平成2年

年次世界経済報告 各国編

経済企画庁


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I 1989~90年の主要国経済

第8章 ソ  連

6. 経済政策

(1)財政

ソ連の財政赤字は89年920億ルーブルで,同年のGNP9,241億ルーブルの約10%に相当する。90年1~7月には,歳入2,624億ルーブル(前年同期比2.0%増),歳出2,772億ルーブル(同6.4%増)で148億ルーブルの赤字となっている(うち,連邦予算は259億ルーブルの赤字,共和国予算は111億ルーブルの黒字)。しかし,ソ連国内でも90年の財政赤字は1,500億ルーブルに達するとの見通しもなされている。これは,歳入の増加が緩慢であるのにたいし,歳出の増加ペースが,労働者の賃金引上げに伴う企業への補助金増加,農産物の国家買上価格の引上げ,市場経済化に伴う年金支出の増大等により高まっていることによる。

91年度予算は,連邦体制の再編に伴って予算を連邦予算と共和国予算に分離して作成することとなった。連邦予算の歳入は2,501億6千万ルーブル,歳出は2,768億2千万ルーブルで266億6千万ルーブルの赤字が見込まれている。91年度予算に関しては,共和国から連邦へ拠出する納付金の額をめぐって連邦とロシア共和国との間で対立があったが,1月8日のゴルバチョフ・エリツィン会談で妥協が成立し,両者間で1年間の暫定経済協力協定が調印されたことにより,他の共和国もこれに倣って連邦との間で経済協力協定を調印した。この結果,連邦予算の審議が可能となり,1月10日,ソ連最高会議は政府提出の大幅赤字を見込んだ91年度予算案の総額を基本承認した。

これに先立ち,12月29日,ゴルバチョフ大統領は,市場経済移行の過渡期の中で,低所得者層の保護,国家研究開発投資等の財源確保を図り,また,過剰流動性を吸収して経済の安定化を図る目的で,①91年1月初より5%の税率の売上税を導入する,②経済安定化国家基金を91年度に創設する,との大統令を公布した。

(2)金融

ソ連は巨額の財政赤字を通貨の増発で賄ってきたことを認めているが,こうした過剰なマネーサプライの吸収が重要な金融政策上の課題となっている。銀行システムを再編成して中央銀行とそれ以外の商業銀行に分け,中央銀行によるマネーサプライ管理を適切に行うことを目指している。また,現行0~2%程度の金利水準を7~8%にまで引き上げる予定となっている。

国民の貯蓄銀行への預金残高は90年末で3,646億ルーブルで,前年末比7.8%増となっている。

(3)政治機構改革

90年に入り,ソ連の政治機構改革は急速な進展をみせた。2月の共産党中央委員会総会では共産党一党独裁の放棄が決定され,3月には大統領制が創設されてゴルバチョフ初代大統領が誕生した。大統領の下には大統領会議,大統領連邦会議が新設され,共産党が全てを決定してきた従来の方式から,大統領を中心とする国家機関が決定を行う方式に移行した。こうした大統領への権力集中が図られる一方,バルト3国は3~5月にかけて相次いで独立を宣言し,6月にはソ連で最大の共和国であるロシア共和国が「国家主権宣言」を行うなど,急速な分権化の動きも活発化した。このような動きに対してゴルバチョフ・中央政権は,共和国主権を大幅に認める新たな連邦条約を中央と各共和国が締結することを提唱し,「主権国家連合」(6月),「主権共和国連邦」(11月),「主権ソビエト共和国連邦」(11月)等の連邦体制の再編を目指す構想を次々と発表した。しかし,共和国の支持は必ずしも得られておらず,各共和国は独自に共和国間や外国との間で2国間条約を締結する動きに出ている。

新連邦条約の草案は修正が重ねられた後,90年12月3日に連邦最高会議で基本承認され,人民代議員大会に提出された。しかし,人民代議員大会は,12月24日,「主権共和国連邦」の維持を決議し,連邦維持の原則は承認されたものの,①大統領を議長として各共和国,自治共和国の代表を加えた準備委員会で条約案作成を急ぐ,②刷新された主権共和国連邦に入るかどうかは各共和国で国民投票を実施する,との2点の付帯意見を付した上で基本採択されたため,新連邦条約革案は事実上準備委員会に差し戻され,条約の早期締結は難しい情勢となった。一方,この新連邦条約を前提とした連邦憲法の修正案が連邦最高会議を経て人民代議員大会に提出され,①副大統領制の導入②大統領,副大統領,各共和国元首(共和国大統領又は共和国最高会議議長)で構成する大統領連邦会議を内外政策の最高決定機関とし,大統領会議を廃止③大統領直属の新内閣制の創設④国内治安の統括を目的とする国家安全保障会議の創設,といった修正が承認された。更に,大統領令等の末端への浸透を図るため,新設の最高仲裁裁判所に法令の履行状況を,チェックする機能を持たせることが決まった。また,「地方執行機関は大統領令や連邦法を履行する義務を負う」との条項が加えられ,履行義務を明文化した。この結果,連邦と各共和国との間の調整は連邦会議で行い,連邦の行政権限は大統領を頂点に副大統領,内閣と続く縦の線に一本化され,大統領権限を大幅に強化するものとなっている。このため,連邦からの完全独立を目指すバルト3国等の共和国は新連邦条約の調印を拒否する姿勢を示しており,今後の連邦再編にはかなりの困難が予想される。


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