昭和62年

年次世界経済白書

政策協調と活力ある国際分業を目指して

経済企画庁


[前節] [次節] [目次] [年次リスト]

第2章 世界的な貿易収支不均衡-その原因と影響‐

第7節 中南米の累積債務問題

アメリカで巨額の貿易・経常収支赤字が継続している中で,世界的な債権債務関係にも変化が生じてきている。その一つの端的な表われが,中南米の累積債務問題であり,82年の債務危機発生後,小康を保ってきた同問題は,このところ再燃してきている。

1. 中南米の累積債務問題の経緯

中南米諸国は,70年代における一次産品価格の高騰による交易条件の改善,積極的な国内開発・高度成長等を背景に海外から多額の資金借り入れを行った。これは主にアメリカの民間銀行の貸出を通じて行われたため,米国民間銀行に対する債務残高は急増した(第2-7-1表)。その後,80年代以降の世界的なディスインフレ下での一次産品価格の低下等を背景に,82年には債務危機が発生することとなった(第2-7-1図)。

中南米諸国は,その後,IMF等の国際金融機関による融資,公的・民間債権者によるリスケジュールや新規融資といった方法で外貨繰り(流動性)を確保する一方,IMFなどの支援の下で,国際収支や財政収支の改善,インフレの抑制等の緊縮政策を中心とした経済再建政策に基づき,経済調整に取り組んできた。

しかし,こうした緊縮政策は輸入中間財・資本財の減少や投資の抑制を伴い,中長期的には累積債務国の経済成長や国内産業の国際競争力強化に結びつかなかったとの見方が広がり,このため,IMFなど国際金融機関などにおいても,これまでの経済調整策のあり方を見直し,債務国の成長や構造調整も重視した中長期的な債務問題解決の方針が新たに示されるようになった。

85年10月の第40回世銀・IMF年次総会におけるベーカー提案は,生産性向上のための経済成長の必要性を認め,グローバルな成長を実現する過程で国際収支構造の改善を促進するといった中長期的な展望をもたらすものとしてそのイニシアティブは評価できるものであり,86年7月にIMFとメキシコ政府との間で基本的に合意された経済再建策やそのために必要な資金調達計画もこうしたベーカー提案の精神を具休化したものといえよう。

2. 累積債務問題の最近の動き

しかし,中南米における最大の債務国ブラジルは87年2月,一部対外債務の利払い停止を宣言し,債務危機の再発が懸念されることとなった。

こうした中で,今後世界経済動向いかんによっては更に債務問題が悪化する可能性があるため,その解決のためにさまざまな立場から各種の対応策が提案されるようになった。

例えば,対途上国債権を保有するアメリカ中小民間銀行等が,①当該途上国に直接投資などの計画をもっている投資家に,大手商銀等の仲介業者を通ずるなどして,債権をその額面を下回る価格で売却し(外貨建て),②投資家は購入した債権を当該途上国の中央銀行等に売却し(但し,現地通貨建てで受け取る),③投資家は受け取った現地通貨によって新規投資資金に充てるという動き(債務の株式化)が出てきた。

また,中南米諸国に対して最大の債権者である米銀が,87年5月,30億ドルの貸倒引当金を積増すこと等を発表し,その後,主要米銀を中心として,同様の動きがみられることとなった。

累積債務の問題には,いずれにせよ即効的かつ万能な解決策があるわけでなく,ケース・バイ・ケースの適切な対応が必要であるが,債務国自身の努力とともに,国際金融機関,民間金融機関,先進国政府による支援,金利の安定による債務国の金利負担の軽減などさまざまな対応が必要とされよう。


[前節] [次節] [目次] [年次リスト]