平成元年
年次世界経済報告 各国編
経済企画庁
I 1988~89年の主要国経済
第4章 西ドイツ:80年代最高の経済成長
89年西ドイツ政府年次経済報告書によれば,連邦政府は財政支出を抑制し,公共部門の比率を引き下げて競争原理の浸透を図るとともに,運輸・通信,金融,保険部門における規制緩和を図る構造政策を今後さらに進めていくこと,さらに,86年,88年に続く第3段階の「90年税制改革法」により,直接税を広範囲かつ持続的に引き下げ,市場の働きを強化する等の方針を示している。税制面では,財政再建が最重要課題とされているが,他方,勤労意欲の促進,国際的競争力確保を目的に税制改革も進められている。
税制改革は,86年及び88年に実施され,それぞれ109億マルク,134億マルクの所得税減税がなされた。また,90年税制改革法が,88年7月に成立した。同法によると,所得税の最高税率と最低税率の引き下げ,及び累進税率の直線化が図られており,法人税についても現行の56%から50%へ税率を引き下げている。所得税率と法人税率の引き下げにより,372億マルクの減税が見込まれる一方,利子所得に対する10%の源泉課税の導入(89年1月より)等により181億マルクの財源措置がとられることで,ネットの減税額は191億マルクとなるはずだったが,利子源泉課税が89年7月に廃止されたことで,ネットの減税額は233億マルクに拡大した。利子源泉課税廃止を織り込んだ90年税制改革法改正案は89年5月に閣議決定され,さらに50億マルクの追加減税が予定されている。
90年度連邦政府予算(89年12月)は,東欧情勢が大きく変化するなかで,歳出面で,東ドイツ等からの移住者急増に対処して,公共住宅建設費の増額を決定したことなどにより,前年度補正後比3.0%増となった。また東欧援助のための支援プログラムの内容が策定中であるため,必要に応じて今後補正予算で対応するとしている。一方歳入面では,好景気を反映して税収見積もりが上積みされたことから,前年度補正後比3.7%増となった。この結果,純借入額は269億マルクと,前年度補正後の278億マルクからやや縮小した(第4-4表)。
金融政策は,マネーサプライが3年連続で目標を上回る増加を続け,政策金利も引き下げが続くなど,88年半ばまで緩和基調にあったが,その後は景気好調,先行きインフレ懸念などを背景に金利が引き上げられるなど,引き締めに転じている(第4-7図)。
公定歩合は,87年10月の株価暴落後,12月に史上最低の2.5%に下げられた後,88年に入って段階的に3.5%まで引き上げられた。89年初にはマルク安,個別消費税の引き上げ,原油価格の上昇,製品需給のひっ迫による物価上昇率の高まりを背景に,1月に4.0%へ引き上げられたことを皮切りに4月,6月,10月と相次いで公定歩合が引き上げられ,6.0%となった。
マネーサプライは,86年初以来大幅な増加を続けた。西独連銀は,88年のマネーサプライの管理手段をそれまでの中央銀行通貨量から現金ウェイトの小さいM3(流通現金+要求払預金+4年未満の定期預金+法定解約告知期間〔3か月〕付貯蓄預金)に変更し,目標増加率を3~6%(10~12月期の前年同期比)としたが,88年全体では6.9%の増加となった。89年のM3増加目標は,約5%(88年10~12月期対比年率)とされ,従来のような幅は設定されなかった。
89年央にかけては,目標値を上回る増加となったが,金融引き締めの影響により増加は緩やかになり,6月の4.3%以降は目標値を下回り,11月には4.6%となっている。また,90年のM3増加目標は4~6%とされた。
また,西ドイツ経済相は,89年11月,有価証券取引税を91年1月に廃止する意向を明らかにした。有価証券取引税とともに,株式を初めて購入した時点で課される取引税(1%)も同時に廃止されることとなった。有価証券取引税は,証券取引がフランクフルトから外国の金融センターに流出する原因として金融界から批判が強かった。