平成元年

年次世界経済報告 各国編

経済企画庁


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I 1988~89年の主要国経済

第4章 西ドイツ:80年代最高の経済成長

7. 経済見通し

89年1月末閣議決定された「年次経済報告」に基づく89年の成長率見通しは,約2 1/2%であった。しかし,年初の暖冬による建設投資の好調,輸出および投資収益増による経常海外余剰の大幅増加等をうけて,7月には3.5%へ上方修正された。夏以降は,89年の成長率は4%,90年が3%台との見方が大勢を占めている。89年11月にはベルリンの壁が開放され,それと前後して東ドイツから大量の移民が流入している。彼らが西ドイツ経済に与える影響は未知数であるが,今後,消費や雇用,子女教育等の各分野で大きな影響を与えることになるとみられる。この移民流入が西ドイツの経済成長率を少なくとも0.5%ポイント上昇させる,という見方が大勢であるが,いずれにしても現在の外需依存型の経済構造に変化を促す試金石となるのは間違いないとみられる。

(五大研秋季合同報告)

10月末,五大経済研究所は秋季合同報告を発表した(第4-5表)。経済見通しについては,①実質GNPは89年が4%増,90年が3%増といずれも春季報告の3%増,2.5%増から上方修正,②東欧からの移民流入により労働供給が増大することから,失業者数は89年が203万人,90年が200万人と横ばい,③個人消費デフレーター上昇率は,89年が3.5%,90年が3%,④経常収支黒字は,89年にこれまでで最高の1,100億マルクとなった後,90年は1,150億マルクに拡大,などとしている。政策提言としては,①賃金の大幅引き上げやこれ以上の労働時間短縮は行うべきでなく,5~5.5%の賃上げに止めるこどが望ましい,②マネーサプライが持続的に目標値を下回るようであれば,連銀は即座に通貨供給を拡大すべきである,③EMS(欧州通貨制度)参加国は為替レートへの配慮から利上げを行うべきではない,などと述べている。

(経済専門家委員会年次報告)

11月末,政府諮問機関の経済専門家委員会(五賢人委員会)は年次報告を発表した(第4-5表)。同委員会は,89年に急増した東ドイツがらの人口流入の影響を,今後も東ドイツ情勢が流動的であると予想されることから,90年に移住者がさらに流入するのか,あるいは逆に再流出するのかを予測するのは困難であるため,90年における東ドイツから西ドイツへの移民流入数をゼロと仮定して以下の見通しを行っている。経済見通しについては,①実質GNPは,89年が外需主導により4%増,90年は所得税減税を主因に個人消費が盛り上がり,内需主導で3%増,②90年春にかけて本格化する賃上げ交渉では,時間当たり賃金ベースで5.5%程度上昇,全体としての賃金コスト上昇率は3%,③個人消費デフレーター上昇率は,89年,90年とも3%,90年末は3.5%,④輸出の伸びが89年11%,90年6%,輸入の伸びが89年7%,90年7%となり,貿易収支,経常収支とも黒字増加,等としている。政策提言としては,①EMSにおける各国通貨の再調整によるマルク価値の切り上げ,②90年のマネーサプライについては,物価上昇を抑制しつつ,その一方で力強い成長の余地を確保する見地から,90年第4四半期のM3の前年比伸び率を5%にすることを目標にすべきである,などと述べている。

(OECD見通し)

12月中旬発表されたOECD見通しによると(第4-5表),①実質GNPは,89年が4.3%増,90年が3.2%増,②個人消費は,89年の1.8%増から90年は減税や東欧からの移民の影響で3.5%増へ拡大,③失業率は,89年に7.3%,90年に7.1%と改善が進む,④個人消費デフレーター上昇率は,89年の3.3%から90年には2.6%に低下,⑤経常収支黒字は,89年の609億ドルから,90年は708億ドルに拡大,等としている。

(その他の機関による経済見通し)

89年の経済成長率を4%,90年を3%としている政府の経済見通しを支持する内容となっており,90年の西ドイツ経済は好調な国内消費に支えられて鉱工業生産が拡大,設備稼働率も最高水準を維持,企業業績も好調で,力強い経済成長が続くと予想している。

各機関の発表した経済見通しの要点は以下の通り

*ドイツ産業連盟(BDI)

輸出と設備投資が引き続き経済成長の重要な柱になるが,90年の最も強力な景気浮揚要素は個人消費であろう。個人消費は,減税の効果もあって89年を240億マルク上回ると予想される。東欧からの移民急増で個人消費は一層押し上げられ,建設活動も促進されるだろう。

* HWWA(HWWA-Institut fur Wirtschaftsforschung,Hamburg)

89年の製造業の設備投資は,受注増を反映して前年比10%余り増加するだろう。90年は設備投資の伸びが6%台に鈍化するが,依然高い水準となる。


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