章 中 国:経済引締め策の一部見直しから回復に向かう
貿易動向(通関,ドル・ベース)をみると,輸出は89年に前年比10.5%増と前年の20.5%増から鈍化した後,90年は89年12月に為替レートを切り下げた(21.2%の切下げ)ことから,1~3月期前年同期比11.6%増,4-6月期同18.2%増,7~9月期同12..7%増と好調な伸びをみせ,10月には前年同期比27.4%増と大幅増となった(第11-1表)。一方輸入は,89年に前年比7.0%増と前年の2788%増から鈍化した後,90年は輸入抑制策の継続,資金不足による国内需要の減少から1~3月期前年同期比13.7%減,4~6月期同20.4%減,7~9月期同8.9%減と減少傾向が続いている。このため,貿易収支は,90年に入り黒字へと転化し,4~6月期17億ドル,7~9月期24億ドルと黒字幅が拡大している。
品目別輸出をみると,機械・輸送機器は89年前年比39.9%増の後,90年に入ると,電気機器及び部分品(90年1~6月期前年同期比69.3%増),通信・録音・再生機(同59.3%増),自動車等(同59.2%増)が好調に伸び,1~6月期前年同期比53.5%増と大幅に増加した(第11-5表)。原料別製品も,89年は国内需給のひっ迫から前年比3.9%増と鈍化した(88年前年比22.4%増)が,90年は1~6月期前年同期比9.4%増とやや回復している。特に鉄鋼が前年急減した反動から90年1~6月期前年同期比26.6%増と大幅に増加した。鉱物性燃料は,石油及び石油製品が減少しているものの,石炭・コークス・煉炭は増加傾向にある。また,穀物及び加工品は89年前年比5.6%増と夫きく鈍化した(88年前年比17.8%増)後,90年は1~6月期前年同期比30.7%の減少となった。織物用繊維も,90年1~6月期同35.7%減と大きく減少している。
品目別輸入をみると,原料別製品は89年は国内の原料不足から前年比18.5%増となったが,90年は工業生産が不振なことから国内需要が縮小し,1~6月期前年同期比32.2%減と大幅に減少した。特に鉄鋼は国内生産が回復に向かっていることもあり,89年前年比25.3%増の後,90年は1~6月期前年同期比51.8%減と急減している。機械・輸送機器も,政府の輸入抑制策の下,耐久消費財の輸入が制限されたことから,89年前年比9.1%増の後,90年1~6月期前年同期比18.2%減となった。食料品も,89年は前年比20.6%増と大幅に増加したものの,90年は国内の食料供給が安定しつつあることから1~6月期前年同期比16.8%の減少となった。また,鉱物性燃料は,国内需要の縮小から89年に前年比109.5%増と大幅に拡大した後,90年は1~6月期前年同期比36.2%増と鈍化した。
地域別の貿易動向をみると,輸出は,最大のシェアを占める香港,マカオ向けが89年前年比19.6%増,90年1~6月期前年同期比15.6%増と順調に伸びている(第11-6表)。アメリカ向けも,89年前年比29.9%増,90年1~6月期前年同期比19.8%増と好調な伸びをみせ,EC向けも,89年前年比2.8%増の後,90年1~6月期は前年同期比14.6%増と急増した。日本向けは,89年前年比5.6%増の後,90年は1~6月期前年同期比4.0%減となっている。輸入は,香港,マカオからが89年前年比4.7%増,90年1~6月期前年同期比4.9%増となった一方,先進諸国では90年に入り日本からの輸入が1~6月期で同39.9%減,アメリカからが同15.1%減,ECからが同23.8%減となる等減少傾向となっている。このため,先進諸国との間の貿易赤字は縮小しており,特に対日収支は89年に21.7億ドルの赤字となった後,90年に入って黒字へと転化し,1~6月期2.1億ドル,1~8月期4.4億ドルと徐々に黒字幅が拡大している。
また,外貨準備高は89年は前年比30.0%減の170億ドルとなったが,貿易収支が改善されたことから,90年は1~3月期214億ドル(前年同期比20.7%増),4~6月期234億ドル(同65.2%増)と拡大を続けている。
なお,中国向けの政府借款については,89年6月の「天安門事件」以降,西側諸国は中国に対し経済制裁をとり,新規案件への供与を中断してきたが,90年7月のヒューストン・サミットでは,日本が第3次円借款を徐々に再開するとの方針を表明し,また,政治宣言の中では事件後の中国政府の一定の措置が評価された。その後,具体的には,日本が11月に第3次円借款の内,90年度第1回分として365億円を供与するとの交換公文を締結したほか,EC諸国でも,10月のEC外相会議において,対中経済協力については状況を見つつ,段階的に再開するとの決定がなされたことを受け,フランス等で対中借款の協議等を再開している。また,「天安門事件」以降,融資を人道的な内容に限定してきた世界銀行は,12月に「地方工業技術プロジェクト」(上海等の3地域の地方企業に対する技術・経営指導,古い設備の最新設備への代替等の近代化対策)に対し1.14億ドルの融資を決定した。