平成2年
年次世界経済報告 各国編
経済企画庁
I 1989~90年の主要国経済
第4章 ドイツ:西の景気拡大,東の生産縮小
西独地域では,高水準の稼働率に示される供給制約があるなかで,東独地域の需要増に応えるため輸出を東独地域への財供給に振り替えるとともに輸入を拡大しており,貿易収支黒字は縮小している。一方東独地域については,生産の低迷による輸出力の低下と輸入の増大がみられる。この結果,ドイツ全体での貿易収支黒字も縮小している。
商品輸出額は,89年にEC諸国向け輸出,資本財輸出を中心に大幅に増加し,前年比12.9%増となった後,90年に入ると輸出の伸びは大きく鈍化し,1~9月前年同期比で0.8%の伸びとなった。90年1~9月の地域別の動向をみると,輸出総額の約6割近くを占めるEC諸国向けが前年同期比0.3%減少し,共産圏向けが同3.2%減少した一方で,OPEC諸国向けが同9.7%増,発展途上国向けが同4.6%増,アメリカ向けが同3.9%増となった。また財別では,90年1~8月に全体の6割近くを占める資本財が前年同期比4.2%増,消費財が同4.6%増となったのに対し,基礎財は同0.2%減少した。商品輸入額は,89年に前年比15.2%増と大幅に増加した後,90年上半期には伸びが大きく鈍化した。しかし通貨同盟発効前後から,いわゆる東独効果によって最終財をはじめとする財の輸入の伸びが全般的に回復した。東西ドイツ間貿易(統一前は国内取引として計上)は90年4~6月期に著しく拡大した(第4-10図)。東ドイツへの輸出は,89年に前年比12.0%増の81億マルクとなった後,90年に入ると,食料品(特に農産物),資本財等を中心に1~3月期に前年同期比22%増の20億マルク,4~6月期同299%増の58億マルクと伸びは加速した(特に,90年6月には前年同期比533%増の35憶マルクと驚異的な伸びを示した)。一方東ドイツからの輸入は,89年に前年比6.1%増の72億マルクとなった後,90年には一次産品や準贅沢品等を中心に1~3月期に前年同期比3%増の18億マルク,4~6月期同21%増の22億マルクとなった(90年6月には前年同期比73%増の10憶マルクとなった)。
貿易収支黒字は,88年の1,281億マルクから89年には1,346億マルクに大きく拡大し,過去最高を記録した。90年に入ると,上半期に647億マルク(前年同期:703億マルク)となった後,統合効果(輸出の減少と輸入の増加)により7~9月期には191億マルク(前年同期:343億マルク)に縮小した(第4-11図)。
経常収支黒字も,88年の883億マルク(GNP比5.2%)から89年には1,041億マルク(同5.9%)に拡大し,史上最高を更新した。90年に入ると,1~3月期288億マルク(前年同期:309億マルク),4~6月期180億マルク(同272億マルク)と黒字幅が縮小し,GNP比でも1~3月期6.3%から4~6月期3.9%と大きく縮小している。
東独地域のOECD諸国との貿易を87年以降についてみると,輸出はドル建て金額ベースで,フランス,オランダ,スペイン,スイス,ユーゴスラビア向けが増加しているが,数量ベースではほぼ横ばいとなっている。東西ドイツ間貿易を含んだドル建て金額ベースでは,輸出が88年,89年と低迷する一方で輸入が87年以降堅調に伸び,貿易収支は87年の16.5億ドルの黒字の後,88年,89年は各々4.7億ドル,7.3億ドルの赤字となった(第4-12図)。90年に入ると,上半期に輸出が前年同期比17.0%減,輸入が同15.6%減となったことから,貿易収支は32億東独マルク(約10億ドル)の赤字となった。
一方コメコン諸国との貿易では,90年上半期には輸出が前年同期比4.6%減,輸入が同15.7%減となり,貿易収支は61億東独マルクの黒字となった。91年1月には決済方式が振替ルーブルからハード・カレンシーに移行するなどの改革が予定されている。コメコン諸国との貿易関係に対するドイツ統一の影響としては,対ソ貿易関係の強化とその他の東欧諸国に対する貿易関係の希薄化という現象がみられる。7月に発効した「両独通貨・経済・社会同盟の創設に関する国家条約」の第11条3項では「コメ-コン諸国とのすでに行われている対外政策を考慮しつつ,ECの法と経済政策目標に向けて前進する」とされた。しかし8月初旬にはチェコ・スロバキアは対して7億ルーブル相当の取引契約の不履行が発生し,その報復としてチェコ・スロバキア政府はコルナの対ルーブル・レートを引き下げるなど東独地域からの輸入を厳しく制限する措置にでた。
一方ソ連との関係については,11月の「独ソ善隣友好協力条約」の第8条で「両国関係の安定的な発展のため,双方は経済,産業,科学技術,環境の各分野での協力を強化する」とし,食料援助など積極的な経済支援の動きがみられる。