平成2年
年次世界経済報告 各国編
経済企画庁
I 1989~90年の主要国経済
第3章 イギリス:景気後退色強まる
平均賃金収入上昇率は,失業率の低水準を背景に,89年9.1%の後,90年に入ってからも更に高まっており,基本指数(賃金支払いの遅れ,協約改訂時期のずれ,ボーナス支給印などの不規則な動きを調整したもの)は年央以降二桁にのせ,8~9月には10.0%とな,った(第3-8表)。もっとも,最近の景気の冷え込みから,本年度賃金協約妥結率は上げ止まりが若干低下している(CBI調査,4~6月期9%,7~9月期8.5%)。
消費者物価上昇率は,89年後半から90年初にかけては7%台と比較的落ち着いた動きであったが,春以降,急激に高まり,8~10月には二桁上昇となった(90年10月の前年同月比上昇率10.9%)。90年春以降の急上昇は,①3月の予算措置による間接税(たばこ,アルコールなど)引き上げ(注1),②4月の地方税制改革によるコミュニティ・チャージ(いわゆる人頭税)への移行(注2),③6月の住宅ローン金利の引上げ(注3)などに加えて,④8月以降は原油価格上昇に伴うガソリン,交通費などの引上げといった一時的な上昇要因が集中したことによるところが大きい(第3-9表)。しかし,住宅ローン金利,人頭税を除いた基調指数でみても,88年以降根強い上昇傾向を示している(第3-2図)。これは,基本的には,景気過熱の後遺症に加え,失業率の低下を背景とした高賃上げの持続や,このところの景気悪化による生産性の伸び悩みによる労働コストの上昇によるものとみられる(第3-8表)。
生産者価格のうち原燃料価格上昇率は,89年にはポンド相場の低下(年間約12%)による輸入価格上昇率の高まり(6.7%)もあって,前年比5.8%に高まった。90年に入ってからは,ポンド相場が上昇したためむしろ低下傾向にあったが,8月以降は石油価格上昇から前月比では上昇した(90年1~11月の前年同期比横ばい)。工業品価格上昇率(前年比)は,89年5.0%の後,90年に入ってからも高まりを示したが,年央の6.3%をピークにやや低下し,11月現在5.8%となっている。今後は,需要の弱さが続くものの,これまでの石油価格の上昇が波及するため,高水準にとどまるとみられている。