昭和63年

年次世界経済報告 各国編

経済企画庁


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I 1987~88年の主要国経済

第4章 西ドイツ:輸出,設備投資が増加

6. 経済政策

税制面では,財政再建が最重要課題とされているが,勤労意欲の促進,国際的競争力確保を目的に税制改革がすすめられている。また,成長率の鈍化がら,87年は財政赤字が拡大したが,88年も,連銀納付金の減収や,EC拠出金の増加などから,引き続き財政赤字が拡大しぶ(第4-4表)。

税制改革は,1986/88年減税がすでに実施され,それぞれ約110億マルク,約140億マルクの所得税減税がなされた。また,87年2月に連立与党内で合意され,88年3月に閣議決定された90年税制改革法(付注4-2参照)も,88年7月に成立した。これによると,所得税の最低税率と最高税率が引き下げられる他,一律累進税率となる。さらに,法人税率も56%から,50%に引き下げられる。これらによる減税額は,約370億マルクあるが,利子所得に対する10%の源泉課税の導入(89年より),租税優遇措置の改廃などにより約180億マルクの財源措置が採られるため,ネット減税額は約190億マルクとなる。

89年度連邦政府予算は,歳出面では,構造不況州に対する補助金の支給等(付注4-3参照)が盛り込まれ,前年度補正後予算比5.4%増と82年以来の高い伸びとなっている。一方歳入面では,ガソリン税等個別消費税の引き上げ,利子所得に対する10%の源泉徴収税の導入など増税措置が盛り込まれていることから,純借入れ額は279億マルクと,前年度補正後の386億マルクに比べ縮小している。

(2)夏以降金利引き上げ

金融政策は,マネーサプライが3年連続で目標を上回る増加を続け,政策金利も引き下げが続くなど,88年半ばまで緩和基調にあったが,その後は景気好調,先行きインフレ懸念などを背景に金利が引き上げられるなど,やや引き締めぎみの運営がなされている(第4-9図)。

公定歩合は,87年10月の株価暴落後の経済的混乱と,マルク相場上昇に対処するため,12月に史上最低の2.5%に下げられた。しかし,88年に入って,内外金利格差の縮小や,長期資本の流出等を背景にマルク相場が下落を始め,特に,6月下旬に急落したことから,これに歯止めをかけるため,7月1日に公定歩合が3%へ,7月29日にはロンバート・レート(債券担保貸付金利)が4.5%から5%へ引き上げられた。さらに,8月26日には他の欧州諸国と協調して公定歩合が引き上げられた(3→3.5%)。その後,マルク相場は持ち直し,長期資本の流出も小幅化した。しかし,景気好調にともなう旺盛な資金需要から市中金利が上昇し,稼働率の上昇等から,先行きインフレ懸念が生じたことから,12月半ばには,ロンバート・レートが5.5%へ引き上げられた(他のヨーロッパ諸国もほぼ同時に引き上げた)。

マネーサプライは,86年初来大幅増加を続け,連銀がマネーサプライ管理手段としていた中央銀行通貨量は,87年に8.1%増(10~12月期の前年同期比)と目標圏3~6%増を大幅に上回った。こうした中で連銀は,88年については,マネーサプライ管理手段を現金のウェイトの小さいM3に変更し,目標増加率を3~6%(10~12月期の前年同期比)と決定した。88年に入ってからもM3は増加を続け(2月は8.3%増),2月初には手形再割引枠が60億マルク縮小された。その後,マルク相場下落によるマルク買い介入などから伸びが鈍化し,10月下旬にはEMS内でマルクが高水準となったことから,手形再割枠が50億マルク拡大された(11月初実施)。しかし,10月時点でM3は6.8%増であり,88年も目標圏を上回る増加となることが確実となった。86年以来3年連続の目標オーバーである。このため,今後のマネーサプライ管理はより厳しくなるとみられており,88年12月に決定された89年のM3の増加目標も約5%(10~12月期の前年同期比),と従来のような幅は設定されなかった。


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