昭和56年

年次世界経済報告

世界経済の再活性化と拡大均衡を求めて

昭和56年12月15日

経済企画庁


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第4章 世界貿易と動態的国際分業の課題

第2節 世界貿易と非産油途上国の経済発展

1. 分化した非産油途上国

(1) 拡散した成長格差

1970年代の世界経済は通貨不安や2度にわたる石油危機の発生などで大きく揺れ動いた。その中で先進国経済は人口1人当り実質成長率が60年代の年平均4.1%から70年代には同2.5%へと鈍化した。一方,非産油途上国(発展途上国から資本余剰石油輸出国を除いた諸国)のそれも3.5%から2.7%へと鈍化したものの,その度合いは先進国より小さく,かつ,70年代の1人当り実質成長率は先進国のそれをわずかながらも上回った(第4-2-1表)。このように非産油途上国経済は,70年代に入り鈍化しながらも,全体としては先進国経済を上回る成長を達成した。

しかし,その中味をみると大きな問題が浮かび上ってくる。それは70年代に入り非産油途上国間の分化が著しくなり,かつ,低成長国が増えたことである。第4-2-1図は,60年代と70年代の人口1人当り成長率を67か国について比較したものである。これでみると,60年代は年平均成長率0~4%の間に対象国の3/4が集中しているのに対し,70年代には同範囲内の成長を遂げたのは同1/2に減少し,各国間の成長格差は大きく拡大した。こうした中で次の3点が注目される。第1は,60年代にマイナス成長となったのは対象国の1/10(7か国)にすぎなかったのが,70年代には1/4強(18か国)へと増加していることである。第2は,ほとんどの低所得国の成長率は60,70年代を通じて先進国の成長率を下回っていることである。第3は,その反面70年代に入って高成長を達成する国の数も増加していることである。

(2) 著しい経済発展を遂げた中進国等

ここで,70年代に高成長を達成した諸国及び地域(以下,便宜上国と称す)をみると,まず年平均人口1人当り成長率が6%を上回ったのはシンガポール,台湾,韓国,香港,ブラジルの5か国がある。これら諸国の特徴は,いずれも高い工業品輸出増加に主導された高成長を続けていることで,79年時点で工業品輸出が20億ドルを上回っている。こうした諸国に,やや成長率は落ちるが,メキシコを追加することができる(同国の場合,年平均人口増加率が3.6%と,先進国を3%近くも上回るため70年代の1人当り実質成長率は2.0%にとどまっている)。これら6か国を以下では中進国と称する。この中進国の70年代の人口1人当り成長率(80年のGDPで加重平均)は年平均5.0%と60年代の4.0%を上回っており,とりわけ,アジア中進国の成長率は同7.1%と際立って高い。

さらに,中進国に次いで比較的高い成長をみせた国々をみると,その大半の諸国で工業品輸出及び工業生産が高い伸びをみせている。そうした国の中で78年時点で工業品輸出が5億ドルを上回った国をあげるとマレーシア,タイ,フィリピン,コロンビアがある。この4か国に,政情不安等で成長率は低かったものの,工業品輸出増加率が高く,かつ,成長潜在力を秘めているアルゼンチンを含めた5か国を中進国に次ぐ国としてあげることができる。

この5か国を以下,準中進国と称する。この準中進国の人口1人当り実質成長率(アルゼンチンを除く)も4.2%と高かった(アルゼンチンを含むと2.7%)。

(3) 低迷した低所得国等

中進国及び準中進国が高成長を達成しているのに対して,多くの中所得国(1979年の1人当りGNPが370ドルを超える国)及びほとんどの低所得国(同370ドル以下の国)は低成長を続けた。

とくに低所得国(80年時点で13億人と世界人口の30%を占めている)の人口1人当り実質成長率は60年代の1.8%から70年代には年平均1.6%へとさらに低下した。とりわけ,その中でも石油輸入低所得国(11.7億人と世界人口の26%を占める)の70年代の成長率は年平均0.8%にとどまり,80年時点の1人当りGNPも220ドルと先進国の1/48,中進国の1/9にすぎない。

(4) 分化した非産油途上国

こうした中進国等と低所得国等とに明暗を分けた成長の結果,両者の経済構造は大きく異るようになった。例えば,低所得国はこの約20年間にほとんど工業化が進まず,GDP(国内総生産)に占める製造業の比率は10%程度にとどまり,農業の比率は38%と依然高い(第4-2-2表)。これに対して,中進国の場合,もともと比較的高かった製造業の比率が一段と高まり,GDPの構造は先進国に近い形となった。これを労働力の産業別分布でみても低所得国と中進国との違いは際立っている。

こうした生産構造を反映して,貿易構造の差も著しいものになっている。

低所得国の輸出は79年時点でもインド,パキスタン等一部諸国を除くと輸出金額の90%近くが一次産品輸出で占められており,工業品輸出を急増させている中進国と対照を見せている。

このように,非産油途上国は70年代に入り,成長格差が拡大する中で,中進国及び準中進国等一部諸国を中心とした高成長グループと低所得国を中心とした低成長グループとに大きく分化したということができる。

2. 中進国等の経済発展の原因と貢献

(1) 中進国等の経済発展の原因

途上国の経済発展に政治的安定性,社会制度,風習等が大きな役割を果すのはいうまでもないが,経済的側面では資本と人的資源が最も重要と考えられる。資本については,もともと国内経済基盤が脆弱で生活水準の低い発展途上国では国内資本は不足しており,外貨の役割りが極めて重要になる。この外貨獲得の源泉となるのが輸出であり,輸出で賄いきれない部分が外資導入である。

こうした観点から中進国等の経済発展をみると,その成功の第1の要因として工業品輸出を中心に世界貿易のダイナミズムに乗りえたことを挙げなければならない。第1節でみたように戦後の世界貿易は工業品を中心に生産を上回る拡大をとげた。こうした中で中進国は経済発展の戦略として輸出振興策をとり,労働集約型産業を中心にその比較優位を十分に活用して工業品を中心に輸出を伸ばしたのである。そのため,国内の産業政策面でも輸出促進を目的とした税制及び金融面での優遇措置の導入(例えば,韓国の場合,81年10月現在プライム・レートが19.5%であるのに対し,輸出金融に対しては12.0%で融資している),労働集約的工業部門の開発促進,信用,ノウハウ等の適切な供給等の措置が多くの国で実行された。そして市場機構を生かす政策環境の中で新興の企業家達は先進国市場の需要構造の変化に機敏に対応して輸出構造を多様化させつつ輸出を増大させていったのである。

中進国は交易条件が改善せず石油輸入支払金額が増大する中でも,こうした工業品輸出の増大により,輸出購買力を着実に増大させることができた。

それが民間資金の導入ともあいまって,経済発展と生活水準向上のために必要な輸入の拡大を可能ならしめたのである。

その第2は,こうした輸出主導の工業化のため,海外の民間資本を積極的に取入れ,それを工業化にふり向けたことである。これには先進諸国等の経済協力が大きな役割りを果している。中進国等の成長可能性,輸出能力を評価して,欧米の民間金融機関もオイル・マネーを中心におおむね積極的な資金供与を行った。もっとも第2次石油危機以降累積債務と高金利の重圧からとくに長期民間資金の流入が困難になっており,それが今後の中進国等の経済開発を阻害するのではないかと懸念されているのは第1章でみたとおりである。

その第3は,農業生産面でもその生産性向上に力が入れられたことである。つまり,中進国(但し,香港,シンガポールを除く)の農業生産は70~79年間に年平均3.7%増と低所得国の同1.9%増(但し,インドを除く。インドは2.1%増)を大きく上回った。このため低所得国のように農業不振が工業原材料不足や食料輸入の増大(国際収支悪化)をもたらし,経済成長の直接・間接の制約要因となることが防止されている。

最後に工業化に不可欠な人的資源の基礎が作られており,それがとくに労働集約部門の比較優位を形成したことである。

人的資源に関する一つの指標として教育水準の推移をみると途上国の教育水準は60年以降着実に上昇しているが,とくに中進国では義務教育は多くの国でほとんど完全就学の状況になっており,中等教育の就学率もかなりの高水準に達している。成人識字率をみても,76年でブラジルの76%を最低にアジア中進国では軒並み90%を上回っている(第4-2-3表)。こうした基礎教育の基盤があるからこそ工業化が順調に進んだのであるといえよう。

(2) 増大し,多様化する中進国の工業品輪出

(増大した中進国の工業品輪出)

ここで中進国躍進の牽引力となった工業品輸出について詳しくみてみよう。

世界の工業品輸出は1965年の1,021億ドルから79年には9,421億ドルヘ年平均17.2%増の拡大を示したが,中進国の工業品輸出はそれを10%以上も上回る伸びをみせ,世界の工業品輸出に占めるシェアを65年の1.8%から79年には5.9%へ高めた。中進国の工業品輸出の拡大により,低所得国等のシェアはこの間逆に低下したにもかかわらず,非産油途上国全体のシェアは65年の4.1%から79年の8.9%と倍以上に高まった。79年の中進6か国の工業品輸出総額は556億ドルとほぼイタリア(594億ドル)に匹敵する規模となっている。

(多様化する中進国の工業品輪出)

しかも70年代に中進国の工業品輸出は,労働集約的軽工業品の域を越えて多様化した。いま中進国のOECD諸国向け工業品輸出を4つの商品グループに分けて65年から79年への変化を見ると,65年当時は繊維,衣類,玩具等の労働集約的軽工業品のシェアが約3/4と圧倒的だったのに対して,79年にはそのシェアが約半分強にまで下る反面,軽機械が20.3%,重機械が15.6%と大きくシェアを高めている(第4-2-4表)。65年当時は中進国の輸出産品でOECD市場の総輸入の10%を上回ったのは旅行用具・バッグ類(15.9%),衣類(16.3%),玩具(14.8%)等ごく一部の商品に限られていた。しかし,79年時点では労働集約的軽工業品のシェアが衣類30.3%,はきもの23.9%,旅行用具・バッグ類42.2%,時計27.7%等一段と増大した上,テレビ・ラジオ等電気通信機械21.2%,船舶5.7%,事務用機器3.9%と重機械等,軽機械等の分野での進出も著しくなっている。

(3) 中進国の世界経済に及ぼした貢献

中進国工業品の先進国に対する輸出の増大により,主要国の工業品輸入に占める中進国のシェアは増大した。すなわち65年と79年とを比較すると,ヨーロッパ諸国におけるそのシェアの変化は1.0%から2.7%へと小さいが,アメリカが5.5%から17.9%へ,日本は2.1%から20.3%へと急増している。

こうした中進国の工業品輸出の急増は先進国に警戒感を持たせたが(次節で詳述),中進国の経済発展は全体として世界経済に大きな貢献を成していると考えられる。それは先進国経済が停滞に向う中で,中進国経済はなお規模こそ小さいが力強い成長力をもっていることである。65年当時世界の2.4%を占めるにすぎなかったGNPは79年には4.2%へ高まった。設備投資のシェアはさらに高いとみられる。世界貿易に占めるシェアも65年の2.9%から79年には5.2%となっている。

中進国が世界経済に及ぼす貢献を相手グループ別にみると,まず先進国経済に対しては,その工業品輸出の大きな市場になっていることを挙げねばならない。65年時点でわずか4.0%にすぎなかったOECD諸国輸出の対中進国比率は79年には6.4%へ高まった。

これは中進国を除いたその他非産油途上国向けの先進国工業品輸出シェアが同期間に15.8%から10.6%へと低下したのと対照をなしている。特に第1次石油危機後,先進国の先進国に対する工業品輸出が平均16.6%増(73~79年)と伸び悩んだのに対し,そのOPEC向けが同30.0%と著増したのに続き,中進国向けも同20.0%増と好調であり,両者が先進国の輸出増大に少なからぬ寄与をなしている。なお,中進国向け工業品輸出は,79年時点で重機械等が47.6%,資本集約的中間財が27.6%を占めており,中進国向け輸出が先進国の資本財・中間財産業を支える一助となっているのを示唆している。

先進国と中進国の間のこうした輸出,輸入両面を通ずる相互依存の深まりは,先進国経済の効率化,生産性向上,物価安定等にも寄与していると考えられる。

第2は,その他の非産油途上国経済に対する貢献である。中進国の輸入は70年代(70~79年)に年平均24.5%増と大きな伸びを示した。これは産油国からの輸入が39.3%と急増した上,中進国間の貿易が28.8%と大幅に伸びたことが大きいが,中所得国からの輸入が29.8%,低所得国からも19.8%と高い伸びをみせている。中所得国,低所得国の輸出の伸びが,それぞれ15.8%,13.8%増と低迷したことを考えると,中進国のこれら諸国からの輸入増大はこれら諸国の輸出を支える一助となったと云うことができよう。

また中進国の賃金・物価は高成長の中で上昇率を高めてきたが,その結果,中進国に次ぐ準中進国が労働集約的軽工業品の比較優位を高め,先進国へのそれら輸出の伸びを高めている。65~79年のOECD諸国の準中進国からの輸入は年平均28.0%増と中進国に次ぐ高い伸びとなっている。

3. 低所得国経済低迷の要因

これに対して低所得国経済が低迷をつづけた理由は何だろうか。

(低迷した輪出)

その第1は,輸出が伸び悩んだことである。これは低所得国の輸出構造が一次産品中心であることに加え,世界景気が停滞したことによる。すなわち低所得国の輸出は70年代(70~80年間)に年平均13.8%増にとどまった。これは同期間の非産油途上国全体の輸出増加率20.5%,あるいは,中進国の輸出増加率26.7%に比べると著しく低い(第4-2-5表)。

低所得国の輸出構造をみると,インド,パキスタン等南西アジア諸国で工業品輸出比率が比較的高いものの,その他諸国のほとんどがほぼ90%以上を一次産品輸出に頼っている。しかるに,世界貿易の中で石油等燃料を除いた一次産品輸出は60年代,70年代ともに低迷を続けており,70年代(70~79年)の発展途上国の一次産品(石油等を除く。以下同じ)輸出は,工業品輸出が年平均27.3%増と高い伸びを示したのに対し,14.9%増にとどまった(第4-2-6表)。

この要因をみると,工業品の伸びの内12.1%増が数量の伸びであるのに対し,一次産品の数量の伸びは3.5%増にすぎない。一方,価格は73~74年頃の高騰から70年代全体でり工業品価格の上昇率10.9%を上回年2.3%高となったが,短期的変動が大きく,それが輸出所得の不安定性をもたらす原因となっている(第4-2-2図)。

こうした一次産品輸出の長期低迷及び価格の不安定が生じるのは次のような理由による。

それは需要面からみると,①工業品に比較し総じて所得弾力性が小さいこと,②技術の進歩や一次産品価格の不一安定性から合成代替品(合成ゴム,合成繊維等)が出現したこと等がある。

供給面では,①産業構造が硬直的で市場の動向に柔軟な対応がとれないこと,②農産品は天候に生産が大きく左右されること,③工業品に比べ技術革新のテンポが遅く,コスト・ダウンを図るのが困難であること等がある。

一方,工業品輸出比率が比較的高いインド,パキスタン等低所得国の輸出をみると,一次産品輸出が低迷しているのと同時に工業品輸出の伸びも必ずしも高くない(インドの場合70~77年間に年平均一次産品が15.4%増,工業品が15.6%増,パキスタンの場合70~79年間に同一次産品が11.3%増,工業品が11.7%増)。これはこれら諸国の工業化は主として輸入代替指向で,国内産業保護のために輸入制限・国産品使用義務化等を実施したことから工業品の輸出競争力が総じて強化されなかったためである。

(低水準の資本流入)

非産油途上国の経常収支赤字は1973年の115億ドルから2度の石油危機を経て80年には821億ドルへと著増した(この経常収支赤字拡大の原因は第1章でみたとおりである)。

このうち,低所得国(但し,石油輸入低所得国)の経常収支赤字は石油価格の急騰等を反映して73年の40億ドルから80年には141億ドルへと増加した。

経常収支赤字額の対GNP比は,73年の3.1%から80年の4.7%へ上昇し,しかも80年時点での対輸入金額比率は非産油途上国平均が22.4%であるのに対し37.3%と一回り大きい。

こうした赤字拡大に対するファイナンスは79年までは対外借入れによりどうにか賄われたものの,80年の石油輸入低所得国の総合収支は赤字を記録し,外貨準備高は減少に転じた。また,70年代の低所得国のファイナンス状況をみると,政府開発援助は増加しているものの,民間資金等貸付け条件の厳しい資金は流入が少なかった。このため,人口1人当り資金受取り額をみると,非産油途上国全体では69~71年平均の6.3ドルから78年に30.8ドルとほぼ4.9倍に増大したが,その中の低所得国は同期間に3.4ドルから14.0ドルへ増加したにとどまった。人口1人当りでみると低所得国への資金流入は78年時点で新興工業国(中進6か国にギリシャ,スペイン,ユーゴスラビア,トルコ,アルゼンチンを加えた11か国)の1/5程度しかなかった(第4-2-7表)。

(農業の停滞)

低所得国の農業は79年時点でもGDPの38%を占めており,チャド等ではその比率は70%にも達している。しかし,農業生産増加率(インドを除く平均)は70年代に年乎均1.9%(インドは2.1%)増と人口増加率を0.7ポイント下回った。これは中所得国の農業が人口増加率を0.6ポイント上回る3.0%増であったことと対照的である。こうした農業低迷から,低所得国は食糧輸入が恒常化しており,78年時点で食糧輸入が輸入総額の17%を占めている。

これは同年の石油等燃料輸入比率16%とほぼ同規模で,この両者が外貨の有効使用の大きな制約要因となっている。

低所得国の農業不振は経済に占める農業の比重が極めて大きいことから成長の足を引っ張っており,経常収支赤字拡大とならんで国内の貯蓄不足の大きな要因ともなっている。このため,低所得国の投資比率は第4-2-8表でみるように,中所得国に比べ依然低い水準にとどまっており,また,投資増加率も低い。

(人的資源の不足)

低所得国は人的資源の不足も著しい。途上国全体の教育水準が着実に上昇しているのは先にみたとおりであるが,低所得国の教育水準は一部例外(スリランカ等)はあるものの,総じてその他の諸国,とりわけ中進国に大きく遅れている。例えば,成人識字率は76年時点でも低所得国(インドを除く)が39%と中進国の半分ないしそれ以下の低水準となっている。また,教育水準が中等ないし高等教育とあがるにつれ,就学率でみた格差も著しくなっている。こうした教育格差は産業の生産性にも大きな影響を及ぼしている。世銀の調査によると,学校に行かなかった農民の年間収穫量は4年間の初等教育を終えた農民のそれを10%近くも下回っている。

一方,人的資源の不足とは裏腹に,低所得国の人白増加率は70年代も年平均2.6%(但し,インドを除く,インドは2.1%)と高かった。この高い人口圧力も成長を制約している(先進国の人口増加率は70年代に年平均0.7%,中所得国は同2.4%)。

4. 非産油途上国の今後の課題

非産油途上国は70年代を通じて分化が進んだ上,80年代には新たな問題にさらされている。

その第1は,増大した累積債務と高金利による金利支払負担増である。これについては第1章ですでにみたとおりであるが,貿易収支赤字の拡大やその他の要因も加わって,非産油途上国の経常収支赤字は拡大している(第4-2-3図)。そのため中進国をはじめとして非産油途上国は程度の差はあれ,調整政策への転換を余儀なくされており,各国とも成長率を鈍化させている。とくに中進国は,こうした成長鈍化の中で急速な工業化の過程で拡大した農工間格差の是正や,賃金上昇に対応した産業構造の高度化等を図っていかなければならない困難な状況にある。

その第2は高エネルギー価格の重圧である。石油価格は今のところ弱含みで推移しているものの,その水準は第1次石油危機以前の10倍以上と高水準になっている。そのため石油純輸入途上国の石油輸入は著しく増大している。すなわちそのGNPに対する比率は1972年には0.9%にすぎなかったが,78年には2.9%へ,さらに80年には5.2%へ高まった。グループ別にみると,工業化の進んだ新興工業国の受けた影響が最も大きいが,低所得国にとっても,高エネルギー価格は離陸へ向けての経済開発を進めなければならない厳しい条件となっている。

こうした新たな諸困難の中で非産油途上国が経済発展を達成していくためには,途上国自身の自助努力と合わせて,先進国,産油国,共産圏あるいは国際機関等の多面的な協力が不可欠である。