昭和49年

年次世界経済報告

世界経済の新しい秩序を求めて

経済企画庁


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第3章 供給制約に対応する世界経済

第1節 供給制約の実態

73年10月の中東戦争を契機に発生した石油危機は,世界経済に大きな影響を与えたが,同時に次第に悪化しつつあった他の資源の供給不足問題も成長を制約する要因として注目を集めるに至った。また,72~73年の世界的好況は,基礎資材の極端な品不足を生ぜしめた。さらに,74年春になっていったん緩和したかにみえた食料需給も,主にアメリカ,カナダの穀物不作見通しによって,再びひっ迫傾向を強めつつある。

(1) 資源・エネルギー

世界の資源問題は,大きな転換期を迎えている。この背景は,第1に,世界経済の発展に伴い,資源・エネルギーの需要が急速に増大したこと,第2に,資源の有限性の認識が高まり,産油国の供給制限に代表されるような資源をめぐる国際情勢の変化が,供給面の制約に大きな影響を与えるようになったことである。このような資源の有限性の認識は,化石燃料,鉱産物のような再生産不可能な資源が中心であるが,それに止まらず,森林資源など一部の再生産可能な資源をも含むものである。

以下,再生産不可能な資源につき供給面の制約を考えてみよう。

(資源の有限性)

資源の安定的供給を確保するためには,一定の埋蔵量を確保しておくことが必要である。世界の主要資源について埋蔵量に対する年間生産規模の比率(可採年数)でみれば,石炭・鉄鉱石・ボーキサイトの可採年数は長く,その他の資源はおおむね30~60年となっている(第3-1表)。

可採年数は,基本的には価格・技術にしたがって変化する。すなわち,価格が上昇すれば,開発が促進され,埋蔵量は増加する。また,技術の進歩によっても埋蔵量は増加する。さらに,地殻に存在する資源量は上記の埋蔵量を大きく上回っているから,少なくとも10~20年の期間でみれば問題は物理的な枯渇というよりむしろ,供給削減などの人為的な性格が強い。

(生産の少数国への偏り)

近年における,石油・アルミニウム・銅・鉄鋼など主要資源の消費は,おおむね実質国民総生産の成長率を上回り,著しく伸びてきた。特に,73年の伸びは著しい(第3-2表)。

主要資源は少数国に偏在しており,その製品の多くは主要先進工業国で消費されている(第3-3表)。石油は中東を初めとする発展途上国の賦存が大きいが,その他の資源は必ずしも発展途上国が大きいとは限らない。しかし発展途上国は工業化の段階が低いため,これら生産物の多くを先進工業国に輸出しているので,輸出市場でのシェアは大きい。

主要資源につき,自由世界の生産,消費に占める発展途上国,先進国のシュアの推移をみよう(第3-1図)。発展途上国は,生産においては,絶対的水準は高いが,石油を除いては,そのシェアは低下ぎみである。消費においては,絶対的水準は低いが,そのシェアは上昇傾向にある。

他方,先進国は,生産においては,絶対的水準は低く,消費においては,絶対的水準はきわめて高い。

このような,資源需給構造の不均衡のほかに,資源開発における懐妊期間が長期にわたることは資源供給を非弾力的にさせ,また探鉱,開発の不確実性,リスクの大きさは,供給を不安定にさせている。

(資源ナショナリズムの高揚)

資源ナショナリズムの発生の理由は,先進諸国が発展途上国に産出する資源を利用して高成長を遂げたのに対し発展途上国の経済開発は遅れていること,石油における八大メジャーズ,銅における十大国際資本,アルミニウムにおける六大国際資本,ニッケルにおける四大国際資本など旧宗主国の大資本によって寡占的に支配が進み,生産・輸送・価格などあらゆる面を支配したこと,多くの発展途上国にとって資源は最大の収入源であり,工業化のてことなる産業であること,最近において重要資源の需給がひっ迫したことなどが挙げられる。

a.OPECの進展

中東産油国は,メジャーズによる一方的な原油公示価格の引下げに対抗して,60年9月にOPEC(石油輸出国機構)を結成した。しかし,その後は石油の供給過剰によって,OPECは目立った動きをみせず,公示価格もバーレル当り1.8ドルの時代が続いた。しかし70年代に入ると原油需給のひっ迫を背景に,OPECの動きは活発化し,71年2月に湾岸6カ国は,テヘラン協定により,公示価格をバーレル当り35セント引上げ,他方協定期間5年は石油の供給保証を行うことが決められた結果,それまでメジャーズが一方的に行ってきた公示価格は産油国との協議に基づいて決定されることとなった。

72年12月にサウディアラビア,クウエートなどの湾岸諸国は,リヤド協定により,国際石油会社への事業参加比率を73年1月1日の25%から82年1月1日までに51%に引上げることが決定された(73年10月以降の生産削減及び価格引上げについては第1章第1節補論参照)。

産油国がこのような力をもつに至った理由としては,i)石油がエネルギー源として最も経済性にすぐれ,国民生活,産業活動にきわめて大きな影響を与えていること,ii)産油発展途上国が石油の埋蔵量・生産および貿易にきわめて大きなシェアを有していること,iii)中期的にも代替資源の開発が容易にできないこと,iv)アラブ諸国の場合は,文化,宗教,政治目的に共通性が多く,結束が図られやすかったことなどが挙げられる。

b.資源輸出国カルテルの拡がり

OPEC諸国の成功に刺激されたこともあって,一次産品生産国によるカルテル結成を図る動きが活発化している。そのうち注目すべきは以下のものである。

銅については,68年5月にチリー,ザンビア,ザイール,ペルー4カ国によってCIPEC(銅輸出国政府間協議会)が設立された。CIPEC諸国の世界生産に占めるシェアは,OPEC諸国の石油の世界生産に占めるシェアの約半分であり,また,資源の重要性からみてもOPEC諸国ほどの力はないが,最近銅価格維持のための具体的措置を発表するほか,影響力増大のため加盟国数の増加を検討している。

ボーキサイトについては,74年3月ジャマイカ・ガイアナ・スリナム・ギニア・シエラ・レオネ・ユーゴスラビアがIBA(国際ボーキサイト連合)を結成した。オーストラリアは9月に正式加盟し,この7カ国で世界生産の約2/3を占める。うちオーストラリアは,世界生産の25%,埋蔵量の1/3を占めている。

このほか,水銀は,74年5月アルジェリア,スペイン,メキシコ,ユーゴスラビア,トルコ5カ国(72年世界生産に占めるシェア55%)で水銀生産国機構を結成した。鉄鉱石は,74年11月インド,アルジェリア,ペルー,ベネズエラなどの生産国が鉄鉱石輸出国連合(AIOEC)の設立に向けて準備委員会を設置し,検討を始めている。錫には,生産国,消費国から成る国際錫協定があり,価格の安定を図っているが,生産国はそのいっそうの強化を主張している。

次に,カルテル行為ではないが,主要生産国が大幅に価格を引上げ,その動きが急速に他の生産国に波及している例がみられる。

ボーキサイトについて,ジャマイカは74年3月から,新生産税の賦課,利権料引上げ,資本参加等につき,自国内で操業しているアメリカ,カナダ系国際資本と妥協に至らず,6月には一方的に新生産税の賦課を打出した。これにより,ジャマイカの収入は,74年の30百万ドルから200百万ドルをこえるものと見込まれている。

ジャマイカの動きは,その後ガイアナ,スリナム,ドミニカへと急速に波及しており,これらカリブ海諸国にボーキサイトを大きく依存しているアメリカに対し大きな影響を与えるものとみられる(第3-4表)。

また,肥料の重要原料である燐鉱石について,生産で世界第3位,輸出で世界第1位のモロッコが(第3-5表),74年1月以降輸出価格をトン当り  14ドルから42ドルへと3倍に引上げ,さらに7月に63ドルへと再引上げを行った。この価格改定は,他の輸出国へ急速に波及している。

アメリカ国務省の調査によれば今後3~5年間において,石油以外の原料については,「石油と異なり,生産国が政治目的のために,共同戦線をはる可能性はほとんどない。しかし,一部の生産国が限られた範囲内で供給削減などにより価格引上げを図る可能性は残されている。」としている。ECE(国連欧州経済委員会)の年次報告書も,石油カルテルの成功が他の一次産品カルテルに及ぶという見込みは少ないと述べている。

c.先進資源保有国のナショナリズムの発展

カナダは,鉄鉱石,ニッケル,鉛,銅,亜鉛,銀など,オーストラリアは,ボーキサイト,鉄鉱石,亜鉛,鉛など世界で有数の重要資源の保有国であり,しかも世界に占める生産のシェアは高まりつつある(前出第3-1図)。今後,発展途上国からの資源確保が不安定性を増す見通しであり,これら両国の消費国に対する資源供給に果す役割はますます重要性を高めていこう。

両国とも,経済発展の見地から外資を歓迎するとの態度を維持してきたが,その結果,資本,技術集約的な製造業,資源開発産業を中心に広汎に外資が進出することとなった。

このため,最近では外資に対する規制を強化しているが,なかでも,資源産業に対する規制はきびしくなりつつあり,オーストラリアでは,開発プロジェクトがエネルギー(ウラン,石油,天然ガス,石炭)にかかるものである場合,オーストラリア側の完全所有が望ましい目標であるとし,他方カナダでも少なくとも自国の50%以上の参加を目標とするに至っている。

このような資源ナショナリズムも,OPEC,CIPEC加盟国による国有化,資本化,資本参加にみられるように直接的かつ急進的なものではない。むしろ,税制,金融,開発機関(産業開発公社の機能拡大,国有石油会社の設立)を通ずるなどの間接的手段によって漸進的に自国資本の参加の拡大をめざしている。

また,オーストラリアでは,主要鉱産物について,輸出許可制度を通じ政府が介入して輸出価格の調整を図り,カナダでは,利権料の引上げなどの動きもみられる。

両国とも経済発展の原資として資源の輸出収入への依存度が高いことは,発展途上国と利害は共通しているが,輸出価格の引上げは輸入国との協議に基づいて行っている。

なお,オーストラリアは,74年9月にIBAに正式に加盟したが,同国は消費国の利益を配慮するとの立場をとっており,他の発展途上生産国の急進的な動きを抑える役割が期待される。

(2) 基礎資材

第1章でみたように72~73年の景気上昇過程においては基礎資材部門の供給不足が顕著であった。

これをアメリカについてみると,製造業総合の稼働率は過去の過熱期より10%前後も低いのに対し,鉄鋼,非鉄,紙・パルプ,セメント,化学,繊維など最終財生産部門に原料を供給する基礎資材部門の稼働率は過去の2局面を上回り90%を越える状況が2年以上続いていた(第3-6表)。また,原料入手難や出荷の遅れを訴える企業の割合も過去と異なってあとになるほど高まり石油ショックでピークに達するという特徴を示した。また,設備不足感や在庫不足についても同様であり,今回の局面はなお,全体的な需給ギャップが残っている間に素材を生産する部門の設備能力の不足が表面化したために,二次,三次生産部門が原材料不足に陥り,全体として生産が阻害された。

西欧諸国では,概して景気の回復がアメリカに比べて1年近く遅れたこと,および69~70年頃に,かなりの投資が行われていたこと等からアメリカほど設備不足,原材料不足は深刻ではなかった。しかし各国とも鉄鋼,化学,紙・パルプ,非鉄などは73年の初めから74年半ば頃まで一貫して需給がひっ迫し,在庫も減少ないし低水準で推移した。

73年にみられた基礎資材の供給不足の原因は,短期的(循環的)および長期的(構造的)要因が複合して生じたものである。

需要面の動きをみると,過去における原材料消費の伸び率(数量ベース)は,実質成長率を上回っていたが,特に73年の需要は異常に高かった(前出第3-2表)。73年においては,主要先進工業国は20年来といわれる同時的急成長によって多量の原材料を消費し,さらに通貨不安,インフレヘッジのための在庫積増し,投機・も加わって物不足を増幅させた。

供給面では,設備能力の不足が挙げられる。基礎資材産業の設備投資ば,60年代には順調に拡大し,70年代初めには景気後退もあって,過剰能力は全般的に拡がった。その後,72年からは景気は回復,拡大したが,特にアメリカにおいて設備投資は停滞し,企業は需要増には稼動率を上げることによって対応した。

アメリカの場合,基礎資材産業の投資のGNPに対する比率は,60年代央に盛り上がった後,傾向的に落ちてきた(第3-2図)。全製造業との比較でみると,基礎資材産業の全製造業に対する投資の割合は,58年以降すう勢的に低下している(第3-3図)。

日本については,基礎資材産業の投資比率は70年から低下している(第3-4図)。

西ドイツについても,基礎資材産業の投資比率は,71年から低下している(第3-5図)。

また,イギリスについては,基礎資材産業の投資比率は,これらの国に遅れて72年から低下し,他方フランスは上昇基調を示しているので両国は73年好況時には相対的に供給余力があったものとみられる。

企業の新規投資を妨げた要因としては,次のものがあげられる。

第1は,これら基礎資材産業の利益率が低かったことである。アメリカについてみると,とくに鉄鋼,非鉄金属,紙などの業種においては,製造業中でも最下位の利益率を示していた(第3-7表)。

第2に,環境問題である。すなわち地域住民の抵抗による立地難と環境規制の強化により公害防除投資の割合が増加したことである。とくに基礎資材産業の公害投資コストは他産業に比べて著しく高くなっている(第3-8表,第3-9表)。

第3は,政府の価格統制である。アメリカ,イギリスなどでは,供給不足に直面しながらも,統制によって基礎資材の価格を低位に抑えたが,これは企業の設備投資意欲を失わさせることとなった。

このほか,70年に入ってから国際通貨体制の動揺など世界景気の先行きに対する不安感が高まり,これが投資意欲に影響を与えたこともあげられる。

しかし,73年の世界的好況によって,基礎資材の価格が急速に上昇し,企業の利益が大幅に向上したため,各国の基礎資材産業の設備投資計画に刺激を与えている(第3-10表,第3-11表)。

もっとも,世界景気の急速な停滞によって,現在,鉄鋼,アルミニウム,銅,紙,パルプなどの基礎資材の需給ひっ迫は急速に緩和しつつある。  次に,代表的な基礎資材産業である鉄鋼,アルミニウム,化学,紙,パルプの4業種をとりあげて,主として供給面の制約についてみてみよう。

(a) 鉄  鋼

世界の鉄鋼需要は,63~73年平均6.0%と順調な伸びを示したが,73年には前年比10.5%と大きく伸びた。

鉄鋼は,60年代には需給が緩和していたが,73年初め頃から世界的好況による実需の増加および在庫積増しによって,大型ブームを迎えた。価格は,コンクリートバーの欧州大陸輸出実勢価格をみると,72年8月のトン当り110ドルから74年4月には320ドルに急騰した(第3-6図)。

このように,需要の増大に供給が対応できなかったのは,主要生産国における設備能力の不足のためである。アメリカにおいては,60年代終りから設備投資が停滞の推移し,しかも老朽設備の更新に追われ,新規能力増に結びつく投資は相対的に少なかった(第3-7図)。

他方,欧州においては,ECSC(欧州鉄鋼共同体)加盟6カ国の稼動率の推移をみると,71年に低下のあと72,73年には上昇し,69,70年ほどではないが,かなり高い水準に達している。

このように投資停滞の理由としては,投資資金の源泉となる鉄鋼業の収益が悪化していることである。特に,アメリカでは,価格規制,ドルの過大評価による国際競争力の低下などによって,60年代に入ってから鉄鋼業の収益は,製造業平均を大きく下回っていた(第3-9図)。

現在,企業収益の好転などによって,アメリカ,日本,イギリスなどで設備投資の増加が見込まれている(第3-8図)。

今後の制約要因としては,製鉄用原料炭および鉄くずの不足,環境問題,建設費の高騰などが挙げられる。

(b)非鉄金属

アルミニウム,銅,亜鉛などの非鉄金属のうち,最も生産量が大きく,成長性の高いアルミニウムを例にとってみよう。

アルミニウム産業は成長性が高く,アルミ地金消費量は,63~73年平均9.4%伸び,73年には16.9%と高い伸びを示した。

アルミニウムは,60年代後半の設備能力の拡大によって,70年代初めには,過剰能力をかかえていたが,73年初めから需要が急増し,これに在庫蓄積力が加わって需給はきわめてひっ迫した。価格は,国際価格(カナダ,アルキャン社の輸出価格が指標)をみると,73年6月のポンド当り27.5セントから74年7月には39セントヘ引上げられた。(第3-10図)。

現在は,住宅建設の不振などによって自由市場価格はやや下ってきている。

アルミニウムは,その製造原価に占める電カコストの割合が高いので(日本の場合は約1/3といわれる),エネルギー危機後の電力価格の上昇はきわめて大きな影響を与えている。これに,建設コストの上昇,環境規制の強化が加わっている。

(C)化  学

化学工業のうち,石油化学と肥料についてみてみよう。石油化学は,需要の堅調な伸びに対して,供給が追いつかず,全般的に需給がひっ迫し,価格が高騰した(第3-11図)。

アメリカのエチレンを例にとると,70~73年に消費の年平均8.5%の伸びに対し,生産能力は年平均5.5%の伸びに止まっていた。 価格高騰によって企業収益(土大幅に向上し,74年に入って,エチレン・プラントを中心に増設計画が続出しており,アラブ産油国への投資計画も活発に進められている。

しかし,今後の供給面の制約として,原料面で,欧州,日本においては,ナフサの世界的不足が懸念され,他方天然ガスの依存が高いアメリカにおいては,過去20年間の価格規制によって,経済ベースにのる天然ガスの確保が困難になってきている。

肥料の世界消費量の半分近くを占める窒素肥料は石油天然ガスから得られるアンモニアを主原料としているので,原料面の制約は,石油化学とほぼ同じ状況にある。

窒素肥料は70年代初めまでは,60年代の安価な石油原料と過剰設備により供給が過剰であったが,最近の需給はひっ迫し,価格は急上昇しており(第3-12図)在庫はほぼ底をついたものとみられ,輸送面などに隘路が生ずれば,特定地域において不足が生ずる可能性がある。今後の新増設については,窒素肥料の大輸入国である中国・インドの自給化の予想,原料確保の不安,投資効率の低さなどによって,アメリカ,欧州,日本など先進国では具体的計画はほとんど発表されていない。

また,燐酸肥料についても,前述のように,モロッコの輸出価格の大幅引上げは,特に発展途上国に対し,大きな影響を与えよう。 74年DAC議長報告およびアメリカ農務省報告によれば,肥料の需給ひっ迫は76年ごろまで続く見通しであると述べている。

(b)紙・パルプ

世界の紙需要は近年著しく増大し,63~73年の生産の伸び率は,年平均5.0%,73年には7.6%に達した。

紙・パルプは,60年代後半の過剰投資により,70年代初めには需給は緩和したが,72年央からの需要急増により,著しい供給不足を生じ,価格が急騰した(第3-13図)。

最近,企業利潤の好転によって,設備投資意欲は高まってきたが,他面,これを阻害する次のような要因がある。  まず,原料面の制約である。紙原価に占める原木費の割合は40%といわれるが,長期的にみて北米,北欧などの伝統的木材供給圏における原木資源の不足が目立っており,特に北欧においてはスエーデンが木材の成長の範囲内での伐採を実施するなど原木不足が憂慮されている。このほか,建設費の高騰,水質汚濁規制の強化などがある。 以上のように,基礎資材産業は,73年の需給ひっ迫と価格の高騰を反映して,より長期的な観点からの設備投資意欲も強く,鉄鋼,石油化学を中心に投資計画が検討されているが,最近の景気停滞によって,その実施のおくれがみられはじめている。企業の投資阻害要因としては,原料の安定的確保の不安,インフレによる建設価格の高騰および建設期間の長期化,環境規制の強化,過去の過剰投資の反省からの高稼動率指向などがあり,また,投資の懐妊期間も長いので生産力の増加を短期に期待することは困難である。

(3) 食  料

(ひっ迫する食料需給)

戦後の世界の食料需給は一時的な不足はあったものの,おおむね過剰基調で推移していた。過去の不足時代をみると,終戦直後を別にすれば,60年代初めの共産圏における大不作時と65~67年にかけてのインドの大凶作を中心としたアジア地域の不作があげられる。しかし,発展途上国および共産圏で食料危機がさわがれた時も世界的にみれば着実に食料増産は図られていた。

これは先進諸国の生産が安定的に拡大していたことによるもので,大生産国のアメリカ,カナダでは,特に過剰を抑制するためについ最近まで膨大な面積の生産調整を実施しなければならない程であった。

しかし,世界の食料需給は1972年の夏以降,それまでの過剰基調から一転してひっ迫感を強めた。この需給ひっ迫は72年の食料生産が天候不良のため世界的な規模で減産したことが主因である。ここ20数年間をみても,食料生産が前年に比し減少したのは始めてのことで,特に穀物生産は過去に年平均39百万トンの増産であったものが72年には41百万トンの減産となった。加えて穀物の主要輸出国であるアメリカ,カナダによる過剰在庫の削減政策のため,在庫が低位にあり,また,ソ連,中国の穀物大量買付けのほか世界的な穀物需要の増大が加わって一気にひっ迫した(第3-12表)。

72年の不作の後,73年の穀物生産は順調で1,374百万トンと豊作を記録したものの輸入需要は旺盛で需給は依然としてひっ迫をつづけた(第3-14図)。この結果,小麦についてみると主要輸出5カ国の在庫は73/74年度末には20.7百万トンの低水準に落ち込んだ(第3-15図)。

過去20年間の小麦在庫の変動をみると,53年頃よりほとんどの期間において4,000万トン以上の水準を越えていた。唯一の例外は65~66年のインドの大凶作とアジア諸国の不作の後であったが,その時でも3,300万トン(66年小麦生産の11%)の水準は維持されていた。しかるに,今回の在庫水準は73年の小麦生産のわずか5.5%であり,これまでも小麦生産は2~5%の減産 (63年の減産は7.5%)をしばしば繰返していることからみて非常に低い水準にあることがわかる(第3-16図)。米の在庫についてみると輸出国は一部の国に限られ,しかも在庫は極めて少ない。それでもアジアの輸出国およびアメリカの在庫は66~70年平均で4.6百万トン,70年には8.9百万トンであったのが,その後減少を続け73年(暫定)にはわずか2.7百万トンと73年の総生産量の0.8%と1%にも満たない在庫となっている。

一方,飼料穀物についても主要4カ国の在庫は60年代を通じ40~60百万トンと安定していたが,71/72年度の55.6百万トンのあと減少に転じ,73/74年度には31.8百万トンと全生産量の4.7%の在庫にすぎない。

また,今回の食料需給ひっ迫において各国に大きな影響を与え,かつ将来の食料需給に強い不安感を与えたのが,世界的な主要農産物の輸出規制の広がりであった。

世界の穀物生産量に占める輸出量の割合は61~72年平均でみても11%であり,うち小麦が18.4%と一番高く,米はわずか約3%である。ここで穀物貿易を地域別にみると発展途上国地域は近年中南米を除く各地域とも純輸入地域となり,72年に限ってみると中南米も純輸入地域となっている(第3-13表)。共産圏諸国も50年代の初めまでは純輸出国であったがそれ以降は輸入依存度を高めている。こうして輸出余力のある国が減少し,アメリカ,カナダ等の特定国に集中している。このように貿易の比重が小さいこと,輸出国が限られていることから穀物生産の変動はより大きな貿易量の変動をもたらし,また72~73年のソ連の例にみられるように一国の大量輸入によっても国際市場における穀物需給は著しくひっ迫する。

こうしたなかで,60年代以降平均して世界穀物市場の4割を占め,世界の食料倉庫の役割りを荷ってきたアメリカが一時的にせよ73年に農産物の輸出規制を実施し,74年には一定量以上の輸出をチェックするため輸出事前承認制を採用したこと,とりわけ,74年の農産物の輸出事前承認制は,作付制限を解除しフル生産を行った上でのことだったため,一層世界の不安惑を強めた。

また,71年まで小麦および飼料穀物の大量の在庫が緩衝機能を果たしてきたため比較的安定的であった穀物の国際価格は以上のような状況を反映して72年ごろから高騰に転じ,それ以降はかつてない上昇を示した(第3-17図)。

また,食肉価格も72年ごろから急速に上昇した。牛肉についてみるとIM統計では前年に比べ72年17%,73年28%と大幅に上昇したが本年に入ってからは牛肉の需給事情は一転して緩和に転じている。すなわち,需給面では主要先進国における景気の後退,インフレの進行にともなった牛肉消費の減退がみられ,他方,供給面ではここ数年来の各国の増産政策の成果や飼料高騰によると殺増などの要因がかさなって供給過剰の状態にある。これを反映して価格は74年初来大きく低下している(1月から9月まで約29%低下)。

(肥料不足の発展途上国)

石油危機の影響は,発展途上国において肥料価格高騰による購買余力低下等から,肥料の量的不足に拍車をかけたが,発展途上国にとって,まさに人口増と食糧生産不足に悩んでいた時期だけに,非常な打撃を受けることになった。しかも,主として,高収量品種を導入しつつ肥料多使用による食料増貿易バランス産に傾斜しつつある世界の農業にとって,肥料不足は南北問題に新たな課題をもたらしている。

世界の肥料生産は72肥料年度でみれば先進国が,59.2%,発展途上国が7.4%と北側先進国に偏在し(消費量ではそれぞれ52.3%,14.9%),発展途上国側の輸入依存度は次第に低下しているものの消費量の約5割となっている(第3-14表)。このように先進国側に肥料生産が偏在するのは,化学肥料工業が技術資本集約型の典型的な装置産業であって,多額の設備投資と高度な技術が必要とされるからである。したがって国際肥料価格は先進国における肥料の需給に応じて価格が大幅に変動する傾向をもっている。

発展途上国側は,世銀・IMF総会や世界食料会議等あらゆる機会を捉えて,輸出の多い日本等先進国に安定価格による安定供給を強く要請している。IMF見通しによれば,74年の産油国を除く発展途上国の肥料輸入は約18億ドル,穀物輸入が約90億ドルと肥料は73年の約2倍となっており(第3-15表),発展途上国の外貨準備減少の一因となるとともに,肥料価格の高騰は施肥量減少をもたらし,南側の農業生産の成長を阻害することが予想される。

このような肥料不足を放置すれば,とくに発展途上国の飢餓と栄養不良を一層進行させる恐れがあるが11月に開かれた世界食料会議では発展途上国の食料増産の方策が主題の一つとして採用され,その中でも開発援助と肥料問題に論点が集中した。事務局提案によれば,現在の農業開発援助額15億ドルを1975~80年に年間50億ドルに増加させ,そのうち肥料が7億ドル(プラント建設2億ドル,輸入援助5億ドル)必要としている。肥料不足対策としては,短期的にはFAO採択の世界肥料供給スキームへの各国の貢献を,長期的には発展途上国での肥料工場の設置等が提案されている。世界肥料供給スキームは,先進各国は①前年度以上の肥料供給,②発展途上国の肥料プラント稼動率引上げのための援助,③「肥料プール」に拠出等を主眼としている。肥料工場設置については①原料保有国で新しいプラントを作ること(),②生産国と消費国で安定した肥料の生産供給を行いうる共同事業を発展させること等が提案されている。