昭和63年

年次世界経済報告 各国編

経済企画庁


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I 1987~88年の主要国経済

第1章 アメリカ:6年を超える長期拡大

5. 貿易・国際収支

(1)経常収支

87年の経常収支赤字は1,540億ドルと前年比126億ドル拡大した(第1-3表)。これは貿易外収支:移転収支ともに収支改善に作用したものの,貿易収支赤字が1,603億ドルと同160億ドル拡大したためである。

輸出は,一層のドル安を背景に工業製品輸出が引き続き高い伸びを示し,農産物輸出も回復したことなどから2,496億ドルとなり,前年比11.2%増加した一方,輸入も①設備投資を中心に内需が堅調に推移し,非石油商品輸入が実質で前年比5.8%増加,②アジアNIEs等にも広がったドル安による輸入デフレータの引き続く上昇,③石油輸入依存度が高まるなかで石油価格が上昇したことによ9数量,金額ともに石油輸入が増加したことなどから全体で4,099億ドルとなり,同11.2%増加した。貿易外収支黒字はドル安によるキャピタル・ゲインを主因に直接投資収益が増大したものの,純債務残高の増加を反映して間接投資収益の赤字幅が拡大したため197億ドルと前年比11億ドルの拡大にとどまった。移転収支は,政府対外援助の減少を反映して赤字幅は134億ドルと前年比19億ドル縮小した。

88年1~9月の動きをみると,①ドルはおおむね堅調に推移したものの,それまでの相場水準の修正によりアメリカの輸出競争力が価格面で回復していたこと,②ソ連の穀物買い付け増や干ばつ等の影響で農産物価格が上昇し,数量,金額ともに農産物輸出が増加したこと,③先進国及びアジアNIEs等で設備投資ブームといえるほど内需の伸びが高まったことなどから資本財を中心に輸出がおおむね前年比2~3割増のペースで増加した一方,輸入は設備投資急増を背景に資本財輸入は活発だったが,個人消費,住宅投資等の内需が鈍化したため全体ではほぼ前年比1ケタの伸びにとどまった。このため,貿易収支赤字の縮小テンポは著しく,通関ベースでは1~10月累計で年率342億ドルの縮小となった。地域別では対日本,EC,アジアNIEsでいずれも赤字幅は縮小したが,替わって対アセアン等で拡大した。ただし,年後半には国内景気の堅調を背景に輸入が再び増勢をみせたため,赤字縮小のテンポは急速に鈍化した。貿易外収支は純債務残高の増加による対外利払いの増加という構造的な収支悪化要因に加え,ドル相場堅調による直接投資収益受取の減少から大幅に悪化し,4~6月期には戦後初めて投資収益収支とともに赤字に転じた。

(2)資本収支

86年後半から88年初にかけて,ドル相場や米国金利の先行き見通しが不安定化しキャピタル・ロス懸念が発生するなかで,アメリカの経常収支赤字ファイナンスの中身は民間証券投資中心から,外国政府の公的資金とキャピタル・ロスの恐れが比較的少ない直接投資へとシフトした。経常収支赤字拡大に伴って87年の資本収支黒字(外国資金ネット流入)も1,356億ドルと前年比182億ドル拡大したが,これは公的資本収支黒字の拡大によるもので,民間資本収支黒字は前年比若干縮小した。民間資本ネット流入の中では証券投資が前年比半減する一方,銀行部門は同倍増となった。銀行部門の拡大は,主に在米外銀の国際金融活動及びM&A等に伴う現地貸出増のための資金需要が旺盛だったためである。また,直接投資は前年比ほぼ同額のネット流出となったが,これは引き続きドル安による対外直接投資の評価増が大きかったことが影響しているとみられる。

88年1~9月の資本収支黒字は876億ドルとなったが,1~3月期に比べ4~6月期以降はドル堅調となるなかで公的資本収支黒字が大幅に縮小(7~9月期は赤字化)する一方,民間資本収支黒字は再び拡大傾向をみせた。民間資本のネット流入は直接投資及び銀行部門の拡大が目立ったほか,民間証券投資も回復した。対米不動産投資力が引き続き増加したほか,大型の企業買収やLB0(レバレッジド・バイアウト)融資増等に伴って対米直接投資及び銀行部門を通じた資金流入が大幅に増加した一方,ドル堅調等により対外直接投資は減少した。また,銀行部門の対外貸出も4~6,7~9月期には日本向けを中心に増加したが,累積債務国向け融資の回収が続いていることなどからおおむね伸び悩んだ。民間証券投資の中ではドル安に当面の底値感が出たことや相対的な高金利が評価されて米国債投資がいち早く回復したほか,社債への投資尾4~6月期には回復したが,株式への投資は引き続き慎重なものにとどまった。


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