昭和56年
年次世界経済報告
世界経済の再活性化と拡大均衡を求めて
昭和56年12月15日
経済企画庁
第3章 先進国経済再活性化のための新たな試み
従来の政策の失敗の経験の中からそれに対する反省として登場してきた新しい試みも,こうして様々な問題に逢着している。
余りに短期的な需要管理や,財政赤字の拡大等がインフレ悪化を助長し,政府の機能・規模の非効率的な拡大や税負担の増大等が供給面での活力を阻害してきたことなどが,スタグフレーション悪化の一つの重要な要因であり,スタグフレーション克服のためにはその是正が不可欠であると考えられる。
現在のイギリス,アメリカの経済政策は,ねらいとして,このような1つの重要なポイントを突いている。しかし,同時にそれは,より広い視野からは次のような課題を持っていると言えよう。
その第1は,市場機能の不完全性の問題である。
「阻害要因としての政府」を問題視する考え方の背後には「市場に対する信頼」があるにしても,現実の経済においては財貨・労働両市場には硬直性がみられ,それがスタグフレーションの同様に重要な原因となっているのは事実であり,それらを考慮したより広範な対応が必要であろう。
第2は,社会的公正の確保の問題である。アメリカ,イギリスにおいては減税や歳出削減の過程で分配・公正面での後退が指摘されているが,それが行きすぎると,社会的緊張を激化させ,スタグフレーション克服のために不可欠とみられる社会の全構成員の合意と協力を阻害することになりかねない。
一方,フランスにおいては,前節でも指摘したように雇用を重視した拡張的な経済政策運営の過程で,根強いインフレ心理や通貨不安をいかに抑制・吸収していくかが今後とも最大の課題とみられる。けだし,インフレ抑制に成功しない限り,所期の産業基盤強化を通じた経済の再活性化は困難とみられるからである。
スタグフレーションは,過去10数年にわたって欧米先進国を侵食してきた現代経済社会最大の困難な問題であり,短期間に克服できる単純なものではあるまい。それに対する対応策は,各国の経済的・社会的・政治的構造の相異等から,異なってこようが,いずれにしてもスタグフレーション克服のためには,長期的な対応姿勢の堅持と同時に,広範な対策の動員が要請されよう。その中で,政府の機能と市場の機能の双方の不完全性に対処し,かつ経済社会の効率面と公正面のバランスをとった対応策がとられる必要があろう。
スタグフレーションとの困難な戦いにある欧米先進国が,過去の経験はもとより,お互いの経験をも糧として,より適切な政策を現実化して,スタグフレーションを克服することが強く期待されている。これらの諸国がその経済の再活性化に成功することは,ひとりそれぞれの国にとってのみならず,世界経済全体にとっても重要なことだからである。