平成2年
年次世界経済報告 各国編
経済企画庁
I 1989~90年の主要国経済
第3章 イギリス:景気後退色強まる
輸出(通関ベース)は,89年に前年比14.1%増と大幅に回復した後,90年に入ってからも増加傾向を続けており,1~9月の前年同期比は13.5%増となっている(3-10表)。石油輸出が89年夏の北海油田事故の復旧の後急増し,90年1~9月の前年同期比28.1%増(89年1.8%減)となっていることに加え,工業品輸出も89年中のポンド安やEC経済の拡大から,特に資本財,乗用車などを中心に好調で,89年15.3%増の後,60年1~9月の前年同期比13.7%増と堅調な伸びを続けていることによる。世界の工業輸出に占めるイギリスのシェアは,83年頃からは6%前後を維持してきたが,90年には6.2%とやや高まった。しかし,工業品の国際競争力は,90年には賃金上昇率が生産性の伸びを上回り,単位労働コストの上昇が主要競争相手国のそれを上回ったことや,ポンド相場の上昇によりかなり低下しており,輸出業者は輸出マージンを引き下げて,シェアの維持に努めているとみられる。
一方,輸入(同)は,内需の鎮静化を反映して急速に伸びを鈍化させており,90年1~9月の前年同期比は5.5%増となった(89年13.3%増)。特に,これまで国内の活発な製造業投資を背景に二桁増を続けてきた資本財輸入が90年1~9月の前年同期比で2.4%減(89年15.0%増)と減少し,乗用車輸入も国内販売の低調から同0.5%増7(89年12.8%増)と伸び悩んでいる。
このため,貿易収支赤字幅は89年の238.4億ポンドから,90年1~9月累計148.2億ポンドと前年同期(192.4億ポンド)を大幅に下回って改善している。
イギリスは石油純輸出国(89年石油収支黒字14.8億ポンド,GDP比0.3%)であるため,90年8月の原油価格急騰により,石油収支黒字幅は拡大するとみられる。
経常収支赤字は,貿易外収支黒字が対外利払い増等により縮小しているものの,貿易収支赤字の縮小が進んでいるため,89年夏以降徐々に縮小しており,90年1~11月累計は150億ポンドと前年同期(189億ポンド)を下回った。ただし,依然高水準の赤字である。
貿易収支赤字は,石油収支黒字の改善(89年15億ポンド→90年1~9月計12億ポンド)や非石油収支赤字幅の縮小(89年253億ポンド→90年1~9月計161億ポンド)などから大きく縮小した(第3-11表)。一方,貿易外収支黒字は,支払い利子の増加などによる利子・利潤・配当(IPD)の黒字幅の縮小から小幅化を続けており,88年57億ポンド,89年42億ポンドの後,90年上期には約20億ポンドとなっている。
イギリスの国際資本取引きは,対外,対内とも引き続き活発であり,特に,89年には対外証券投資,直接投資を中心に307億ポンドの大幅純増(88年818億ポンド)となった(第3-12表)。ただし,この増加はすべてポンド相場の低下による評価増(347億ポンド)によるもので,資本フローは40億ポンドの純減であった。この結果,89年末の対外資産残高は1,125億ポンド(1,740億ドル),対GDP比21.0%に高まった(88年末は16.4%)。しかし,90年央にかけてはポンド相場は逆に上昇し,このため90年6月末現在の対外資産残高は338億ポンド減(うち評価減240億ポンド)と暫定推計されている(イングランド銀行)。