平成2年

年次世界経済報告 各国編

経済企画庁


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I 1989~90年の主要国経済

第4章 ドイツ:西の景気拡大,東の生産縮小

2. 需要動向

(西独地域-消費,投資中心の力強い拡大)

西独地域経済は,83年初以来拡大が続き,89年には,年初の暖冬等の特殊要因に加え,投資,輸出がプラスの成長要因として働き,実質成長率で前年比3.9%増と,80年代最高の経済成長を達成した。89年秋からの東独・東欧からの大量の移民流入は,消費や住宅需要を一段と増加させ,内需主導の景気拡大要因ともなった。90年に入ると,1~3月期に暖冬,移住者向けの住宅建設による建設投資の好調や年初における所得税減税の実施を主因とした消費の好調等により,前期比3.6%増(前年同期比4.5%増)と大きく伸びた後,4~6月期には,主としてその反動により同0.9%減(同3.4%増)とやや減速した。90年上半期(1~6月期)をみると,前年同期比3.9%増と消費,投資を中心に力強い拡大を示した。7~9月期には,設備投資や純輸出の好調により,前期比1.7%増(前年同期比では5.5%増)となった。また90年全体の経済成長率は,個人消費や設備投資を中心とした内需の好調により前年比4.6%増と76年以降の高い伸びを記録した(第4-1表)。

第4-1図 西独地域の家計可処分所得と消費動向

(1)個人消費:所得税減税と統合効果により好調

実質個人消費は,88年に前年比2.7%増となった後,89年には年初の個別消費税引き上げ・導入等の影響により伸び悩み,同1.7%増と伸びが鈍化した。

90年に入ると,年初の所得税減税(233億マルク)の実施等により1~3月期に前期比2.7%増と大きく伸びた後,4~6月期同0.6%増となった。この結果,90年上半期は前年同期比増加率4.3%,成長への寄与度が同2.3%となった。さらに通貨同盟発効後の7~9月期には,東独市民の西独製品に対する需要が高い伸びを示した(しかし,東独市民の西独地域における消費は実質輸出として計上されているため,個人消費は7~9月期前期比0.3%減となっている)。全体90年の実質個人消費は前年比4.4%増と極めて高い伸びを示した(同寄与度2.4%と成長の主因となった)。

消費支出面からみると(第4-1図),小売売上数量は90年4~6月期前期比横ばいの後,通貨同盟発効直後の7月には前月比8.3%増と急増した。乗用車新規登録台数は,90年4~6月期に前年同期比0.1%減となった後,西独製の中古車に対する東独市民の需要増から中古車価格が上昇し,西独市民の中古車売却・新車購入の動きが強まり,7~9月期同13.5%増,10月前年同月比20.6%増と大幅に増えた。

所得面からみると(第4-2表),純賃金・俸給(税引き後)では90年上半期に所得税減税の導入の影響により前年同期比10.8%増と89年の伸び(前年比3.6%増)を大きく上回った。一方利子・配当等の財産所得は89年前年比,90年上半期前年同期比のいずれも7.0%増となった。この結果,可処分所得は90年上半期前年同期比7.8%増となり,物価上昇率を差し引いた実質可処分所得は同5.3%増となった。また家計貯蓄率は,89年12.5%から90年上半期には13.7%とやや高まった。

(2)機械設備投資:底固い景気拡大要因

実質機械設備投資は,88年以降の企業家マインドの好調(第4-2図),良好な企業収益,高水準の稼働率(90年9月89.9%)等により,89年に前年比9.7%増と80年代最高の伸びとなった。90年に入っても好調を維持しており,1~3月期前期比6.6%増と高い伸びを示した後,4~6月期同横ばい,7~9月期同2.8%増となった。90年全体の実質機械設備投資は,前年比12.1%と大きく伸びた(同寄与度1.2%と成長に大きく寄与)。今後,ドイツ統合による需要増に応えるためにも,またEC統合に備えるためにも,こうした投資の堅調は続いていくものとみられる。

(3)建設投資:移民流入と暖冬による大幅増

実質建設投資は,88年,89年ともに1~3月期の暖冬の影響から増加し,各々前年比3.3%増,5.1%増と好調な伸びとなった。

89年秋以降は,ベルリンの壁崩壊前後からの大量の移民流入に伴い住宅建設が増加し,住宅受注指数は89年10~12月期に前期比で19.7%増,90年1~3月期には暖冬の影響も加わり同6.5%増と大きく伸びた。こうした状況をうけて,実質建設投資は,90年に前年比5.0%,成長への寄与度同0.6%となった。

(4)在庫投資:90年の成長への寄与度は0%

実質在庫投資は,89年に224億マルクと前年に比べ投資額が増加した後,90年には1~3月期に17億マルクの減少,4~6月期に57億マルクの増加,7~9月期には72億マルクの増加となった。90年上半期の前年同期比寄与度は0%,90年全体でも同0%となった。

(5)輸出・入:外需の寄与はマイナスに

実質輸出は,88年に前年比5.7%増となった後,89年にはEC諸国向けの資本財輸出を中心に同11.5%増と大きく伸び,成長の牽引の役割を果たした。90年に入ると,1~3月期前期比8.6%増の後,4~6月期には同3.1%減となった。通貨同盟発効後の7~9月期には,西独地域から東独地域への財供給が増加したことを主因に,前期比6.8%増と急増し,90年全体では前年比9.5%増となった。

実質輸入は,88年前年比6.0%増の後,89年同8.8%増と比較的高い伸びとなった。90年に入ると,1~3月期前期比2.6%増,4~6月期同0.3%減となった後,7-9月期には,西独地域の供給余力が乏しいなかでの輸出増を背景に,輸入も前期比3.8%増と増加し,90年全体では前年比10.9%増となった。

これにより,経常海外余剰の成長への寄与度は,88年前年比0.1%,89年同1.2%の後,90年同マイナス0.1%となり,これまでの外需依存型の成長パターンが内需主導型に変化してきている。

(東独地域)

東独地域の生産国民所得は,80年代に入り前年比4~5%の伸びを続けてきた(第4-3図)。しかし89年に前年比2.0%増(計画4.0%増)となった後は,89年秋以降の大量の労働力流出,政治・経済制度の大幅な転換による経済活動の混乱等から,90年上半期に前年同期比7.3%減のマイナス成長となった(6月は前年同期比15.1%減)。

第4-4図 西独地域の部門別生産と製造業稼働率の推移


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