平成2年
年次世界経済報告 各国編
経済企画庁
I 1989~90年の主要国経済
第3章 イギリス:景気後退色強まる
実質GDP(生産ベース)の伸びは,88年4.9%,89年2.5%,90年上期1.9%(前年同期比),7~9月期同0.6%と鈍化して易り,政府は90年全体では1%に止まるとみている。特に,90年下期には,個人消費,設備投資とも伸び悩み,住宅投資が更に減少するなど内需が上期を下回り,実質GDPも低下し,景気は後退色を強めるとみられている。内需のGDP寄与度は88年の8.0%から89年には3.2%に低下した。これに対して,外需は,引き続きマイナスではあるが,輸出の伸びが高まり,輸入の伸びが鈍化したことから,寄与度のマイナス幅は縮小した(第3-1表)。
実質個人消費(国民所得ベース)は,89年3.9%増と伸びを鈍化させた後,90年に入ってからも上期は前年同期比2.8%増と増勢を維持した(第3-2表)。しかし,小売売上数量(乗用車を除く)でみると,4~6月期前期比0.5%増,7~9月期同0.6%減と年央以降伸び悩みを示している(1~11月の前年同期比1.0%増)。耐久財や住宅関連消費の不振が目立っており,90年上期の耐久財は前年同期比4.2%減となっている。特に,新車登録台数は89年央以降減少傾向にあり,89年下期前年同期比1,0%減の後,90年上期同11,7%減,7~8月同13.7%減となっている。実質個人可処分所得は,89年5.3%増,90年上期4.0%増(前年同期比)と堅調な伸びを続けている。しかし,家計の負債比率が高まっている中で,高金利がマイナスの影響を及ぼしていることに加え,インフレの高進や住宅価格上昇の頭打ちとともに消費者心理も慎重化していることを背景に家計貯蓄率がやや高まり(89年6.7%,90年上期7.6%),消費の伸びも鈍っているものとみられる。
87,88年の設備投資ブームも89年には鎮静化し,90年の民間設備投資は1%減と政府は予測している。実質製造業固定投資(リースを含む)は,89年9.1%増の後,90年1~3月期前期比4.5%増,4~6月期同7.5%減,7~9月期同4.4%減(前年同期比7.8%減)と急速に悪化している。この背景には,企業利潤の伸び悩み(90年上期,前年同期比9.3%減),製造業稼働率の低下(最近のピーク時88年4月94.8%→90年7月86.2%),企業の景況感の悪化などがあるとみられる(第3-3表)。
実質住宅投資は減少を続けており,89年全体で3.0%減少の後,90年1~3月期には前期比3.9%減,4~6月期5.0%減となっている(90年政府見通し6%減)(第3-3表)。住宅着工件数も,90年上期前年同期比25.4%減ときわめて低水準を続けている。高金利,住宅価格の対個人所得比率の高まり(住宅取得能力の低下),消費者信頼度の低下などが,住宅不況の主因とされている。
在庫投資は,89年末にかけて大幅に低下し,89年全体のGDP寄与度はマイナス0.4%となった(第3-4表)。90年上期には,製造業では依然減少を続けたが,全体では増加した。しかし,その後景気は更に悪化しているため,在庫調整が行われているとみられる。在庫投資率(対GDP比,1984年10~12月期=100)は,長期的な低下傾向にあり,89年の91から90年上期には89に低下している(80年代初は112)。製造業については水準はより低く,89年82,90年上期80(80年代初は106)となっている。