昭和63年

年次世界経済報告 各国編

経済企画庁


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I 1987~88年の主要国経済

第5章 フランス:内需を中心に景気拡大続く

6. 経済政策

88年5月の大統領選挙後に,議会選挙が行われ社会党が多数となったため,社会党のロカール内閣が発足した。同内閣の経済政策は,前レラク連合内閣と比較すると,国有企業のこれ以上の民営化の中止,富裕税の復活等の若干の異なる点はあるが,基本的には,あまり変わらないといえる。同内閣が,5月に発表した経済政策の基本方針によると,経済運営における政府のプライオリティは,安定的で持続的な成長と雇用創出であるとしており,これらを達成するために,インフレ対策の徹底,フランス・フランの通貨価値強化,財政赤字の削減が必要であるとしている。

9月末に,第10次経済計画(1989~92年)の大綱が発表された。それによれば,優先課題として,高い雇用水準の確保,インフレの抑制,輸出及び投資を中心とした成長,財政赤字削減,市場統合に向けての各種税制改正等があげられている。

(財政政策)

89年度予算をみると,フランス経済の順調な拡大に伴う税収の大幅自然増を背景に,財政総合収支尻で,赤字は,前年度と比較して約147億フラン削減され,1,003億フランとすることとした。これは,前保守党政権の方針(89~91年度で,毎年150億フランの財政赤字の削減を行うというもの)にも合致している。財政総合収支尻赤字の対GDP比をみると,87年以降低下してきており,89年は1.7%となるとされている。また,引き続き,企業,家計に対しての減税措置が盛り込まれている(第5-4表)。

歳出面では,ミッテラン大統領の選挙公約であった,5項目についての重点配分が行われており,①雇用,職業訓練(前年当初予算比11.3%増),②研究開発(同7.6%増),③教育(同5.5%増),④文化(同12.5%増),⑤社会連帯(最低所得保障制の導入)となっている。全体の歳出の伸びは,前年比6.5%増と久し振りに高い伸びとなっている。上記⑤の最低所得保障制の内容は,25歳以上居住者に月あたり2,000フラン保障する,受給者は職業訓練等への参加を義務づけるというもので,来年1月から実施予定である。実施にあたり必要とされる予算は約80億フランとされている。これを補うための目的税として,86年に廃止された財産に関する連帯税(富裕税)の導入が決定している。その内容は,①総財産価額400万フラン以上を対象に課税するもので,税率は,400~650万が0.5%,650~1,290万フランが0.7%,1,290万フラン以上が0.9%となっている。但し,美術品,森林,事業用資産(一定の基準を満たす場合)は免税とされ,同税と所得税の合計につき課税対象所得の80%が上限とされている。

この措置は,来年1月よりの実施となり,対象者は約11万人,徴収予定額は40~45億フランを見込んでいる。

歳入面では,引き続き各種減税が予定されている一方,経済の順調な拡大による税収の自然増を見込んでおり,全体の伸びは,前年当初予算比6.7%増と高いものとなっている。主な減税措置は,①子女控除額の引き上げや,特定商品に対する付加価値税率の引き下げ等を中心に家計向け減税が145億フラン,②留保利益に対する税率の引き下げや,新設企業に対する法人税の軽減措置等を含め企業向け減税が101億フラン,③投信投資家に対する利子所得分配課税の廃止等の金融機関関係の軽減措置となっており,全体で246億フランの減税となる。

(金融政策)

金利は,87年に引き続き88年も,為替市場でのフランの安定が可能である限りにおいては低く保ち,国内の景気を刺激するというスタンスがとられた。市場介入金利の動きをみると,社会党内閣成立後の7月には,6.75%と近年としてはかなり低い水準まで引き下げられた。しかしその後,為替市場でのフランの軟化によるEMS内の緊張等もあり,8月,10月,12月と3回引き上げられ7.75%となっている。コール・レート(翌日物)は,87年11月に高まりをみせた後,88年6月頃まで低下傾向をたどった。その後,若干ではあるが高まりを示した。長期金利は,年初より低下基調となっている(第5-5図)。

88年のマネー・サプライの管理は,M2については目標圏4~6%とし,M3については,金融自由化に伴う新種商品の増加等もありその指標制が不安定化しているため,目標圏は定めないということになった。M2の推移をみると,年初来,落ち着いた動きとなっており,11月で前年同月比3.9%増となった。

政府は,12月,89年のマネー・サプライ管理目標を発表した。それによれば,今年同様目標圏設定はM2のみ(目標圏は今年同様4~6%)とし,その中で,インフレ抑制と通貨価値の安定を図っていくとしている。

金融の自由化については,5月末に為替管理の規制緩和の措置がとられ,①輸出入企業の外貨保有制限の撤廃,②外貨建小切手受取り制限の撤廃,③非居住者からのフランの借入制限の撤廃が行われた。


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