昭和52年

年次世界経済報告

停滞の克服と新しい国際分業を目指して

昭和52年11月29日

経済企画庁


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第4章 発展途上国と共産圏の経済動向

第1節 発展途上国経済の順調な回復

1. 概  況

1976年の発展途上国は実質成長率が産油国で11.7%,非産油国で5.1%といずれも前年の低迷から,比較的順調な回復をたどった(第IV-1表)。これは農業生産が前年に引続き豊作であったこと,先進諸国の需要回復やそれに伴う一次産品価格の上昇などから輸出が大幅に増大したこと,及び,これら要因にともない工業生産も低迷から脱し上昇に転じたことなどによるものである。先進諸国から発展途上国への経済協力など資金の流入もほぼ前年並みを維持した。また,貿易収支の改善も進み,このため75年に若干の減少をみた外貨準備高も76年は再び増加している。一方,高い騰勢が続いている物価は中南米やアフリカ諸国の一部に急騰している諸国があるものの,全体としては前年より鈍化しており,なかでもアジア諸国の鎮静化が著しい。これは農業の豊作,輸入価格の下落,物価抑制策の効果等によるものである。

77年上期の経済動向をみると,農業生産は穀物について,豊作であった前年並みの生産が見込まれるなど順調に推移しており,鉱工業生産も総じて拡大基調にある。一方,輸出の好調も続いており,貿易収支の改善が進んでいるが,3月をピークに以降,一次産品市況が低落していることや,先進諸国の景気回復が思わしくないことなどを反映し,輸出の拡大テンポがやや鈍化している。物価は中南米諸国で,依然高水準ながらも騰勢に鈍化傾向がみられる一方,アジア諸国では77年に入って再び上昇している。

2. 順調な生産活動

発展途上国の農業生産は,1975年の豊作(前年比4.6%増)に引続き76年も好調に推移した(同3.6%増)。一人当り食料生産でみても,75,76年と順調に拡大している(第IV-2表)。そのうち,76年の穀物生産は433百万トンと豊作であった前年をさらに3.7%上回った。大半の国で農業生産はGDP(国内総生産)の30%以上を占めており,また多くの国が穀物の自給を達成していないことを考えると,この豊作が国際収支の改善,物価の安定等に与えた影響は大きい。77年の穀物生産も引き続き順調で,前年を若干上回ることが見込まれている(FAO推計)。

一方,鉱工業生産は75年後半から輸出の回復,豊作に伴う農業関連産業の持ち直し等を主囚に回復に転じ,76年は前年比8.8%増と順調に推移した。なかでも,中進的工業国()である韓国,台湾,メキシコ,ブラジル等は,先進諸国向け工業製品輸出の急増を背景に著しい成長を遂げている(第IV-3表)。ただ,77年に入ってから韓国,台湾等諸国では先進国向け輸出が鈍化しており,それに伴って鉱工業生産の増勢も弱まっている。

3. 輸出の回復と貿易収支の改善

非産油発展途上国の貿易動向をみると,輸出は1975年に前年比マイナス4.5%と減少したあと,76年は21.5%増と大幅に回復した。アジア諸国が33.9%と急増したのをはじめ,各地域とも回復している(第IV-4表)。

これは,第一に先進国の需要が拡大したこと,第二にこうした需要拡大の中で一次産品市況が上昇(76年のロイター指数は前年比27.8%上昇)したことが主因である。先進工業国の非産油発展途上国からの輸入をみると,75年は前年比5.3%と減少したのに対し,76年は21.6%と大幅に拡大した。なかでもアジア諸国からの輸入増は著しく,韓国・台湾・香港といった中進的工業国からの輸入は衣類,合板,電気機器などの軽工業品を中心に40~50%も増加している。また,一次産品輸出国であるタイ,マレーシアやインド等からの輸入も急増している。これに対し,中南米諸国からの輸入は75年の落ち込みを勘案すると伸び率ば小さく,またアフリカ諸国からの輸入も75年の落ち込みが大きかったことから,ほぼ74年の水準に戻したにすぎない(第IV-5表)。ただ,一次産品市況の上昇から,例えば急騰したコーヒーの輸出国であるブラジル,コロンビア,象牙海岸といった有利な産品を持つ諸国の輸出は好調であった。

一方,輸入をみると各国とも引続き輸入抑制を行なっている上,豊作にともなう食料輸入の減少等も加わって76年も前年比3,7%増(75年は5.5%増)にとどまった。このため,非産油発展途上国の貿易収支赤字も75年の291億ドルから,76年には155億ドルと大幅に改善している(第IV-6表)。これを輸出力バレッジ(輸出/輸入)でみると75年1~3月期の66.1%を底にその後改善に向い,76年には79.6%,そして77年1~3月期には84.1%へと,輸出が好調であった73年の84.9%とほぼ同水準に回復している。

しかし,依然赤字額は巨額で,経常収支では258億ドルに達し,各国ともそのファイナンスに迫られた。このファイナンスは第IV-6表でみるように76年も比較的順調に行なわれ,ほぼ前年並みの378億ドルの資金流入があった。この結果76年末の外貨準備は前年末から約120億ドル増加して472億ドルとなった。これは非産油発展途上国の輸入3.6か月分に相当し,75年より約1か月分の改善となった。

4. 急増する公的債務残高

発展途上国の債務残高は1970年代に入り急増しているが,とりわけ石油危機以降74~76年の3年間は年率22.0%の増加となり,76年末の対外公的債務残高(84か国の累計,契約済未受取分を含む)は2,123億ドルに達している(第IV-7表)。これは70年に比較すると約3倍の急拡大であるが,この間輸出額も約3倍にふえているので,対外債務残高と輸出規模との関係は70年とかわっていない。ただ,その内訳をみると,70年には公的資金の比率が70.7%と大部分を占めていたのに対し,76年末にはそれが58.6%に縮小し,民間資金の比率が拡大している。なかでも,74~76年の3年間についてみると,公的資金の債務残高が455億ドル増大したのに対し,民間資金ばそれを上回る500億ドルの増大で,石油危機以降の発展途上国の赤字ファイナンスに民間資金が極めて重要な役割りを果している。この民間資金は所得の高い国及び資源保有国に集中(75年時点で,民間資金債務残高の多いメキシコ,ブラジル,アルジェリア,インドネシ乙韓国の上位5か国で全民間資金債務残高の66.2%を占めている)しており,資源の乏しい低所得国への流入はほとんどみられない。

一方,債務残高,とくに公的資金に比べて条件の厳しい民間資金が増大しているため,返済額も多額にのぼっており,75年には債務返済比率(債務返済額/輸出)が一般的に危険ラインといわれる20%を越した国がウルグアイの45.9%を筆頭に8か国(スーダン,アルゼンチン,チリ,メキシコ,ペルー,エジプト,スリランカ)となり(74年は3か国),また,総じて各国ともこの比率が上昇している。これは75年に輸出が前年より減少したのが主因で,73年から75年にかけ非産油発展途上国の債務残高が48.9%増大したのに対し,同期間の輸出は39.1%増にとどまったことによる。しかし,76年は債務残高が22.1%増大したのに対し同21.5%増となったため,76年の債務返済比率はほぼ75年並みの水準にとどまったとみられる。債務返済比率の悪化は高所得国の多い中南米諸国(民間資金流入の急増と輸出の伸び悩み)と低所得地域である南西アジア諸国(輸出の低迷)に集中してみられ,他の諸国は二,三の例外を除き,債務返済比率はやや上昇気味とはいえ10%前後ないしそれ未満となっている。

なお,前述のような引続く大幅な貿易収支赤字や債務返済額の増大等に対処するために,77年に入ってからも国際会議等で対策が講じられており,5月末から6月初にかけてのCIEC(国際経済協力会議)では,資源移転の一般的問題に直面している低所得国に対する特別措置計画として先進国による10億ドルの供与が合意された。また,IMFは4月の暫定委員会での合意にもとづき,8月の理事会で「補完的融資制度」(IMF加盟国がその出資割当額に比し大幅でかつ深刻な対外不均衡に直面した場合にIMFの通常貸出しとともに行なわれる。なお,9月末における資金拠出予定額 は8,655百万SDR)の設立及びその手続き等に関する決議が採択された。