昭和63年

年次世界経済報告 各国編

経済企画庁


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I 1987~88年の主要国経済

第3章 イギリス:内需中心にブーム化

2. 需要動向

実質GDP(生産ベース)は,87年4.7%増に続いて,88年1~9月にも前年同期比5.6%増と速いテンポの拡大を続けている(第3-1図,第3-1表)。外需は輸入の大幅増から引き続きマイナスとなっているものの,内需が個人消費,設備投資を中心に強い伸びを続けていることによる。政府の88年成長見通しは,当初(87年11月)は,直前の株価大幅低下による個人消費,輸出への悪影響などを考慮して2 1/2%とされたが,その影響は軽微にとどまることが明らかとなり,88年3月3%,同11月4 1/2%と相ついで上方改訂された。

(1)堅調を続ける個人消費

実質個人消費(GDPベース)は,86年5.4%増;87年5.1%増の後,88年に入ってからも,乗用車など耐久財を中心に堅調に拡大しており,1~9月の前年同期比は5.9%増となっている(耐久財消費は88年上期同9.2%増)。小売売上数量(個人消費のシェア約45%)でみても,7~9月期の前期比1.6%増に続いて,10~11月の前2か月比1.3%増(前年同期比5.7%増)と堅調に推移している。新車登録台数は,87年7.3%増,88年1~9月の前年同期比10.5%増と好調である(第3-2表)。

引き続く個人消費の堅調は,第1に,実質可処分所得が,①物価上昇率を上回る高水準の賃上げが続いたこと,②88年度にも更に所得税率が引き下げられたことなどから,88年上期にも前年同期比3.2%増(87年は3.0%増)と着実に伸びていることによる。第2に,これまでのインフレ率の鈍化,カード化の急速な拡大や88年央までの消費者ローン金利の低下等を背景に消費性向が高まったことなどを反映したものである。このため,貯蓄率は,87年の5.4%から88年4~6月期には更に低下して3.5%ときわめて低水準にあり,また,6月初来の金利引き上げにより,利子所得は増加するものの,消費者信用残高の伸びが88年8~11月には鈍化するなど消費者ローンが頭打ち傾向となっており,個人消費は今後は鈍化が見込まれている。

なお,個人消費が87年10月の株価大幅低下により当初予想されたマイナスの影響を受けなかったのは,①個人持株比率が1割程度と比較的に低いこと,②資産効果のタイム・ラグが長く,株価大幅低下前の上昇が家計の支出計画に十分に反映されておらず,このため,負債/資産比率は,87年央の0.28から,87年10月以降急上昇したが(88年初0.34),それ以前のピーク(86年10月0.33)にもどったに過ぎないことなどが指摘されている(OECD,EDRC)。

(2)ブーム化した設備投資

総固定資本形成は,87年央以降著しく上昇率を高め,87年実質5.5%増の枝,88年上期には前年同期比9.6%増となり,とくに4-6月期にはGDP前期比寄与度0.7%と個人消費の同0.3%を上回った。石油部門では前年に続いて減少傾向にあるが,住宅投資が増勢を強め,設備投資も回復の遅れていた製造業の堅調化から,大幅増となっていることによる(第3-3表)。

企業固定投資(87年対民間非住宅投資ウエイト,65.4%)は,87年実質11.8%増の後,88年1~9月の前年同期比13.5%増と更に大幅な伸びとなっている。うち製造業投資(リースを含む)は,87年に実質4.9%増と前年の減少から回復に転じ,88年に入って堅調化しており,1~9月の前年同期比11.1%増となっている。特に,金属,自動車,紙・印刷部門の伸びが大きく,1~9月の前年同期比はそれぞれ23.5%増,29.9%増,36.4%増となっている一方で,機械,繊維部門などでは停滞している(第3-4表)。貿易産業省の企業設備投資予測調査(88年12月発表)は,88年実質12.2%増(製造業12.2%増)の後,89年にも,伸びは鈍化するが増加を続ける(それぞれ9.8%増,11.2%増)としている。

企業固定投資の持ち直しの要因としては,①企業利潤の着実な増加(北海石油関連を除く企業,87年20.1%増,88年上期前年同期比24.2%増),利潤率の高まり(88年上期の実質税込み資本利益率は11%台,87年平均は約9%),②稼働率の上昇(86年の85.1%から88年4月の94.8%へ),などがあげられている(第3-2図)。

なお,金利上昇の投資抑制効果については,企業の短期負債が増加していることもあって,資金面からある程度のマイナスの影響は避けられないとみられている(イングランド銀行は,1%の金利引き上げは,年当たり粗利益の0.5%のコスト増となると推計)。

(3)根強い住宅投資

住宅投資は,87年に実質4.5%増と伸びが鈍化したが,88年上期には再び増勢を強め,前年同期比12.1%増となっている。88年の堅調化は,主として民間住宅が大きく伸びたことによるもので,公共住宅は引き続き不振であった(88年上期の前年同期比,それぞれ16.4%増,4.8%減)。

住宅需要は,補修も含めてなお根強く,住宅着工件数は88年1~9月の前年同期比9.2%増(民間部門同12.3%増)となっている。住宅価格は一部ではなお大幅な上昇が続いている(ロンドンの4~6月期の前年同期比上昇率は87年25.2%→88年24.2%,イングランド銀行)。なお,住宅抵当金利(88年7月9.76%→11月12。75%)が上昇に転じていることもあって,住宅抵当貸付額は夏以降減少傾向を示しているが,88年全体では,民間住宅投資は前年の実質5.3%増を大幅に上回る13%増程度の増加となると政府はみている(オータム・ステイトメント)。

(4)在庫率の低下続く

在庫投資は87年春以降は積み増しに転しており,実質在庫投資の実質GDP寄与度(前期比年率)は,87年ゼロから88年1~3月期及び4~6月期には各プラス0.1%,0.3%となっている。製造業では,在庫調整が長引いていたが,87年にはマイナス幅がやや縮小し,88年に入って,上期に在庫投資の大幅増がみられた後,7~9月期には完成品を中心に減少した(1~9月計3.2億ポンド,前年同期は0.3億ポンド)。しかし,製造業在庫率(在庫水準/生産,1984年10~12月期=100)は生産の伸びが相対的に大きいために引き続き低下している(88年7~9月期は83.2,前年同期は88.9)。