昭和55年
年次世界経済報告
石油危機への対応と1980年代の課題
昭和55年12月9日
経済企画庁
第3章 オイル・マネーの再出現と国際通貨問題の新展開
発展途上国は本来的に貯蓄不足経済であり,その発展のためには外部からの資本輸入が必要である。石油価格の高騰による経常収支の悪化は国内の貯蓄・投資ギャップを一層拡大することになるが,それは投資に向けるべき資源をその分だけ削減して経済発展の妨げとなる。ここではこういう観点から,まず第1次石油危機以降の非産油途上国の貯蓄・投資動向を調べてみよう。
(非産油途上国と貯蓄・投資ギャップ)
石油危機をはさんで非産油途上国の貯蓄・投資がどう変化したかをみたのが第3-3-1図である。本図から次のことが読み取れる。①60年代初頭ではほとんどの国で投資率が15%前後となお低く,しかも貯蓄不足が著しかった。もっともブラジル,メキシコ,コロンビア,ペルーなど中南米諸国はすでにこの頃から貯蓄が投資に追いつく段階に入っていた。②70年代初頭には工業化に成功した中進国(注)などで投資率が高まった。また各国とも貯蓄率も高まって貯蓄・投資ギャップはかなり縮小した。③もっとも第2次石油危機を経た最近時点では非産油途上国の貯蓄・投資ギャップが拡大する一方,マレーシア,ペルー等新興産油国ではそれがかなりのマイナスになる(貯蓄超過が拡大する)などパフォーマンスの拡散がみられる。④なおこの間を通じて目立っているのは,韓国,シンガポールが低貯蓄,低投資経済から高貯蓄,高投資経済に急速に躍進したことである。
(石油危機後も鈍化しなかった投資テンポ)
石油危機が非産油途上国の貯蓄・投資ギャップに及ぼした影響をもう少し詳しく第3-3-1表にみよう。石油危機は海外部門の超過貯蓄の拡大を意味するから国内の貯蓄・投資ギャップは拡大する。しかしここで注目すべきは,貯蓄・投資ギャップの拡大にもかかわらず投資率はどのグループも落ちなかったことである。これは民間資本市場で借り入れた資金が多くの国で投資に向けられたことを意味している。
この事実は別のデータからも裏づけられる。いま第1次石油危機前後の成長率と投資の伸びを途上国と先進国とで比較すると,第3-3-2表のように先進国では石油危機後投資の伸びが激減し,それが成長率低下の主因の1つとなったが,途上国では成長率が微減したにもかかわらず投資の伸びはむしろ増加した。
また投資財輸入の伸びを石油以外の輸入の伸びと比較しても(第3-3-3表)非産油途上国,とくに中進国の投資財輸入は高い伸びを維持していた。第1次石油危機後もこうして中進国を中心に投資が高い伸びを維持したのには,少くとも3つの理由がある。
その第1は,当時主な途上国は積極的な成長目標を掲げた開発計画を推進中だったことである。すなわち,ブラジルは第1次国家開発計画の最終年にあり8~10%の成長率,10~12%の工業生産の伸びをめざしており,韓国は第3次経済開発5か年計画で9%成長を目標としつつ,軽工業から重化学工業へ工業を高度化させる開発戦略を進めていた。また台湾では成長率9.5%を目標とした第6期4か年計画が始まったところであった。シンガポールは長期計画は持たなかったものの,68~73年に年率13.1%の高度成長を続けており,工業化率も26%に達していた。また,フィリピン,タイ,マレーシア,コロンビア,ペルーなどの発展途上国でも積極的な開発計画と工業化促進途上にあった。
第2はアメリカを中心とする先進国の景気回復から非産油途上国の輸出市場が順調に拡大したことである。
第3はすでに述べたように,オイル・マネーが非産油途上国に順調に還流し,上記投資需要に資金の裏づけを与えたことである。
こうして投資が高い伸びを維持したほかにも,多くの国で石油その他の資源開発の進展,国際競争力のひき続く改善などの進歩がみられた。
こうしたところへ襲ってきた第2次石油危機は非産油途上国経済にどんな影響を与えているだろうか。
(前回と同規模となった第2次石油危機)
まず今回の石油危機が,非産油途上国経済に及ぼすインパクトの相対的な大きさをみてみよう。すなわち,これを先進国経済に対してと同様,石油純輸入増加額分の名目GNPに対する比率でみると,先進国経済に対する場合と同じく,ほぼ前回と同規模になる。すなわち,72年から74年にかけての非産油途上国全体の石油純輸入増加額97億ドルは72年の非産油途上国の名目GNPの2.5%に相当するのに対し,78年から80年にかけての石油純輸入増加見込額は207億ドル(注)に上るものと見込まれ,78年の名目GNPの2.2%になる。
なお,外貨準備高に対する比率でみると,72年から74年にかけての石油純輸入増加額は72年末の外貨準備高の51.6%であったのに対し,78年から80年にかけての石油純輸入増加見込み額は78年末外貨準備高の32.3%となっており,今回の方が影響度は小さい。これは後述するように,この間かなりのスピードで外貨準備が積みまされたためである。
(第1次石油危機の後遺症)
ほぼ同規模の石油ショックに対して先進国経済は短期的には総じて前回よりうまく対応した。非産油途上国も79年を見る限り,第1章第6節で見たとおり実質的に成長を落さずに来られた。投資率も引続き上昇した。
しかし,非産油途上国の場合に問題なのは先進国の場合以上に第1次石油危機の後遺症がその経済の制約となっていることである。
非産油途上国の経済における第1次石油危機の後遺症の第1は,輸入石油依存度(石油の純輸入金額の名目GNPに対する比率)の高まりである。第1次石油危機以前は,非産油途上国の輸入石油依存度は,先進国の半分以下だった。たとえば72年についてこれをみると,先進国の1.8%に対して非産油途上国は0.6%となっている。非産油途上国の中では依存度の最も高い中進国(メキシコを除く5か国,以下ではメキシコは原油純輸出国に分類)でも1.1%であった。ところが78年には非産油途上国の依存度は1.6%へ上昇し,メキシコ,マレーシアなどの原油純輸出国を除くと2.6%と先進国の2.2%を上回った。特に中進国のそれは3.3%の高水準に達した。同様な傾向は石油純輸入の総輸入に占めるシェアについてもいえる(第3-3-4表)。
第2の後遺症は,インフレの悪化である。非産油途上国のインフレは第1次石油危機以前の5年間(67~72年)には年平均9.3%であったが,72年~78年には同25.0%となった。地域別にみるとアジア諸国は農業生産の豊作等もあって76年以降落着きをみせたが,その他の地域は目立った改善がみられぬまま今回の第2次石油危機を迎えるに至っている。
第3は貿易収支及び経常収支の悪化である。第4は債務残高の増大と債務返済比率の上昇である。第3,第4については後に詳述する。
こうした後遺症は,非産油途上国が第1次石油危機以降も比較的順調な成長を続けたことの結果である。すなわち,先進国が第1次石油危機以前の67~73年平均5.0%の成長から,73~78年は同2.5%と著しい成長鈍化を経験したのに対して,非産油途上国の実質成長率は第1次石油危機以前の同平均6.0%から73~78年同5.1%と鈍化はしたもののその幅はわずかであった。そのため石油消費の伸びも衰えをみせず,世界の石油消費に占めるシェアも72年の13.6%から78年には15.9%へ高まった(第3-3-5表,なおここでは産油国も含んだ数字)。比較的早い成長スピードがインフレの悪化,貿易収入の悪化にも影響しているのはいうまでもない。累積債務の増大も,貿易収支が悪化する中で成長を鈍化させないため資本輸入を推進した結果である。しかも条件のより厳しい民間資金に頼らざるを得なかったために債務返済額の増加も著しくなっているのである。
(経常収支赤字の大幅拡大)
非産油途上国の経常収支赤字は第1次石油危機以前(70~73年平均)の98億ドルから,第1次石油危機後(74~78年平均)の360億ドル,第2次石油危機後(79~80年平均,IMF推計)の615億ドルへと石油危機を経るごとに大幅に拡大してきた(第3-3-6表)。
もっともこの間,非産油途上国の経済規模も拡大しているので,たとえば79年の経常赤字のGNP比率は4.0%と73年の2.0%は上回るものの74年の5.2%,75年の6.0%の水準には達していない。しかし,重要なのはこうした規模の経常赤字を年々積み上げていくことが,累積債務問題を生み出すという形で,その後の非産油途上国の発展を阻害する要因になる点である。
第1次石油危機によって,非産油途上国の経常収支の中味がどう変ったかをまずみてみよう。
非産油途上国の経常収支赤字の8割前後は貿易収支赤字である。すなわち,第1次石油危機以前の経常赤字98億ドルのうち貿易赤字は70億ドルを占めており,また,第1次石油危機以降の経常赤字360億ドルのうち貿易赤字は305億ドルとなっている。この貿易赤字の拡大は,石油価格の大幅引上げによる石油収支の悪化と工業製品価格上昇による工業製品収支の悪化の2つの要因による。しかしその寄与率を見ると前者の方がずっと大きくなっている。すなわち,第1次石油危機前の貿易収支赤字はその91.4%が工業製品収支赤字によるもので,石油収支赤字は8.6%を占めるにすぎなかったが,第1次石油危機後は石油収支赤字のシェアは20.1%にはね上った。第2次石油危機によりこの比率は一段と高まるとみられる。これをグループ別にみると,中・低所得国は両面がともに悪化しているが,中進国は77年以降工業製品収支が黒字に転じており,貿易収支赤字はもっぱら石油収支赤字によるものとなっている(第3-3-2図)。
(ファイナンスはおおむね順調に)
こうして第1次石油危機以降,石油輸入金額の急増などから経常収支赤字が増大したが,そのファイナンスは今迄のところおおむね順調に行なわれてきた。すなわち,75年には非産油途上国の輸出が前年より減少したため,外貨準備高を取り崩さざるを得なかったが,それ以外の年には経常収支赤字を上回る資本流入がもたらされ,その間,石油危機発生以前を上回る外貨準備の積み増しが行なわれた。これはすでに第1節で述べたように,主に国際資本市場の流動性が潤沢で,民間資金の流入が順調に行なわれたためである。
73年から78年の内に非産油途上国の民間資本市場,特に金融機関からの長期借入れは40億ドルから193億ドルへと年率37.0%の急増を見せた。これに対して,公的資金の長期借入れは55億ドルから163億ドルへと年率24.6%の伸びであった。もっとも第2次石油危機発生後,民間金融機関による貸付けは79年,80年(前年同期比)と前年を下回っている。
(債務残高の増大)
以上のように非産油途上国は経常赤字が拡大する中で外貨準備を増やしつつ成長を維持して来た。しかし,公的移転,直接投資等債務とはならない資金流入の伸びが相対的に遅れたため,対外純借入れ,したがって債務残高が急増した。非産油途上国全体の公的債務残高の輸出(サービスを含む)に対する比率を見ると,第1次石油危機以前の73年には70%だったのが75年には76%,さらに79年には80%に上昇している。また,その名目GNPに対する比率を見ても同じ年次に対し14%→15%→181/2%と推移している(IMF推計)。
これをグループ別にみると,2つの対照的な特徴がみられる。第1に,輸出(ここではサービスを除く)に対する公的債務残高の比率は中進国が73年の66.4%,78年の89.5%と比較的低水準にとどまっているのに対し(準中進国も同様),低所得国は73年240.2%,78年253.7%と極めて高水準となっていることである(第3-3-3図)。これは,中進国の場合60年代から工業品輸出拡大をテコに高い成長を達成してきたため国内貯蓄率も高まり,相対的に対外債務負担度が低くなっているためである。加えて,第1次石油危機後も工業品を中心に輸出が73~78年間に年平均22.4%増と債務残高の伸び(29.9%増)は下回ったものの,順調に増加した。これに対し,低所得国は国内貯蓄率が低く,国内経済開発の基礎的部門から外国の協力に頼らざるを得なかった。しかも,低成長が続いたことから貯蓄もさしたる上昇はみせず,債務負担度は徐々に高まった。また石油危機後も輸出は年平均12.7%増と低迷した。
第2に,対外債務の中味をみると次のような3つの特徴がみられる。その1つは,全体として債務残高に占める民間資金のウエイトが増大し,公的資金のそれが減少していることである。債務残高に占める民間資金比率は70年の31.3%,73年の34.8%から78年には48.8%へと増加している(第3-3-4図)。なかでも民間銀行に対する債務残高は第1次石油危機後年平均39.5%の高率で増加し,債務残高に占める比率も70年の13.2%,73年の21.8%に対し78年には39.4%と著増している。これはユーロ市場・米銀によるオイル・マネーの還流およびそれとほぼ時期を同じくした70年代における国際資本市場の急速な拡大が背景にある。
その2つは,地域別にみると中南米及び東アジアのシェアが増大していることである。この両地域の債務残高の非産油途上国債務残高総額に占めるシェアは70年には49.0%であったが,73年52.4%,78年56.5%と上昇している。特に,民間銀行の債務残高の3/4(78年)はこの両地域に集中している。
これは,この地域に中進国をはじめ比較的高い成長を続け,かつ,相対的に所得水準の高い諸国があり国際資本市場で有利な信用ランクが与えられていることによる。
その3つは,中進国,原油純輸出国と中・低所得国との間では対外債務の中味にはっきりした相違が見られることである。すなわち,中進国及び原油純輸出国は経済開発が進み,比較的高い成長を続けているか,あるいは石油という有利な資源を保有していることから,信用力が高く,民間資金が順調に流入している。このため78年末の債務残高に占める民間資金ウエイトは中進国が71.8%,原油純輸出国が59.3%と高い。これに対し,特に,低所得国は信用力が乏しいことから民間資金残高は78年末でも全債務残高の9.3%(うち,民間銀行は4.5%)にすぎず,そのファイナンスの主要部分を公的資金に頼っている。
こうした対外債務の構造の変化はつぎのような問題をもたらす。すなわち,まず第1は条件の厳しい民間資金債務の増大から利子・元本支払額が増大し,いわゆる債務返済比率が上昇していることである(第3-3-5図)。これは輸出で稼いだ外貨のうち国内開発のための輸入に向けるべき分がその分だけ削られることを意味する。
その第2は,非産油途上国の二極分化である。前述の債務返済比率についても,アジア中進国は上昇しているもののなお低水準であるが,中・低所得国のそれは輸出の伸び悩みからかなり高水準になっている。
さて,第2次石油危機はこうした第1次石油危機の後遺症の上に重なって起った。いままでのところ非産油途上国は余り成長率を落さずに来ているが,今後,中長期的にも前回同様投資の伸びを鈍化させずに対応していくことができるだろうか。
今回は少くともつぎの5つの問題点がある。その内のいくつかはすでに述べた。すなわち第1は石油輸入依存度の高まりとインフレの底上げであり,第2は債務残高の増大であり,第3は民間銀行を通ずるオイル・マネーの還流の困難化である。
第4に,前回のような輸出の順調な拡大が今回は期待できがたいことがあげられる。すなわち,まず非産油途上国の輸出の約2/3を受け入れている先進国市場が,当面の景気後退は軽度で済むとみられるものの,その後の回複力が前回よりはかなり弱くなると考えられる。とくに前回順調な拡大を示し,非産油途上国の輸入を伸ばしたアメリカが今回はインフレ体質の定着から前回のような役割を果しえないものと思われる。また,欧・米ともに弱い回復の中で保護主義が一段と強まることも懸念される。次に前回急速に拡大した産油国の輸入も今回はそれ程の拡大が見込めないのは,すでに述べたとおりである。さらに非産油途上国間の貿易も,韓国,台湾等中心的役割を果して来た一部諸国の成長力が鈍化しており,また厖大な累積債務の存在自体が多くの国により緊縮的政策を余儀なくさせる等により従来のような伸びは期待しにくい。輸出市場が拡大しなければ,折角拡充してきた工業生産能力を遊休させることになりかねない。
第5に,低所得国の困難が著しくなり,その他の非産油途上国との格差が拡大してきていることである。低所得国では実質GNP成長率が人口増加率と比べて十分でなく,1人当たり実質GNPの伸びは第1次石油危機以降マイナスとなっている国も多い。こうした状態では国内貯蓄を生み出すことがむづかしく,低貯蓄→低投資→低成長→低貯蓄という悪循環から抜け出せないでいる。そこへ度重なる石油危機が加わって,貯蓄・投資ギャップはますます拡大する。低所得国の貯蓄・投資ギャップは79年にはついに11.7%と2桁に拡大した。
低所得国の困難が増大する中で,先進国側にもそれぞれの経済・財政事情から公的援助に伸び悩みがみられる。すなわち,79年のDAC(OECD開発援助委員会)諸国のODA(政府開発援助)は西ドイツ,フランス,イギリス,日本等では増加したものの,最大の援助供与国であるアメリカのODAは前年を下回った。そのためDAC全体のODAのGNP比は0.35%と78年から横ばいにとどまっている。
以上のように非産油途上国の経常赤字と累積債務の拡大は,インフレ,エネルギーと並んで現下の世界経済の最大の問題の1つとなっている。
非産油途上国赤字のファイナンスの主要部分は今後ともなお民間資本市場を通じて行わなければならないであろう。しかし,第1節で述べたようにそれが困難化して来ていることから,産油国からのオイル・マネーの直接的還流やIMF,世銀等国際機関の役割りの拡大によって民間資本市場を補完していくことが必要である。
すでに現実に国際機関はその方向へ一歩を踏み出している。UNCTADにおいて78年3月に貧困途上国の既応債務につき救済ないし条件緩和,または,それと同等の措置をとる旨決議し,わが国を含め実施に移されている。
80年9月/10月のIMF・世銀合同年次総会では,国際機関の役割が一層重要なものになっているとの認識の下に,IMFでは貸付枠の拡大,貸付条件の弾力化,そのための資金拡大の方策等が合意され,また世銀では構造調整融資,エネルギー融資等の拡充の必要性を確認した。すなわち,IMFでは貸付枠については特例的にそれを超す場合もあったものの,従来は原則として割当額の200%をもって限度とされていたが,今回毎年割当額の約200%,3年間合計で600%をガイドラインとすることとなった。また補完的融資制度については低所得国に対する利子補給が合意された。
こうした融資量の拡大に対処するため資金の拡充が図られている。その第1は近く発効予定の第7次増資である。これにより割当額総額は約600億SDR(約770億ドル)となる。そのほか資金の拡充は基本的には増資によるべきであるが,増資を行うまでのつなぎの措置として,恒常的黒字国等からの借入れも検討されている。
こうしたIMFの貸代枠の拡大等は,現在非産油途上国に生じている不均衡は従来より大規模かつより長期にわたる性格のものであるという認識に基づいている。今後ともこうした方向でIMF,世銀の役割を高めていくことが望まれる。
こうして国際機関を盛り立てていくと同時に,世界経済の構成グループである先進国,産油国,非産油途上国が各自で,また,お互い協力し合って世界経済の困難に立ち向っていかなければならない。
まず先進国は,ひき続き公的援助の拡充に努めるとともに,発展途上国に対して門戸を開放し続けなければならない。インフレ抑制,安定成長確保,国際金融市場の安定化等も先進国自身にとってだけでなく世界経済の安定的発展にとっても重要なのはいうまでもない。なお,共産国の国々も発展途上国援助により一層力を入れることが望まれる。構造的黒字国となった産油国にも多国間,二国間両面から援助,投融資を飛躍的に拡大することが要請される。産油国はOPEC特別基金の設立等によりこれまでも援助の拡大を図って来ているが,今後はこれまでの地域的つながりを超えてより多くの国へ援助の手をさしのべることが求められよう。世界経済の安定的発展を念頭において安定的な石油価格,生産政策を維持することが要請されるのはいうまでもない。非産油途上国自身の自助努力が必要なのはいうまでもない。ファイナンスは実体面での調整の代りとはならない。それは実体面での調整の時間を稼ぐことによってその困難を少なくすることができるだけである。ファイナンスと調整の適切なバランスが必要である。そしてファイナンスはエネルギー開発,省エネルギー,輸出産業の振興等中長期的成長力の開発のために一層効率的に活用することが求められる。また民間資金を誘致するためには安定的な経済環境の整備に努めることも必要であろう。
国連では80年代の発展途上国の開発および国際協力の指針となる「第3次国連開発の10年のための国際開発戦略」が採択され,また,80年代初めの南北交渉の場としての国連南北交渉ラウンドについての準備交渉が行われている。一方,ブラント報告の構想から出発した南北首脳によるサミットの開催のための準備も進められており,こうした場においては世界経済の構成員が利害対立を越えて世界経済の困難を克服し,新しい発展のための協力関係を築きあげていくことが期待される。