昭和51年
年次世界経済報告
持続的成長をめざす世界経済
昭和51年12月7日
経済企画庁
第1部 景気回復下の世界経済
第3章 発展途上国の経済
75年後半から本格化した先進国の景気回復に対応して産油国の原油生産は回復に転じ,輸出も前年の停滞から回復した。一方,輸入は75年,76年とひきつづき増加を示したため産油国の経常収支黒字は74年の水準にくらべ半減した。
まず産油国の輸出動向をみると74年の1,187億ドルから75年は,1,102億ドルとなり,74年の2倍近い伸びと比較して様変りに7.2%の減少となった。
輸出の減少にともない当然のことながら産油国の原油生産も減少した。主要産油国であるサウディアラビアでは1974年の848万バーレル/日から75年には,707.5万バーレル/日と16.6%の減少を示した他,ベネズエラ,インドネシアでもそれぞれ,21.2%,5.8%の減少をみた。OPEC(石油輸出国機構)全体では75年の原油生産量は11.7%の減少となった。
一方,輸入については産油国内の開発計画の推進などから75年もひきつづき大幅な増加を示した。主要産油国の輸入(CIF)は74年の前年比70.4%増のあと75年は60.5%増となった。この結果,OPEC諸国の75年における経常収支黒字は74年の650億ドルにくらべ半減し320億ドルになったものとみられる(モルガン銀行推計)。
次に76年に入ってからの産油国経済の特徴についてみよう。
第一は工業諸国の生産回復の本格化とともに産油国の輸出が回復に転じたことである。主な中東産油国についてみると,74年に2~3倍の伸びを示したあと75年は10%前後の低下がみられた。その後はサウディアラビア,ナイジェリアなど前年比3~4割の伸びへと回復している。産油国全体では75年の7.2%減から76年上半期には前年同期比17.6%の回復となっている(第3-12表)。
こうした輸出の回復を通じて75年に減少した原油の生産も76年に入って回復に転じた。OPEC全体では75年の11.7%減少のあと76年上半期には7.7%の増加となった(第3-13表)。とくにOPECの中で最大の産油国であるサウディアラビアでは76年上半期には795.9万バーレル/日と16.8%の増加となっている。
第二は輸入がひきつづき増加しているため,OPECの経常収支黒字幅はモルガン銀行の推計で,75年とほぽ同程度を示しているとみられることである(第3-14表)。この間,第3-15表にみられるように,サウディアラビア,クウェートなどローアブソーバーでは輸入がそれほど増えなかったため経常収支黒字の縮小幅は小さかったが,アルジェリア,イラクなどハイアブソーバーでは輸入の増大から経済収支黒字幅が大きく縮小したり赤字に転じた。こうした経常収支の悪化からアルジェリア,イラクなど75年以後ユーロ市場の借り手として登場した国がみられたことも1つの特徴であった。経常収支の黒字幅が縮小した結果,産油国の外貨準備高の増加テンポは大きく鈍化した。しかしながらサウディアラビアなど76年8月末でみて249億ドルと西ドイツに次いで世界第2位の外貨準備保有国となっているなど依然そのストツクは大きい。
第三に,産油国の国内経済の動きをみると,1つは各国とも依然として根強い物価上昇が続いていることである。これは輸入価格の上昇に加え膨大な石油収入を国内の経済開発に投入したため労働力,財貨・サービスに著しい需要超過が生じたことや,各種のインフラストラクチャーにボトルネックが続出したためである。現在,イラン,イラクなど厳しい物価統制をしている国もあるためデータには必ずしもあらわれていない国もあるが,概ね各国とも30~40%の物価上昇がつづいているものと思われる (第3-16表)。2つは75年,76年の経常収支黒字幅の低下の影響などから中東諸国において経済開発計画の見直しや大型プラントのキャンセルが行なわれたことである。例えばイランでは74年から78年までの第5次5カ年計画は当初364億ドルの規模を見込んでいたが,74年夏に石油価格の値上げから696億ドルに拡大修正された。しかし,その後の石油収入の落ち込みから支出削減が行なわれ実質的に縮小修正されることが確実とみられる。その他76年に入ってサウディアラビア,イラクなどで開発計画の中心的な大型プラント輸入のキャンセルが相つぐなど,これまで進めてきた開発計画の進展があやぶまれている。