昭和56年

年次世界経済報告

世界経済の再活性化と拡大均衡を求めて

昭和56年12月15日

経済企画庁


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第3章 先進国経済再活性化のための新たな試み

第5節 フランスの経済政策

1. 政策の背景と考え方

これまでみてきたような,市場の調整機能に重点をおいて経済再活性化を図るイギリスやアメリカの経済政策の方向に対し,1981年5月に誕生したミッテラン大統領の率いるフランスの社会党新政権は,公共部門の拡大,権限の分散化,企業運営の民主化等の経済社会の構造的改革の下で,現在の資産・所得の偏在等の不平等を是正し国民的連帯を強化することを通じて,社会と経済の再活性化を推進し,究極的には先進国における社会主義の実現を図ろうとしている。

現政権登場の背景には,ジスカールデスタン前政権下で著しい増加をみた失業の問題がある。前政権は,インフレ抑制を最重点-課題とした慎重な政策運営を続けたが,石油危機等の中で結果的には失業者の増大と貿易収支赤字拡大等に悩まされた。

このためミッテラン政権は,政策目標の重点を雇用の拡大に置いている。

そのためには,一層の経済の成長が必要となるが,その成長の実現は,公共部門の主導性の承認,所得の公正な分配,地域格差の是正,貿易不均衡の是正,勤労者の権利と主体性の確保等を要件としているといわれる。

このような考え方を背景として,政府は,景気刺激策として拡大的な財政政策を実施する一方,税制改正や社会福祉施策の拡充による不平等是正策と共に,地方分権化や企業の民主化による地域経済・企業の活性化とこれらの全体的な調整機能としての公共部門の充実化を図る構造改革策を,その社会経済政策の柱としている。

2. 政策の概要

これらの政策における具体的な対策の重点は,次のとおりである。

第1に,失業対策としては,まず公共部門における大幅な新規雇用を計画しているほか,労働時間の短縮やパート・タイム制の利用によるワーク・シェアリング等を推し進めようとしている。

第2に,政府は企業投資の拡大と技術革新の刺激を通じて,国内産業の強化を図るために,基幹産業の国有化を推進している。この国有化政策は,戦後フランス経済の再建の土台となった国有化政策の延長上にあり,産業再編成,産業構造高度化による国民経済の近代化の手段として提起されているが,政府は,これに加えて,労働者の経営参加を含めた官民協調等による企業の民主化の方向をも重視している。既に,重電・家電・化学等の5大企業グループと2大金融会社,36銀行の国有化法案が閣議決定されているほか,航空機・武器・コンピュータ等の産業グループの国有化の検討が進められている。

第3の重点は,社会的不平等の是正と連帯の強化を目的とした税制改正と社会福祉施策の拡充にある。政府は,法定最低賃金について物価スライド分以上の引上げを実施したほか,家族手当,老齢最低保障を漸次引き上げており,税制面では,82年度予算案において,インフレ調整減税を実施する一方で,財産税の創設や高所得層への付加税適用等の措置を講じている。

この様な政策の下で,財政は拡大しており,財政赤字は,81年度の当初予算294億フランに対し,82年度当初予算案では954億フランと著しく拡大している。

また金融政策も,基本的にはインフレ対策として通貨供給量管理が続けられているものの,一連の景気刺激策に応じた銀行貸出規制枠の緩和等から,通貨供給量の増加率が上昇するなど,実態的には緩和に向かっている。

価格政策面では,前政権下においてインフレ抑制策として競争を通じた価格自由化政策が推進されてきたが,新政権も基本的には自由な価格形成を認めることを表明している。しかし,財政拡大等を背景としたインフレ懸念が,10月のEMS平価調整(フラン切下げ)によって一層増大したことから,物価上昇率を82年に10%にとどめるべく,①サービス価格の凍結(6か月間)②150億フランの82年度歳出額の支払繰延べ等の措置が決定された。

3. 今後の課題

このようなフランスの政策においては,サッチャー政権やレーガン政権が問題視している政府の機能と規模に係わる問題点の克服が1つの大きな課題とみられる。各種福祉施策の拡充や雇用創出策に伴う財政赤字の拡大・金融の緩和は,インフレ悪化とフラン安という悪循環を助長するという見方は,国内外において依然根強い。

また,こうしたフランスの国有化政策は国外からの投資や技術の流入を抑制するという懸念に加えて,労働時間短縮化や最低賃金引上げ等を背景とした労働コスト上昇圧力が,企業効率を弱め,むしろ国際競争力の低下をもたらす可能性のあることが指摘されている。

そのほか,国内市場失地回復をめざし貿易の均衡化を図る上で,保護貿易的傾向が強まる可能性のあることなども懸念されている。

フランスが目指している経済再活性化の成否は,さらに,その構造改革の過程で社会各層間の種々の利害調整が円滑に行われ国民的合意が形成されるかどうかにかかっているといえよう。

フランスがこうした課題にどう対処していくか今後の動向が注目される。


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