昭和63年

年次世界経済報告 各国編

経済企画庁


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I 1987~88年の主要国経済

第10章 中国:89年以降は経済過熱調整

5. 消費動向

企業労働者賃金総額は,84~85年の賃金引き上げ以降高い伸びを示しており,85年前年比22.0%増,86年同20.0%増となった後,87年には賃金抑制の方針が出されたが,賃金の2割弱にあたる報奨金が同30.2%も伸びたことから,賃金は87年にも同13.3%増と拡大した。

農民一人当たり収入は,85年に副産物の価格自由化などが行われたこともあって増加し,85年前年比11.9%増,86年同6.6%増,87年同9.2%増となった。

商品小売総額は,85年に27.5%増と拡大した後,86年にはやや抑制されて同15.0%増,87年には同17.6%増であった。88年には物価上昇期待が高まり,一部で買い急ぎなどがみられたことから急増し,1~11月で27.6%増となった。

小売物価上昇率は,87年に前年比7.3%となった後,88年5月には副食品(豚肉,卵,野菜,砂糖)の価格自由化が行われたことなどもあって,自由市場や都市部を中心に上昇デンポを高め,1~6月期前年同期比13%,8月には前年同月比23.2%と急上昇となった(自由市場価格7月同33.2%)。その後,預金金利を大幅に物価上昇率が上回ったこともあって,預金をおろして消費に充てる動きが一部でみられるようになり,物価の上昇テンポはさらに高まり,88年全体では前年比18.5%となった(前掲10-1表)。

こうしたなか中国人民銀行(中央銀行)は,9月1日から,預金金利(一年物個人定期預金)を従来の7.2%から8.64%に引き上げ,貸付金利(一年以内)を7.92%から9%に引き上げる等の措置を採ったが,当面中長期預金金利は物価スライド制をとり,預金の目減りを補填することとなった。

88年の過熱は,86年の抑制が不徹底であったこともあって再燃したともみられる。84年第4四半期には,国家公務員の賃金引き上げや,国営企業等の投資急増などの下に,通貨供給量が増大し(84年末年率35.1%),消費も活発化したことなどから85年にはかなり物価が上昇した。これは金利の引き上げによって,86年にはやや鎮静化したと見られていたが,この間も賃金の抑制が不十分であったことから,購買力はかなり増加していたと考えられる。87年以降は,こうした購買力の増加を背景に消費熱が再燃し,物価も上昇幅を高めた。特に88年に入ると,物価上昇に対する補填金(一人当たり月約10元)が国から支払われたこと,また,価格改革が日程に上がったことから,物価の先高感が強まり,消費が前倒しに行われたことなどもあって過熱状態を呈し,物価上昇のテンポが高まったとみられる(第10-1図)。


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