平成2年

年次世界経済報告 各国編

経済企画庁


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I 1989~90年の主要国経済

第4章 ドイツ:西の景気拡大,東の生産縮小

1. 概  観

90年10月3日,東ドイツが西ドイツに編入され,統一ドイツが成立した。東ドイツの西ドイツへの編入は,東独経済の西独型経済への全面的な移行を意味し,東独経済は厳しい構造調整を余儀なくされている。すなわち,西独製品の流入,東独製品への需要減退により東独地域の生産は大幅に減少し,企業倒産,大量の失業が発生している。物価も通貨同盟発効直後の一時的な急上昇により,価格体系の大幅な調整が行われた。一方西独地域では,西独製品に対する東独地域からの需要増により消費・生産が拡大しているが,供給余力が乏しい状況の下,輸入が大幅に増加し,貿易収支黒字は縮小する方向にある。また東独地域再建のための財政負担も大幅に増加している。

西独地域経済を概観すると,83年初からの景気拡大は8年目となり,90年に入ると,内需の力強さが一層増している。上半期には,年初の所得税減税による個人消費の好調,暖冬や移住者向けの住宅建設による建設業の好調等を背景に,前年同期比3.9%増となった。下半期も,通貨同盟の発効により東独市民の西独製品への需要が高まったことを主因に内需主導型の経済成長が続いており,90年全体では前年比4.6%増と76年(同5.6%増)以来14年ぶりの高い成長となった(政府の90年成長率見通しは,年初の3%以上から,3月に3.5%,9月に4%,11月には4.5%と期を経るにつれて上方改訂された)。雇用情勢は依然厳しいものの景気拡大が持続するなかで改善している。貿易収支黒字は,前述したように東独地域からの需要の増加等により90年4~6月期以降縮小している。物価は,90年前半まではマルク高や石油製品価格の低下等が上昇圧力を減じる方向に働きおおむね落ち着いていたが,8月以降は石油価格の上昇の影響からやや高まった。

東独地域の生産国民所得は,89年に前年比2.0%増と伸びが鈍化した後,90年上半期には前年同期比で7.3%の減少に転じ,90年のマイナス成長は確実な情勢である。

こうした状況の下,金融政策は引き締め気味に運営されている。ドイツ連邦銀行は11月初,短期市場金利の高まりに対応してロンバート・レートを8.5%に引き上げた(公定歩合は6%のまま据え置き)。

91年の経済動向については,五大経済研究所が秋季合同報告で,統一ドイツの経済成長率は前年比1.5%との見通しを発表しているが,政府はこれをあまりに悲観的と批判している。

90年12月2日の58年ぶりの統一ドイツ連邦議会総選挙では,早期統一を実現したCDU/CSU(キリスト教民主/社会同盟),FDP(自由民主党)の連立与党が約55%を得票して勝利をおさめた。


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