昭和52年
年次世界経済報告
停滞の克服と新しい国際分業を目指して
昭和52年11月29日
経済企画庁
第5章 変貌する国際分業関係
1970年代前半に世界経済が,オイル・ショック,二桁インフレ,戦後最大の不況などによって大きく揺れ動いている間に,世界の生産・貿易構造,とくに工業製品の国際分業関係は大きな変貌を示している。
第一は,世界の工業生産に占める各地域の割合が徐々に変化していることである。60年代においても,共産圏の生産増加テンポは市場経済諸国を上回っており,また発展途上国の方が先進国よりも生産増加率がやや高いという傾向はみられた。しかし,70年代に入ってからは,この傾向は一段と強まっている。これは,70年代前半の大変動の中で先進国の生産拡大テンポが,60年代の年平均5.8%から,70~76年では年平均3.4%へと著しく低下したのに対して,発展途上国の増加テンポを同じ期間についてみると7.2%と6.8%でほとんど変らず,また共産圏諸国の生産の伸びも10.2%から8.6%へと,鈍化の程度が小さかったからである。
この結果,世界の鉱工業生産に占める各地域の割合は,第V-1表のように変化している。この表に示されている注目すべき傾向は,まず,共産圏と発展途上国のシェア拡大テンポがたかまっていることである。たとえば,共産圏のシェア拡大は,60年代には10年間で6.3ポイント(年平均0.6ポイント)であったが,70年代に入ってからは,6年間で5.3ポイント(年平均0.9ポイント)に達している。その結果,いまや共産圏は世界の鉱工業生産の約3割を占めるに至っている。次に,市場経済圏の中についてみると,60年代には,北米・西欧のシェア低下(6.6ポイント)の大部分は日本のシェア拡大(4.8ポイント)によるものであったのに対して,70~76年についてみると北米,西欧の低下(2.1ポイント)は,もっぱら発展途上国のシェア拡大(2.3ポイント)の結果であった。別の面からみると,わが国の鉱工業生産は,60年代には世界の平均を大幅に上回る伸びを示したが,70年代に入ってからは世界の平均並みに減速していることになる。
70年代に入ってからみられる大きな変化の第二は,石油価格の大幅引上げを契機に,世界の国際収支構造が激変したことである。その結果OPEC諸国の経常収支が巨額の黒字をつづけ,先進国や非産油発展途上国の経常収支が大幅な赤字になっていることは前述の通りである(第1章参照)。これを反映して,世界各地域の金・外貨準備の分布も,73年以来大きく変化している。まず, OPEC諸国は73年には世界(除共産圏)の金・外貨準備高の8%を保有しているに過ぎなかったが,77年6月には実に25%以上を保有している。その反面,先進諸国の比率は概して大幅に低下しているが,非産油発展途上国の金・外貨保有高が,世界全体とほぼ同テンポでふえている(つまり世界に占める比率がほぼ一定)ことが注目される。とくに,77年に入ってこの傾向は強まり,非産油発展途上国の割合はむしろたかまっている。
第三の変化として,世界貿易についても一部発展途上国の重要性が,輸出・輸入両面で大きくなっており,とくに先進国の工業品輸入市場における一部の非産油発展途上国の進出振りには著しいものがみられる。また,石油価格の大幅上昇によって急速に豊かになったOPEC諸国は,先進国にとって大きな輸出市場となっているだけでなく,豊富な資金によって工業化を進めており,将来において一部の重化学工業で大きな供給力を持ち,先進工業国の競争相手として登場する公算が大きくなっている。さらに,ソ連,東欧,中国などの共産圏諸国も,1960年代後半以来,生産性の向上のために,西側諸国の資本財や技術の導入に依存する傾向を示しているが,この傾向は70年代に入って一層顕著になっている。このため,先進国からの輸入が急テンポで拡大しており,ソ連,中国はその見返りとして豊富な天然資源(とくに石油)の開発・輸出を進めている。また天然資源に恵まれない東欧諸国では,西側に対する工業製品の輸出増大に努めている。
このようにして,戦後30年間,相互の工業製品貿易を中心に依存度を高めつつ経済成長をつづけてきた西側先進工業国は,いまや産油国,非産油発展途上国,さらには,共産圏諸国をも包含する新しい工業製品の国際分業関係への適応を求められている。
以下では,このような視点に立って,工業製品を中心として,近年の世界貿易にみられる注目すべき変化を,ややくわしくみてゆくことにしよう。