昭和58年

年次世界経済報告

世界に広がる景気回復の輪

昭和58年12月20日

経済企画庁


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第3章 持続的成長と経済再活性化の条件

第2節 持続的成長の中核としての設備投資

前節でみたように,インフレ抑制のためには労働生産性の向上が重要な条件である。各国における1970年代のインフレ悪化は,労働生産性の伸びの低下が一つの原因であった。したがって,インフレなき持続的成長を達成するためには,設備投資の拡大,技術進歩の促進等により労働生産性の向上を図りつつ生産能力を拡大することが必要条件である。

本節ではまず,各国の労働生産性上昇率が70年代に鈍化した要因,アメリカの労働生産性上昇率が他国に比べ低い原因を分析する。次に,資本装備率等様々な経路を通じて70年代の労働生産性上昇率の鈍化に大きな影響を与えたとみられる設備投資について,その決定要因を分析し,設備投資増加の条件を検討する。

1. 労働生産性上昇率鈍化の諸要因

(各国の労働生産性の動向とその要因)

まず第1に注目されるのは,70年代に入り,各国とも労働生産性上昇率が鈍化していることである (第3-2-1図)。アメリカでは,73年から80年の期間にやや持ち直してはいるものの,その伸びは60年代に比べ低い。更に,アメリカの生産性上昇率は西ヨーロッパ,日本に比べ低いことが特徴的である。

労働生産性上昇率を,①資本装備率の上昇,②資本の年齢(ビンティッジ)低下による質の向上と,③それ以外の要因(技術進歩,産業構造の高度化,労働の質の向上等)による資本生産性の上昇の三つに分けてみよう (計算方法は付注3-3参照)。計算結果によれば,アメリカ,西ドイツ,日本では70年代に入り,資本装備率上昇率の鈍化による寄与度の低下が大きい。更に,資本の生産性上昇率も鈍化している。また,アメリカは他国に比し,資本装備率上昇率,資本生産性上昇率ともに低い。

(資本装備率上昇率の鈍化)

資本装備率の動向は資本ストックの増加率と就業者数の伸びの関係で決まる。そこで,まず,各国における資本ストックの伸びをみると,アメリカ,イギリスは相対的に低く,フランスは高い (第3-2-1表)。西ドイツは73年以降伸びの鈍化が著しく,73年から80年の期間にはアメリカを下回るに至っている。資本ストックの増加率は設備投資/資本ストック比率と除却率で決まる。これらを各国別にみると,設備投資/資本ストック比率の大きさは景気変動による動きもあるが,日本,フランス,アメリカ,西ドイツ,イギリスの順になっている (第3-2-2図)。また73年以降西ドイツ,フランス,日本でかなりの低下がみられる。アメリカでは75年以降の景気回復過程でかなりの上昇がみられ,イギリスではほとんど変化がみられない。一方,除却率は各国ともそれ程大きな変動はなく,その水準は日本,アメリカ,フランス,西ドイツ,イギリスの順になっている(第3-2-3図)。この結果,設備投資/資本ストック比率が高く除却率の相対的に低いフランスの資本ストック増加率は高く,その逆にイギリス,アメリカの資本ストック増加率は低いものとなっている。もっとも,73年の第1次石油危機以降西ドイツ,フランス,日本の資本ストック増加率はかなり鈍化しているが,イギリス,アメリカの鈍化はさほど大きくない。

一方,各国の就業者数の推移をみると(前掲第3-2-1表),アメリカでは70年代に入り,50年代後半のベビー・ブーム期出生世代の労働市場への参入等から労働力人口増加率が高まった。また,実質賃金上昇率が比較的安定していたこと (前掲第2-1-2表)等から就業者数の伸びは60年代を上回った。

西ヨーロッパ3か国では,労働力人口増加率が低く,実質賃金が急速に上昇したこと等から70年代の就業者数増加率は非常に低いものとなった。

このように,資本ストックの伸びが低く就業者の伸びの高かったアメリカでは,資本装備率の上昇が70年代で1.6%と他国に比してかなり低いものとなり,労働生産性上昇率鈍化の一因となった。一方,70年代の就業者の伸びが低かった西ヨーロッパ3か国では資本装備率の上昇率はアメリカより高く,特にフランスでは70年代に入ってからも堅調な伸びを続け,労働生産性を高めた。しかし,西ドイツや日本では73年以降資本ストック増加率の落ち込みが大きく資本装備率の上昇は鈍化している。

(資本生産性の伸びの鈍化)

アメリカでは,73年以降若干の改善はみられるものの,70年代の資本生産性上昇率は60年代に比して低下している。更に,西ヨーロッパ3か国,日本と比べてもその伸びは低い。また,西ヨーロッパ3か国においても70年代に資本生産性の伸びは鈍化している。このように欧米で資本生産性の伸びが鈍化した原因としては,①エネルギー価格上昇,②資本ストックの老朽化,技術進歩の停滞,③産業構造の高度化の遅れ,④労働の質の問題等,様々な可能性が考えられる。

(エネルギー価格の上昇等による資本生産性の低下)

2度の石油危機によるエネルギー価格の上昇は,それに伴う深刻な不況から設備投資を減少させた。また,エネルギーの相対価格の急騰は,既存資本設備の一部を不採算化,陳腐化させた。

更に,各国の純資本ストック/粗資本ストック比率をみると,第1次石油危機後アメリカ,西ドイツ,フランスでかなりの低下がみられる(第3-2-4図)。石油危機による経済の不安定性の増大から,長期耐用資産に対する投資のリスクが高まり,需要の減退もあって,能力増投資等があまり行われなかったことも,この一つの原因となっていると考えられる。そして,これも資本生産性を低下させる方向に働いたものとみられる。

(技術進歩と資本生産性)

技術進歩は資本の生産性を上昇させる大きな要因である。技術進歩の動向に最も大きな影響を与えるとみられる研究開発費の動向をみると,アメリカ,イギリス,フランスでは政府の負担割合の低下等から,研究費/国民所得比率は70年代に低下している(第3-2-2表)。一方,西ドイツ,日本では,政府負担割合は低下傾向にあるものの,民間部門の研究費の増加率が高いことから,研究費/国民所得比率は最近に至るまで増加傾向を続けている(技術先端産業については次項も参照)。

研究開発の結果,生み出された技術進歩(資本に体化され得る技術進歩)を,現実の生産活動に生かすためには,設備投資を行い,技術進歩を体化する必要がある。このような設備投資は技術進歩による資本生産性の向上を実現するとともに資本の年齢(ビンティッジ)を若返らせることになる。各国の資本のビンティッジをみると,資本の除却率の高いアメリカ,フランスでは60年代から73年にかけてビンティッジが低下し,その後もほぼ横ばいであるのに対し,70年代に入って設備投資/資本ストック比率が急速に低下した西ドイツ,日本ではビンティッジがかなり上昇しており,資本生産性に対してマイナスの影響を与えているとみられる (第3-2-5図)。

2. 産業構造と生産性

欧米の労働生産性上昇率は70年代に鈍化し,アメリカでは70年代後半に若干の改善はあったものの,他国に比べ低い伸びにとどまっている。このような生産性の動向の背景には1でみた要因の外,①一般的に生産性上昇率の低いサービス産業の全産業に占める割合,②製造業における生産性の低い産業から高い産業への構造変化の大きさ,③エレクトロニクス等,いわゆる技術先端産業の動向等,産業構造面からの影響もあったと考えられる。

(経済のサービス化と生産性)

各国の個人消費に占めるサービス支出(医療費,交通・通信費,レクリエーション・教育・文化費,レストラン・旅行等費用の合計)はすう勢的に増加傾向をたどっている(第3-2-6図)。これは,所得水準の上昇に伴い,生活必需品に対する支出のウエイトが低下し,いわゆる選択的支出が増大し,その結果,選択的支出の占める割合の高いサービス支出が増加しているためである。所得水準の上昇が続く限り,この傾向は続くと考えられる。

このような需要面でのサービス化は当然生産構造にも反映され,各国の第3次産業の割合(名目付加価値ベース)は増加基調にある(第3-2-3表)。第3次産業は平均的には労働集約型産業であり,雇用の拡大に果たす役割は大きい。しかし,第3次産業,特に商業及びサービス業の労働生産性上昇率は全産業平均に比べ低いため,これら業種の割合の増大が産業全体の生産性上昇率を引下げる結果となっている (第3-2-4表)。

アメリカでは,70年から79年の間に商業及びサービス業の生産性は,資本装備率がほとんど上昇していないこと等から全く向上していない。更に,これら業種の割合が他国に比べ高いことが,産業全体の生産性上昇率の低さの一因となっているとみられる。

(製造業における産業構造変化の大きさ)

先にみたサービス業のように,消費者の需要構造の変化が産業構造に大きな影響を与えている分野もある。一方,国際競争力の変化が産業構造変化に与える影響が大きいとみられる製造業では,市場原理に従い,比較優位を失った業種から,比較優位産業にシフトすることにより,全体としての生産性上昇率は高まることになる。各国の製造業の生産性上昇率(1970年~79年,年率)は全産業と同様,アメリカ,イギリスでは低く,フランス,西ドイツは相対的に高い。これは前項でみた,資本装備率等の問題の外に,製造業内での産業構造変化の大きさが各国で異なることが一因となっていると考えられる。

製造業における構造変化の大きさをみる一つの目安として,各国の構造変化係数をみると,アメリカでは他国より小さく,また,78年まで徐々に低下している。一方,西ドイツは他国に比べ変動係数は大きいが,73年以降はやはり低下している。もっとも,イギリスは変動係数は大きいものの,生産性上昇率は大きくない (第3-2-5表)。

このように,アメリカの産業構造が固定的であることが製造業の生産性上昇率の低さの一つの原因とみられる。

(技術先端産業の動向)

各産業の売り上げ高に占める研究開発費の大きさで技術集約度を測ることとして,技術集約度別にみた各国の比較優位構造の変化をみてみよう(第3-2-7図)。

第1に注目されるのはアメリカでは技術集約度の最も高い航空機,事務・計算・会計機器産業が比較優位をもっていることである。また,エンジン・タービン,農業用化学,測定用機器・制御用機器産業等比較的技術集約度が高い産業についても,アメリカは比較優位をもっている。更に,アメリカの技術先端産業の比較優位は65年から80年の間に高まっている。

一方,西ドイツ,フランスをみると産業間の比較優位にアメリカや日本程の差はない。65年から80年にかけての変化も小幅であるが,フランスでは技術先端産業の優位性が多少上昇しているのに対し,西ドイツでは若干低下していることがうかがえる。

日本は,事務・計算・会計機器,発電機,光学,医療機器等技術集約度の高い産業や自動車,電気機器等の分野で大幅に競争力を強めている。

このように,アメリカ,日本で技術先端産業が比較優位を強め,西ヨーロッパではほとんど優位性の上昇がみられないのは,近年,技術進歩が最も著しいエレクトロニクスの分野で,西ヨーロッパが遅れをとっていることが大きな原因とみられる。エレクトロニクス産業を代表する電子計算機とICについてみると,電子計算機はアメリカが圧倒的な競争力をもっており,自国はもちろん,西ヨーロッパ各国でも大きなシェアをもっている。80年末の各国の設置台数に占める自国産機のシェアはイギリス38%,フランス7%,西ドイツ17%,日本62%であった(電子工業年鑑による)。ICの生産額をみても,アメリカは自由世界の約70%を占めているのに対し,西ヨーロッパは合計でも5%にすぎない(日本は20%)。電子計算機,IC等のエレクトロニクス製品は資本財として他の技術先端産業の生産性に大きな影響を及ぼすことから,アメリカのこの分野での競争力の強さが航空機,制御用機器等他の技術先端産業の競争力をも強める結果になっていると考えられる。

上でみたように,アメリカではサービス産業の生産性上昇率が低く,かつそのシェアが高いこと,製造業の構造が固定的であることから,生産性上昇率が低くなっている面があるとみられる。一方,技術先端産業の競争力は強く,今後ともこの面からは生産性の上昇が期待できる。一方,西ヨーロッパについては,産業構造はアメリカに比べ弾力的であるが,技術先競産業の競争力はアメリカ,日本に比べ弱く,サービス産業のシェアも拡大している。

これらの面は今後の生産性上昇率を引下げる方向に働くものと考えられる。

3. 設備投資の決定要因

設備投資は資本装備率の向上,技術進歩の資本への体化による資本生産性の向上,産業構造の変化等にとって必要不可欠である。更に,設備投資は大きな需要項目であり,景気の拡大を本格化させる。その意味で今後の各国の生産性の動向,ひいては持続的成長の可能性のカギを握っている。

設備投資を決定する要因としては,投資の収益/コスト比率が重要であるが,これと共に将来の投資収益やコストに影響を与える今後の景気や物価上昇率,金利等の見通し,技術進歩,政策の変更なども投資を左右すると考えられる。また,企業が保有設備能力(資本ストック)を最適な水準に調整するために,一定の時間を要することから起こる投資の変動(いわゆるストック調整)も重要である。以下では,これら設備投資の決定要因を分析し,設備投資促進策のあり方を検討する。

(1)景気循環と設備投資

(ストック調整)

過去の景気循環と設備投資の関係をみると,設備投資のGNPに占める割合は,通常景気後退期には低下し,それが回復初期まで続く。そしてその後,景気の拡大につれ増加に転じ,景気の山付近でピークに達するケースが多い (第3-2-8図)。つまり,設備投資は景気回復のリード役ではないが,景気拡大期の後半にはGNP以上に増別し,景気拡大を持続させる働きをしている。

設備投資と景気のこのような関係は主に企業にとって設備能力の調整のために時間がかかる(いわゆるストック調整)ためと考えられる。景気回復初期時点においては,通常,企業の最適と考える資本ストック量は現実の資本ストック量を下回っている。このため景気が回復しても即座には,資本ストック量は増加(設備投資を増やす)せず,景気拡大が一定期間続き,最適資本ストック量が現実の資本量を上回って後に,初めて設備投資が増加に転じることになる。一方,景気後退期は投資比率の低下がそのきっかけになることが多い。

(設備投資と景気拡大期の長さ)

設備投資比率と景気拡大期の長さの関係をみると,後退期における設備投資比率の低下が大きい程,その後の景気の拡大期間が長くなるという関係がある。

アメリカについてみると,75年1~3月期から80年1~3月期(20四半期間)のように比較的長期の景気拡大期は,その拡大期の前の後退期に投資比率が大きく低下しているのに対し,80年7~9月期から81年7~9月期(4四半期間)の拡大期については,その前の後退期における投資比率の落ち込みが小さなものにとどまっている。

一方,イギリス,西ドイツ,フランスについてみると,概して,後退期における投資比率の低下幅は小さく,景気拡大期における投資比率の増加の程度も小さく,アメリカに比較して拡大期は短くなっている(アメリカ平均15四半期,西ドイツ8四半期,イギリス9四半期,フランス8四半期)。

(2)資本収益/コスト比率と設備投資

(各国における資本収益/コスト比率の動向)

資本収益を名目GNPと資本分配率の積で,そして資金コストを設備投資デフレータと名目長期金利の積で近似した収益/コスト比率をみてみよう(第3-2-9図)。

各国とも,第1次石油危機後,資本分配率の低下,実質生産の低下,名目金利の上昇等から,収益/コスト比率は大きく低下した。もっとも,アメリカでは資本分配率の低下幅,金利の上昇幅が西ヨーロッパ諸国に比べ小幅であったため,79年頃までは収益/コスト比率の悪化の程度は小さかった。しかし,79年末の新金融調整方式採用後,81年末まで金利が上昇し続けたこと等から収益/コスト比率は急速に悪化した。西ドイツでも,第2次石油危機後,もともと他国に比べ低かった名目金利が78年から81年にかけて急騰したことや,資本分配率の低下等から収益/コスト比率は大幅に悪化した。

更に,最近の動向をみると,アメリカ,イギリス,西ドイツでは81年末もしくは82年初から,金利の低下,資本分配率の上昇,資本財相対価格の低下等から収益/コスト比率は回復に転じている。一方,フランスでは,金利が高止まり,資本分配率も低水準のまま推移していること等から収益/コスト比率はいまだ明確な改善を示していない。

(企業家心理)

企業にとって重要であるのは,ある投資を行うに当たって,その設備の稼働期間を通して実現することが予想される期待収益/コスト比である。将来の収益/コスト比に影響を与える要因の中で特に重要なのは投資収益を大きく左右する将来の需要についての見通しであると考えられる。

(技術進歩と設備投資)

かつての自動車や石油化学製品の普及期には,急速な技術進歩は巨大な新規需要を生み出し,当該産業の収益率を大幅に引上げた。また,競争が激しいため,新技術を採用しなければ,企業の存立さえ危うくなるという事態も考えられる。こうした理由から技術進歩は設備投資を拡大させる。例えば,アメリカについて機種別の投資動向をみると,最近の機械設備投資増加の大半が電子計算機,通信機器等,技術進歩の著しい機械設備の増加によるものであることがわかる(第3-2-10図)。

近年の技術進歩は,電子計算機,工作機械等資本財を中心として起こっているため,消費財生産における技術進歩とは異なり,比較的広範な産業分野で投資を増加させている。

アメリカにおける電子計算機等の投資額は,景気変動にもほとんど左右されず,着実な増加をみせており,今後とも投資の伸びを押し上げる要因になるものとみられる。

(資本収益/コスト比率に影響を及ぼすその他の要因)

投資減税等各国において設備投資促進策としてとられた税制変更は,企業の内部資金の増加や投資コストの引下げをねらいとしている(第3節参照)。

相対価格変化を伴わないインフレ率の上昇は,資本収益/コスト比率に直接影響を与えない。しかし,通常の償却制度の下では,高インフレが減価償却不足の原因となり,間接的に資本コストを引上げることになる。アメリカの場合,大統領経済報告(83年版)に基づき計算すると,インフレ率が1%高まると,資本コストは償却不足によって約1%上昇することになる。

また,資本以外の生産要素の価格の急騰は,価格の硬直性のために資本収益を低下させ,資本収益/コスト比率を引下げる可能性がある。

(3)各国の設備投資動向と政策対応のあり方

(設備投資動向と要因別寄与度)

資本収益/コスト比率と,企業家心理に大きな影響を与えるとみられる将来の景気見通し(名目GNPの変化率で近似),更に,ストック調整と更新投資需要を表わす民間資本ストックを説明変数とする設備投資関数を推計し (付注3-4),設備投資に対する各要因の寄与度を求めた (第3-2-11図)。

これによると,アメリカ,イギリスでは第1次石油危機後,収益/コスト比率の悪化から,かなり大きなマイナス効果が働き,景気が回復に転じた75年にも設備投資は減少している。76年以降,イギリス,西ドイツでは収益/コスト比率の改善を主因に,設備投資は79年までかなり高い伸びを示した。

アメリカでも76年から79年にかけ,設備投資の伸びは高かったが,収益/コスト比率は77年以降一貫してマイナスに効いており,投資の増加はもっぱら,景気回復と,更新投資需要増によるものとみられる。

第2次石油危機後の各国の投資をみると,アメリカでは,新金融調整方式が採用された79年以降,82年まで,収益/コスト比率はかなり大きなマイナス要因となり,景気が一時的に回復を示した81年を除き,景気面からもマイナス効果が働いたため,80年及び82年の設備投資は減少した。イギリス,西ドイツでも79年以降,収益/コスト比率はマイナスに寄与し,景気要因もマイナスとなったことから西ドイツでは81,82年,イギリスでは80,81年と設備投資は低迷した。

最近の動向をみると,景気回復,収益/コスト比率の改善等から,イギリスは82年から,アメリカ,西ドイツでは,83年に入り,設備投資は増加に転じている。これら3か国,特にアメリカでは,現実の物価上昇率で実質化した実賃金利は高水準ではあるが,景気回復に伴い,期待収益増加率が高まり,金利の高さをかなり相殺しているとみられる。また,第3節でみるように,政府が各種の設備投資促進策をとっている。更に,景気回復に伴う企業家心理の改善,ストック調整過程のマイナス効果の消滅,高インフレ下で発生した償却不足不安の減少から,今後とも設備投資の増加が予想される。一方,フランス,イタリアでは物価,金利ともいまだ高水準であり,景気の回復もみられないこと等から,設備投資は現在も低迷している。

(総合的政策の必要性)

上記の設備投資関数によれば,設備投資は景気変動や収益/コスト比率,資本ストックなどから影響を受けていることがわかった。欧米における投資コストの引下げを通した投資促進策の効果がどの程度あるかを上記投資関数から直接計ることはできない。

しかし,この関数の結果等から考えると設備投資の促進のためには,投資コストの引下げ,一定の景気の維持,インフレ抑制等を各国の実情に応じて組み合わせた総合的な政策が必要といえよう。

また,アメリカ等ではクラウディング・アウトから再び投資環境が悪化するという懸念があり,金利の低下に配慮したポリシー・ミックスが必要である。

更に,技術進歩は,投資収益の改善などを通じて設備投資を促すことから,この分野での政策対応も重要である。設備投資と技術進歩はいわば車の両輪のようなものであり,両者が順調に伸びることにより,持続的な成長が可能になるといえよう。