昭和63年

年次世界経済報告 各国編

経済企画庁


[次節] [目次] [年次リスト]

I 1987~88年の主要国経済

第8章 アジア・中東諸国

1. 韓国:3年連続の経済拡大

(1)概  観

韓国では,輸出,内需とも好調を持続しており,経済は86年以来拡大傾向にある。87年夏,88年春に労使紛争が多発し,生産が一時的に停滞したものの,実質GNPは86,87年と2年連続して2桁成長となり,88年も12%程度の成長が見込まれている(経済企画院)。輸出はドル安(韓国ウォンも相対的に安くなった)もあって,85年末以降急増し,86,87年と高水準で推移した。88年に入ってからは,ウォン高や賃金の急騰などもあり,輸出の伸びはやや鈍化している。輸出・内需の好調を受け,製造業生産も活発であった。また,雇用情勢も生産活動の拡大から就業者が大幅に増加し,失業率でみても86年以降低下傾向にある。物価は86年中は原油価格の下落等から安定していたが,87年下期からは一部原材料や食料品の需給ひっ迫から上昇率が高まった。

(2)需要動向

実質GNPは85年に前年比同5.4%増と低迷していたが,86年には輸出及び,固定資本形成の大幅増加により,同12.3%増と急速に回復した。87年上半期には,輸出が高い伸びを続け,内需も消費,投資ともに好調であったことから前年同期比15.2%増となった。下半期には,7,8月に労働者が賃金の大幅上昇を要求したこと等から労使紛争が多発し,生産活動も停滞し,前年同期比9.7%増と伸びはやや鈍化した。しかし,87年通年でみれば前年比12.0%増と,86年に引き続き2桁の成長となった。

88年の実質GNPは,1~3月期には輸出,内需の好調から前年同期比14.9%増と大幅に増加したが,4~6月期には労使紛争が再燃し,輸出,投資の伸び悩みから同9.1%増となった。7~9月期には輸出の伸びはやや鈍化したものの,内需の好調もあって,同12.6%増と高い伸びとなった。

実質民間消費支出は87年同7.1%増の後,88年上半期同7.8%増,7~9月期同8.1%増と好調に推移している。消費の内訳(目的別民間消費支出)では,半耐久財(86年前年比7.1%増,87年同9.1%増),サービス(86年同5.6%増,87年同6.9%増)への支出が好調であったのに加え,所得の動向に影響を受けやすい耐久財への支出(86年前年比24.7%増,87年同27.7%増)も急増した。

消費好調の背景としては,就業者が製造業を中心に急増したことや,87年夏の労使紛争時に大幅な賃金上昇がみられたこと等から,所得が増加したことが先ずあげられる。家計の実質可処分所得(都市勤労者,一世帯当たり)は86年前年比8.3%増の後,87年には大幅賃上げを背景に13.1%増と急増した。88年についても,4~6月に賃金の大幅な引き上げがなされており,可処分所得の上昇幅も大きいものとなったと考えられる。

実質固定資本形成は,85年の停滞から86年に急回復し,87年には前年比13.6%増となった。88年上半期には同9.2%増と伸び悩んだものの,7~9月期には同14.7%増と回復した。中でも設備投資は,輸出,内需の好調を背景に87年前年比15.0%増と好調であり,88年上半期に前年同期比4.6%増と低い伸びとなったが,7~9月期には20.2%増と再び高い伸びとなった。

対外面では,85年に低迷していた実質輸出は,86年がら87年にがけて為替の影響もあって急速に増加し,86年前年比26.5%増,87年同24.0%増と2年続けて高い伸びとなった。88年に入ってからは,1~3月期には前年同期比20.0%増と好調を維持していたが,4~6月期以降には労使紛争や韓国通貨の対ドル・レートの上昇等から徐々に伸び率は低下してきており,4~6月期同8.9%増,7~9月期同9.2%増となった。一方,実質輸入は,87年前年比21.2%増,88年上半期同13.9%増と大幅増加となった(第8-1-1表)。

(3)生産動向

鉱工業生産は,85年に輸出の低迷から伸び悩んでいたが,86年からは輸出の急増,内需の好調から急速な高まりを示し,87年夏,88年春に労使紛争がら一時的に伸びが鈍化したものの,高水準で推移している。製造業生産(生産指数ベース)は,86年に引き続き87年も前年比19.3%増と好調であった。業種別では,繊維・衣類,機械類,電子・電機,乗用車を中心とした輸送機器などが,輸出の大幅増や内需の好調を受け,大幅に増加した。88年に入ってからは,春の労使紛争や輸出がやや鈍化していることもあり,上半期前年同期比13.7%,7~9月期同16.5%増と87年に比べ伸びは鈍化したものの,堅調に推移している。ただし,労働集約的な繊維・衣類は,大幅な賃金上昇や韓国ウォンの対ドル・レートの上昇などから価格競争力が低下し,生産の伸びが鈍化してきている(前掲第8-1-1表)。

農業生産(GNPベース)は,87年には夏に水害が発生したことなどから前年比4.3%減となったものの,88年は好天候だったこともあり,上半期前年同期比4.1%増と回復した。

(4)貿易動向

輸出(通関,ドル・ベース)は,85年の不振から,86年にはウォン安による価格競争力の強化をどもあり前年比14.6%増と急回復し,87年には同36.2%増と大幅に増加した。88年には上半期前年同期比26.7%増,7~9月期同30.1%増と高い伸びではあるものの,87年に比べ伸びはやや鈍化した。輸出が急増した要因の一つである為替動向をみると,韓国ウォンの対ドル・レートは,85年中はむしろウォン安で推移し,86年以降に上昇したが,86年3.3%,87年8.7%と上昇率は緩やかであり,韓国製品の競争力は増し7た。しかし,88年に入ってウォンの対ドル・レート上昇率は高まり,1~9月末現在で11%の上昇となっている。

輸出先はアメリカ向けが依然として最大のシェア(87年38.7%)を占めているものの,増加率では対日本向け,対欧州向けが高い伸びとなっている。地域別の増加率は,対アメリカ向けが87年前年比31.9%増,88年1~9月期同15.9%増であるのに対し,対日本,対欧州向け(西ドイツ,フランス,イタリア,イギリスの4か国),は87年各々55.5%増,58.0%増,88年1~9月期も各々49.1%増,28.7%増と対アメリカ向けに比べ極めて高いものとなっている(第8-1-2表)。これは,韓国を始めとしてアジアNIEsの対米貿易黒字が拡大するに従い,アメリカとの間に各種の貿易摩擦が発生し,アジアNIEs(特に韓国,台湾)側,がアメリカ以外の輸出先を開拓したことや,日本の輸入拡大努力等が要因として考えられる。

一方,輸入は,①徐々に変化してきているとはいえ輸出の増加が輸入の増加をもたらし易い貿易構造となっていること,②貿易摩擦に対応して国内市場を解放(関税の引き下げ,輸入規制品目の縮小等)したこと等から,増加している。86には,原油価格の下落から前年比1.4%増にとどまったが,87年には同29.9%増となり,88年上半期同29.1%増,7~9月期同25.7%増と高い伸びが続いている。

収支をみると,貿易収支黒字(国際収支ベース)は輸出の急増を背景として86年に42億ドル(統計史上初の黒字)を記録した後,87年77億ドル,88年1~9月期73億ドル(87年同期53億ドル)ど拡大している。また,経常収支黒字も86年46億ドル,87年99億ドル,88年1~9月94億ドル(87年同期72億ドル)と拡大している(第8-1-3表)。

(5)雇用・賃金・物価動向

雇用情勢は,86年以降生産活動の活発化に伴い,製造業を中心に就業者が大幅に増加した。製造業就業者は86年前年比9.2%増の後,87年には更に生産活動が活発となったことがら同15.4%増と急増し,88年上半期も同5.1%増と着実に増加している。一方,農林水産業就業者は製造業へのシフトなどもあって減少が続いている。失業率は,製造業就業者の増加を背景に低下してきており,86年3.8%,87年3.1%,88年上半期2.7%(87年上半期3.7%)となった。

賃金は,87年夏,88年春と二度にわたる労使紛争により大幅な賃上げが実施されたことから,上昇テンポは高まっている。製造業賃金上昇率(名目,総賃金)は,86年前年比9.2%の後,87年には同11.6%にとどまったが,87年10月以降の上昇率は高く,四半期でみても87年第3四半期以降から前年同期比20%近い伸びが続いている(第8-1-4表)。

物価は,86には原油価格の下落等から安定していたが,87年央から上昇率に高まりがみられる。卸売物価上昇率は,87年前年比0.5%であったが,88年上半期には同2.7%,7~9月期同2.9%と高まった。また,消費者物価上昇率も87年3.0%,88年上半期同7.3%,7~9月期同7.0%と高まっている。こうした87年央からの物価の高まりは,生産の活発化により石油化学原材料などの一部の品目で需給のひっ迫がみられたことや,87年夏の水害により農産物価格が上昇したことなどがあげられる。また88年には,一次産品を中心とした国際商品市況の上昇や,国内での農産物の需給ひっ迫が要因として考えられる。政府はこうした物価上昇率の高まりに対処して,88年に入リガソリン等の石油関連製品を3度にわたって引き下げた他,特別消費税,電気料金の引き下げも実施した。このようなこと等もあって,非食料品は食料品に比べ緩やかな上昇率にとどまった。消費者物価指数を食料と非食料に分けてみると,87年には食料が前年比3.1%,非食料が同3.0%の上昇であったが,88年1~8月期には食料が前年同期比11.7%と大幅に上昇したのに対して,非食料は同4.6%の上昇であった。

(6)政策・見通し等

88年の主要な政策面では,まず,87年央からの物価上昇に対応して「物価安定総合対策(88年3月)」が決定され,特別消費税,電気料金,石油関連製品が3月に引き下げられた。さらに電気料金については12月に,石油関連製品は6,12月に再度の引き下げが実施された。金融面では,物価上昇が高まる中で,通貨供給量を目標圏(平残ベース,前年比18%増)以内に保つため,88年9月に公定歩合(韓国銀行再割引率)を引き上げた(86年7月5.0%→88年9月7.0%)(第8-1-5表)。また,かねてより検討されていた金融システムの近代化・自由化への第一歩として,12月5日にプライム・レート制が導入され,貸出金利の自由化が実施された(なお,従来の企業向け金利は10~12%で固定)。

対外面では,国内市場の開放と東欧圏との貿易交流の促進があげられる。市場開放については,対米貿易黒字が拡大するに従い,アメリカから通貨調整の進展,国内市場の開放を強く求められており,こうした面への配慮とも考えられるが,4,7月に小型乗用車や一部農産物を含む合計200余の品目の輸入自由化が実施された。また,輸入監視品目の縮小や数次にわたる関税の引き下げも行われた。一方,ソウル・オリンピック(88年9~10月開催)を契機として東欧圏との貿易交流も活発となり,ハンガリー,ユーゴスラヴイアとの間に貿易事務所開設に合意した。これは,韓国が進めている輸出先の多角化とも合致しており,今後も一層活発になると予想されている。

政府は89年経済について,輸出はウォン高等によりコストが上昇していることから伸びが鈍化するものの,内需が消費,投資ともに好調を持続するとの見通しに立って,88年(88年の実績見込み,成長率12.1%,経常収支黒字138億ドル)に比べ成長率,経常収支黒字共に鈍化ないし縮小するものの,成長率8%,経常収支黒字95億ドルは可能との見方をしている。また,消費者物価の年間上昇率は,88年の7%から89年には5%へとやや低下すると見込んでいる。対外面で注目されるのは,89年には対外債権が315億ドルとなり,対外債務残高の285億ドルを上回り,債務国からの脱却を予想している(89年経済運用計画,第8-1-6表)。なお,12月2日に,歳出総額19兆2284億ウォン(前年当初予算比10.1%増)の89年度予算が成立した。