昭和49年

年次世界経済報告

世界経済の新しい秩序を求めて

経済企画庁


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第3章 供給制約に対応する世界経済

第2節 供給制約への適応

以上のような資源の制約に対して経済はいかに適応するであろうか。最も大きな問題である石油を例として取上げてみよう。

まず,資源の制約が相対価格の上昇を通じていかにその資源の需給を調整させるか,また,長期的な成長にいかなる影響を与えるかの二つの面が重要である。

まず第1の問題については短期的に,需要がいかに高価格によって減退するかである。供給制約は価格体系の変化を通じてやふては需給の均衡をもたらす。石油のよう{と代替資源の供給の弾力性の低いものの価格が,資源保有国のカルテル的行為によって引上げられた場合には問題は需要の適応に絞られる。

第2の問題として,①高価格の石油の使用量の伸びを鈍化させて成長鈍化におちいって行くのか,②それとも高価格の石油を節約しつつもかなりの成長を維持していけるか,の2つの可能性を考慮しなければならない。すなわち,いわゆる省エネルギー的な経済発展の可能性である。

(短期的調整)

それでは石油価格の上昇は,需要をいかに抑制しているであろうか,まず石油輸入の動きをみると原油価格が4倍となったにもかかわらずせいぜい73年とくらべ横ばいないしは微減である(第3-16表)。また品目別に小売段階の消費統計を見ても各国とも減少を示しているものが多いが,やはり数パーセントというところである(第3-17表)。

それでは原油価格の上昇にもかかわらず,なぜ各国の石油輸入が減少しなかったかを見るために次のようなことを考慮して74年上期についての弾力性を求めてみよう。

第1に石油製品の税込み小売価格では高くとも8割程度の上昇に止まっていることである(第3-18表)。

これは,一つにはガソリンなどではその価格の大きな部分を構成する税金が従量税の国がほとんどのためである。リットル当りの税金が固定されている限り,原油価格が4倍になっても税込価格の上昇はこれをはるかに下回る。

次に,石油精製,販売のコストが短期めには固定的であり上昇してもその幅が原油価格の上昇に比し小さいためである。

第2に他の物価も上昇しているため,相対価格の上昇は少なくなることである。

消費者物価があがり,代替品も上昇すれば石油製品価格が上昇しても,代替品にシフトする動機は減少する。消費者物価の上昇率で割引いた,石油製品の相対的価格上昇率は2~5割どなっている(第3-19表)。

第3は,消費が減るにはある程度時間がかかることである。これは,ガソリンや灯油の場合でいえば,自動車をあまり使用しないようにしたり,室温を下げるなど速効的な方法もあるが,大型車を小型車に切り換えたり,家の緩房器具も節約型にかえるなどの調整には時間がかかるからである。

OECD諸国全体のガソリンに関するデータを使った場合数年かげれば価格上昇に対してかなりの消費の減少がおこるのに対し,最初の一年間ではこの長期的減少のおよそ5割にあたる減少しかおこらないという推計もなされている。アメリカだけとり出してみるとこのような調整はさらにおそい。これはアメリカが大型車に依存しており,都市の大量輸送手段が発達していないことで説明される。また,暖房用によくつかわれる灯油などはこの調整時間がさらに長いことも推計されている()

第4は,石油消費の動きが所得の動きに影響されることである。もし所得があがれば,他の条件が一定なら石油製品の消費も増える。ここで本年に入ってからの実質所得の動きをみると,アメリカやイギリスでは減少していることがわかる(第3-20表)。石油消費の減少は,これによる影響もあるので,価格上昇の効果を抜き出すためには,所得面の影響とわけなければならない。

以上のことを考慮した上で,価格上昇率と消費減少率の比(弾性値)が,1974年の上期においてどのくらいであったかをガソリンについて計算してみるとやはり1よりかなり低いことがわかる(第3-18図)。これは1年目の効果であり,従来の経験から推定すると,この2~3倍の効果が長期的にあらわれるものとみられる(前出第3-20表)。

ただ,この間については,石油禁輸,消費抑制(日曜ドライブ禁止,速度制限など)等が価格上昇と同時にとられている影響も含まれており,その分だけ価格上昇の効果として過大に評価されているということになる。

(長期的調整一生産におけるエネルギ一節約)

エネルギーの高価格に対する生産面での調製については数量的に把握することは難しい。ただアメリカにおける一試算によれば,アメリカについては,わが国等とは異なり,エネルギーの自給度が高いこと,代替エネルギーが豊富であること,エネルギー消費 にしめる民生用の割合が高いことなどの事情から,エネルギー高価格によって1980年の石油消費量を一定の条 件のもとでの1980年の予測水準に対して8%下げても年0.4%の実質GNPの減少しかもたらさないとされている。この試算においては,エネルギー価格上昇によってエネルギーが資本と労働に代替されるものとみこんでいる()。

しかし,エネルギーは,特に資本に対しては補完的であって代替的な関係にはない,という見方もある。この考え方によれば現在の労働力不足のもとでは,エネルギーの供給増加テンポ の鈍化は生産の増大にとってかなりの足かせになる。

ここでは,まず資本や労働などとエネルギーの間の代替が今後どの程度可能かを例示を中心としてみてみよう。

① 原料によるエネルギーの代替

アメリカでは1950年代以来総ガラス張りのビルが続々と建てられたが,ガラスの断熱性は低い。ところがこれを複層ガラスにすると熱損失は半分ですむ。またエネルギーをくう冷房の場合で-も,反射メタリックガラスを使うことによって大きな節約が期待できる。一般の住宅においても断熱材をふんだんに使うことはあまり行われていないが,ここにも原料によるエネルギーに対する代替の余地がある。

② 原料の使い方の技術革新によるエネルギー節約

コンクリートは石のように冷たくなるが,軽量コンクリートにすれば気泡を混入してあるので断熱材として働く。

③ エネルギーの使い方の技術革新

アメリカでのある学校建築に際して照明関係の設計をうまく行えば,必要なワット数がほぼ半減することが見られた。この種の建築ではエネルギーの消費の半分以上が照明に使われているから節約効果は大きい。

④ 資本によるエネルギーの代替

セメント生産のためのキルンには重油多消費型とNSPやSP型の二つのタイプがある。前者はセメント1トン当り180リットルの消費であるが設備はNSP型などに較べ安くつく。NSP型では1トン当りの消費は85リットルで済むが,従来は設備面では高くついて採算が合わなかった。現在では,NSP型などの方が有利になって来ている。このように,代替の可能性は今後の技術進歩により増大するものとみられる。

次に,石油に代るエネルギー源についてコスト比較を中心に経済面からの可能性を検討してみよう。

① オイルサンド

一時は採算ラインはバーレル当り約3ドルといわれていたが最近では7~8ドルといわれている。カナダにおける操業の経験では1972年までは赤字続きであったが,アメリカ国内の原油価格がバーレル当り3.5ドルをどす状況のなかでほぼ黒字となった。その後のインフレでコストは上昇しているとみられるが,新規参入は相ついでおり,これら数社の計画によれば8~10ドルで採算が可能としている。

② オイルシェール

アメリカのコロラド州などではいくつかの計画があるが今年11月には,もっとも計画の進んでいたグループがオイルシェールに見切りをつけたことからみて現時点では採算をとることはやや難しいとみられる。

③石炭液化

1970年にアメリカの石炭調査局の発表した数字によれば,石炭の価格がトン当り4ドルであれば,収益率を10%と仮定した場合にバーレル当り4ドルが採算点とされていた。その後原油価格が上昇したにも拘らず石炭価格がトン当り10ドルをこえ,その他の諸経費も上っているのでなお商業ベースにはのっていない。

④ 石炭による合成高カロリーメタンガス

1971年の時点ではアメリカの石炭調査局によれば,方法によって異なるが,60~100セント/100万BTUといわれていたが,その後の石炭価格の上昇によって,現在では1ドル/100万BTUを大幅に上回ると考えられる。

アメリカの計画では,1980年前後からの実用化が目指されている段階であり,現時点での採算は困難な状況にある。

⑤原子力

現在の高価格石油に対して,原子力は充分な競争力を持っている。フランスの例でいえば,原子力発電の方が火力を大幅に下回るコストとなっている(第3-21表)。フランスでは,したがって1985年に電力の7割を原子力でまかなうことを目標としている。

また, EC全体でも石油危機をきっかけに原子力に対する依存を高める動きを見せている。EC委員会による74年3月発表の「EC共通エネルギー戦略」では,前回(72年10月)に出した85年エネルギー需給見通しを改訂し,原子力のウエイトを前回の2倍近いものにした(第3-22表)。

⑥地熱利用

イタリア,ニュージーランド,アメリカなどですでにかなりの発電が行われているがコストに関するデータは乏しい。環境保全に対する配慮が必要ではあるが今後の技術革新により増大が期待される分野である。

⑦ 海洋エネルギー

フランスにはすでに潮力利用のランス発電所があるが,コストとしては現在の石油価格のもとでの火力発電の約5倍と,いまだ実用の段階にはほど遠い。

以上で見たように,10年,20年の長期では,エネルギーの資本による代替や,省エネルギー技術の進展,また石油の他のエネルギー源による代替はおこり得る。従って石油の供給量や価格が,その急速な消費の増大を妨げるものであったとしても,世界経済はかなりの成長をとげ得るであろうという見方が成り立つ。

しかし,注意しなければならないのは,石油価格に伴う不確定性である。

石油節約的な投資にせよ,代替エネルギー開発のための投資にせよ,不確定性が大きい時には,リスクプレミアムも大きくならざるを得ない。とすれば,商業ベースで予想収益率がかなり高いものでなければ急速な転換は望めないということになる。したがって短期的には需要面での調整が中心となることは避けられないのが現状であるが,これが今後どのようにOPECの価格政策にはねかえり得るものかが,今後の注目を要する点であろう。