昭和63年
年次世界経済報告 各国編
経済企画庁
I 1987~88年の主要国経済
第8章 アジア・中東諸国
輸出の規模が名目GNPの59%(87年)と大きなウェイトを占める台湾では,86,87年は輸出好調が続き,生産・投資にも波及して,高成長を遂げた。貿易収支黒字は86年156億ドル,87年186億ドルと急増したが,黒字のほとんどが対米であることから,その不均衡の縮小が求められており,為替レート調整の他,対米輸入拡大,輸出先分散を進めている。88年には為替,賃金の上昇等の下で輸出が鈍化した一方,輸入が急増し,貿易収支黒字は109億ドルと縮小した。88年の経済成長率は,外需寄与度が大幅なマイナスとなる一方,内需が好調なことから7.1%の成長が見込まれている。
物価は,ここ数年落ち着いた動きを示している。しかし,88年後半以降,賃金上昇率の高まり,原材料のひっ迫等もあって,若干上昇傾向もみられる。
86年の実質GNPは,輸出の大幅な伸びに伴い,生産・投資が活発化したこと等から前年比11.7%(純輸出の寄与度6.1%)という高い成長となった。87年には,為替レートが85年末から87年末の間に約40%切り上がったこともあって,輸出がやや鈍化したが,内需が好調に推移し,成長率は同11.9%増(純輸出寄与度△0.8%)となった(第8-2-1表)。
88年に入ってからは,内需は消費・投資とも好調であるものの,輸出は為替,賃金上昇等によりコストが上昇したことから伸び悩む一方,輸入は急増したことから,成長率は88年1~3月期前年同期比8.0%(純輸出寄与度△9.7%),4~6月期同6.7%(同△5.5%)となった。7~9月期には,9月に中秋節休暇があったこともあって生産・輸出が停滞し,同6.6%.(同△10.1%)の成長に止まった。88年全体では7.1%の成長となる見込みである。89年には引き続き外需は伸び悩むとみられるものの,大幅な公共投資増が計画されており,内需は好調に推移するとみられ,89年上半期には6.8%,89年全体では7%との見通しが出された。
個人消費は,86年の前年比6.4%増の後,87年には,就業者の増加や,労働需給のひっ迫等による賃金の高い伸びなどを受けて同10.2%増と拡大し,さらに88年1~3月期には前年同期比10.9%増,4~6月期同12.0%増,7~9月期同14.2%増と好調に拡大している。
また,固定資本形成は,輸出の拡大とともに回復し,投資を促すために公定歩合も85年6月6.75%から86年10月4.5%と計5回引き下げられ,低水準となっていたこともあって86年前年比10.6%増,87年には同18.2%増と急増した。
88年に入ってからは輸出は鈍化したものの,内需が活発なこともあって88年1~3月期には前年同期比16.0%増,4~6月期同14.4%増,7~9月期同12.1%増と拡大を続けている。
貿易面をみると,輸出(通関,ドル・ベース)は,86年以降為替の影響もあって,対米輸出を中心に急速に拡大した(86年の黒字156億ドルの内,対米136億ドル)。しかし,対米貿易収支黒字の拡大は,アメリカから台湾市場の開放,通貨の切り上げを求められることとなった。こうしたことから,86年後半以降新台湾元は緩やかな切り上げが続き,また,87年には為替差損を避けるため,輸出を前倒しして行う動きがみられた。さらにJカーブ効果でドル建ての輸出額が膨張したこともあって,87年の輸出は前年比34.6%増と86年の同29.5%を上回る大幅増となり,貿易収支黒字は186億ドルと拡大した(第8-2-2表)。
88年の輸出は,85年末から88年末まで為替レートが約40%も切り上がったこと(85年末~86年末12.3%,86年末~87年末24.3%,87年末~88年末1.3%)に加え,雇用情勢のひっ迫,賃金の上昇等による労働コストの上昇などもあって伸びが鈍化してきている。輸出(通関,ドルベース)は88年4~6月期前年同期比12.9%増(新台湾元ベースでは,同0.7%減)の後,7~9月期同5.7%増(新台湾元ベース同1.3%減),10~12月期同13.8%増と伸びは低下し,88年全体では前年比13.2%増と87年同34.6%増を大きく下回った。
一方輸入は,関税の引き下げなどの実施が行われた他,国内で投資が活発となってきたことなどから,87年には前年比44.7%増と急増した。また87年末から88年前半にかけて主にアメリカから金などを含む緊急輸入が行われ(88年1~11月間の金の輸入は333.8トン,48.8億ドル),88年1~3月期前年同期比75.6%と急増し,その後も輸入の伸びが,輸出を上回り,88年全体では前年比42.0%増となった。この結果貿易収支黒字は,88年には109億ドルと,87年の186億ドルから大幅に縮小した。
当局は,「市場分散,輸入拡大5か年計画88~92年」を実施し,市場の分散を図り,対米黒字・対日赤字を解消することを目標としている。こうしたこともあり,86年136億ドル,87年160億ドルと拡大していた対米貿易黒字は,88年には104億ドルと縮小したが,対日赤字は61億ドル(87年49億ドル)とやや拡大した(第8-2-3表)。
鉱工業生産は,86,87年には輸出の好調を背景に前年比14.9%増,12.4%増と高い伸びとなったが,88年に入って輸出の鈍化などを受けて若干伸びが鈍化しており,88年4~6月期前年同期比2.4%増,7~9月期同4.3%増となった。
また,業種別にみると,電子・電気機械が,88年4~6月期前年同期比10.5%増,7~9月期同8.2%増と比較的高い伸びを続けている他,一次金属も,地域内で需要が高まっていることや,88年4月に台湾鋼鉄第3期工事が完成したこともあって4~6月期同11.2%増,7~9月期同16.2%増と伸びを高めた。しかし,繊維・衣類は輸出の鈍化や賃金コストの上昇等もあって4~6月期前年同期比12.6%減,7~9月期同12.5%減と減少傾向となっている(前掲,第8-2-1表)。
農業生産は,86年には米や野菜を中心に減少し,前年比1.6%減となったが,87年には同5.1%増と回復した。冷凍豚肉,海老,鰻等は日本向け輸出が好調となっており,畜産,水産業はそれぞれ87年前年比8.2%増,11.6%増となった。
雇用情勢は景気拡大とともに改善し,失業率は,86年の2.7%から87年には2%へと低下し,さらに88年1~6月期にはほぼ1.8%程度で推移している(第8-2-4表)。就業者数は増えているものの,サービス業に移動していることから,製造業,建設業等では労働力不足となっている。
製造業労働者の賃金は,労働需給ひっ迫の中で86年前年比10.0%増の後,87年同9.7%増,88年1~3月期前年同期比11.7%増,4~6月期同9.5%増と高い伸びを続けた。製造業の労働コストは,労働生産性の向上が賃金上昇を上回り,ここ数年下落を続けたが,87年10~12月期に上昇に転じ,88年1~3月期前年同期比7.6%,4~6月期同6.7%の上昇となった。
物価は,関税率の引き下げや,為替の切り上げによる輸入価格等の下落,またエネルギー価格の引き下げが行われたこともあって概ね落ち着いた動きとなっている。卸売物価は88年4~6月期前年同期比2.4%下落,7~9月期同0.2%下落となった。しかし,88年10~11月には,化学材料や一次金属など原材料がひっ迫したことなどからやや上昇傾向となった(同0.6%上昇)。また,消費者物価は88年4~6月期同1.3%,7~9月期同1.2%と,野菜類の価格上昇から上昇した。
通貨供給量(MIB)は,貿易収支黒字の急増などから,87年年率38.3%増,88年に入っても30%以上の伸びを続けた。金融政策は,成長率が3.3%と低迷した82年以降,緩和気味に運営されてきたが,88年後半以降は若干引き締められている。88年7月にはプライム・レート引き上げ,9月には建設「公債」発行,12月には預金準備率の引き上げが行われ,MIBは88年11月末には年率27.8%増(目標圏20~25%)とやや低下した(第8-2-5表)。
財政面をみると,86年以降の高い経済成長の下で,86年度(85年7月1日~86年6月30日)以降,財政収入は大幅に拡大した。財政収支は86年度には443億元,87年度には1,003億元と過去最高の黒字となった(84年度32億元,85年度33億元のそれぞれ赤字)。
これまでの好調な経済環境と,貿易収支黒字の蓄積のもとで,通貨供給量が急増している一方,株式市場,不動産市場は急速な拡大を続けた。株式市場の時価総額は,88年9月末で1,568億ドルに達し(86年末154億ドル),不動産価格は86年初来,88年秋までに約2倍となったと伝えられる。株式発行量の加重平均指数は,87年1月の1036から10月1日には4673まで上昇し,株価暴落時にはその半分に下落したものの,88年9月末には8790に達し,わずか1年9か月間に8倍となった。しかし,こうした過熱傾向に対し89年1月から,14年ぶりに証券取引所得税の徴収が実施されるなど若干の引き締めが行われた。
「行政院」は,88年12月15日,「89年経済建設計画」を承認した。これによると,89年1月からアメリカが台湾に対する特恵関税を取り消すこと等から,輸出はかなり鈍化するとみられるが,「政府・公共部門」の投資増額によって,89年には7%の成長が可能とみられている。「政府・公共部門」の投資は88年実績見通しの2800億新台湾元から,89年には3550億新台湾元(約30%増,約830億円)と計画されている。貿易収支黒字は100億ドルと,88年の実績109億ドルからやや縮小するとみられている(第8-2-6表)。