昭和55年
年次世界経済報告
石油危機への対応と1980年代の課題
昭和55年12月9日
経済企画庁
第1章 1980年の世界経済
世界貿易(数量)は79年も拡大を続けた。これを共産圏を除く輸入量でみると,77年の5.6%増,78年の5.3%増に対し,5.6%増となっている。先進国を中心に世界経済の成長が鈍化したにもかかわらず,輸入の伸びが高まったのは,アメリカの景気が伸び悩んだのに対して,輸入依存度の高い日欧の景気が堅調を維持したためである(第1-4-1表)。しかも設備投資が強く,また原材料在庫積増しがあったことも貿易の伸びを相対的に高めた要因だった。
とくに,先進国の輸入数量は7.8%増と78年の5.3%増を大きく上回り,79年の世界輸入の拡大に最も寄与した。これを相手地域別にみると(第1-4-2表),非産油途上国からの輸入がアフリカ,中南米を中心に14.3%増加して,先進国からの10.1%増を上回った。これに対して産油国からの輸入は先進国の石油消費の節約もあって6.6%減少した。もっともこれを名目でみると,石油価格の大幅引上げのため産油国からの輸入は38.7%増と最も増加している。次いで,共産圏からの37.1%増,非産油途上国からの29.4%増となっており,全体では28.2%増となっている。
産油国の輸入数量は前年比7.6%減少した。これはイラン革命によるイランの輸入減が主因であるが,イランを除いても2.6%減となっている。これは一部のハイ・アブソーバー諸国(注)が78年の経常収支悪化から輸入抑制策をとったとと等による。
非産油途上国の輸入数量の伸びは,アフリカ地域で減少したことなどから前年比4.0%増に鈍化した。
こうして79年中好調を保った世界貿易も80年に入ると伸びが鈍化した。これを共産圏を除く世界輸入数量の四半期の動き(季節調整値,前期比)でみると,79年10~12月の1.5%増の後,80年1~3月は0.6%増となった。4~6月には世界貿易の約7割を占める先進国の輸入がモの景気後退入りがら4.3%減と急減しており,世界輸入も前期比マイナスになったとみられる(第1-4-1図)。7~9月期以降については,西ヨーロッパの景気が下降を続けているものの,アメリカの景気が持ち直し,日本経済も拡大テンポは鈍化したものの,上昇が続いていることから,世界輸入の減少も緩やかなものにとどまるものとみられる。ガットでは80年の共産圏も含んだ世界貿易量の伸びを前年比2~3%と予測している(前回石油危機後の75年の世界貿易量は前年比3%減)。
ここで今回の石油危機下の世界貿易の動きを前回のそれと比較してみよう(第1-4-3表)。前回は石油危機発生後ちょうど1年で世界輸入は減少に転じた。今回も前回とほぼ同じく1年強で減少に向ったとみられる。その落込み幅を先進国輸入についてみると,74年10~12月は5.1%減であったが,80年4~6月には4.3%減となっている。また,前回は世界輸入の減少は3四半期にわたったが,今回は前述のようにもっと短くなる可能性が強い。このように当面の世界貿易の落込みは前回より軽度で済むと思われる。
もっとも81年以降の世界貿易の回復力は前回の回復過程より弱くなる可能性が大きい。それは,先進国がスタグフレーション下で保護主義への傾斜を強めていること。産油国の輸入拡大が前回程には急速に進まないとみられること,また,非産油途上国では貿易収支悪化や対外債務返済負担の増加から,輸入制限を強める国がふえていることなどのためである。そのため,第1次石油危機以後平均41/2%に伸びを半減させた世界貿易量(それ以前の10年間の伸びは81/2%)は,80年代初めにはさらに鈍化することにもなりかねない。