昭和47年

年次世界経済報告

福祉志向強まる世界経済

昭和47年12月5日

経済企画庁


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第1部 通貨調整後の世界経済

第4章 主要国の経済動向

2. 発展途上国経済

(1) 概  観

1971年の発展途上国の成長は全体としてみれば,前年にくらべて若干落ち込んだものの,先進国ほどではなかった。しかし,これを国別にみると,大きな格差がみられる。石油資源をもっている国は原油価格値上げで大いにうるおったが,そうでない国にとっては困難な年であった。とくに,その他の第1次産品に依存している国は先進国側の需要の停滞を反映して商品価格が1年以上にわたって低落,輸出手取り金額の減少に見舞われたし,工業化に成功している国も先進国市場の停滞の上に,後半から通貨不安とアメリカの輸入課徴金制度が重なって重苦しいふんいきに推移した。

通貨調整で先行き不安が消えて71年末から商品市況が反騰,72年に入ってからは先進国の景気回復がしだいに本格化したうえ,通貨切上げ国との輸出競争上有利になるなど,輸出環境が好転,石油産出国以外の国の輸出も明るさをとりもどしている。

ただその中で,東南アジア諸国では輸出の回復が遅れたほか,概して輸入品の価格上昇を主因に国内物価の上昇にみまわれている。

第4-24図 伸び悩む発展途上国の実質成長率

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それではまず,発展途上国の中での格差の問題をとりあげよう。

発展途上国を全体としてみれば,60年代に年平均5.5%の成長を達成したが,その内訳をみると,1人当り国民所得が比較的高い国ほど成長率が高かったものに対して,発展途上国全体の人口の3分の2を占める低所得の国々では年平均4%程度,1人当たりにすればわずか1.5%程度と推計されている。工業化は成長の原動力であるが,その工業化のテンポをみても,大きな格差がみられる。たとえば,東南アジアでは,香港,台湾,韓国,シンガポールが60年代史から急速な工業化の進展をとげているのに対して,他の諸国をみると,その工業生産の伸びは小さい。産業別国民所得の中に占める第2次産業の割合が,55年から69年までの間にどのくらい増大したかをみると,10%前後の韓国,台湾,5%前後のタイ,パキスタン,フイリピン,3%以下のスリ・ランカ,インドに分かれる。

格差増大といった観点からすると,71年は石油資源の保有如何で明暗を分けた年といえる。71年の発展途上国全体の輸出の伸びは前年の11.8%に対して11.0%と低下の度合はわずかである。しかしそのうち石油産出国の輸出をみると,数量では10%の伸びであったが,金額では30%とずばぬけて大きな伸びを示している。一方,その他の発展途上国の輸出をみると,数量でわずか3%,金額ではそれよりも小さく1.5%の伸びと前年の11.5%から大きく低下した。

輸入の伸びをみると,石油産出国は前年の10.2%から18%にふやすことができたが,その他の国では前年の12.3%から10.5%に減少している(全体として前年の11.8%から12%とわずかながら伸びを高めた)。この結果,貿易収支赤字は70年の20億ドルから71年は,40億ドルへと拡大した。地域別にみると,中近東,アフリカの黒字に対して,アジア,中南米が赤字になっている。とくにアジアの赤字が大きい。

経常収支をみると,71年は70年80億ドルの赤字から97億ドルの赤字に増大したが,これに対して136億ドルと巨額の資本収支黒字と7億ドルのSDR配分があって,総合収支は46億ドルの大幅黒字を記録した。国際収支はこのように表面上よくなっているが,経常収支の支払部分では外資企業の収益送金がしだいにふえてきているし,また資本収支の黒字増大については,経常収支の赤字をまかなうための短期資金流入と一部の石油産出国への開発資金流入による部分が大きかったと思われる。

IMF年次報告(1972年)によれば,発展途上国全体の実質成長率は69年6.9%をピークに70年6.6%のあと71年6.2%と低下した。それでも66~70年の平均5.8%を上回っているし,71年の世界全体が3.8%であることにくらべれば高い成長を維持した。しかし上述のように,国別にみると石油産出国が好調であったほかは,ほとんどの国が前年を下回った。

第1次産品の市況は71年末から立直り,72年央にはポンド,フロートに伴う値上りもあって近年のピーク(70年4月)を上回るものがあいつぎ,ロイター指数は朝鮮動乱以来の高水準を,フィナンシャル・タイムズ指数も18年ぶりの高水準に達している。この高騰は,世界的な1次産品生産の減少や先進工業国の景気回復と生活水準の向上などの需要拡大によるものとみられている。市況がとくに好調なのは,亜鉛,綿花,砂糖,大豆,小麦,羊毛など,このほかでは,ジュート,銅なども回復を示し,いぜんとして低迷を続けているのはゴム,コプラぐらいである。

先進国の景気回復が軌道にのりはじめたことによって,工業品輸出も再び伸びを高めはじめている。したがって石油をもたない発展途上国にとっても,72年は前年よりも明るい年といえそうである。

第4-25図 明暗分ける石油資源

第4-26図 経常収支の赤字を資本収支の黒字で埋める発展途上国

第4-27図 第1次産品価格反騰

(2) UNCTAD第3回総会

景気面ではきびしさがなお強く残っていた4月,チリのサンチャゴでUN CTAD(アンクタッド―国連貿易開発会議)第3回総会が開かれた。今回はチリのアジェンデ大統領のはげしい演説ではわまり,南側の広範囲にわたる要求,とくに国際金融問題を中心として南北が激しい対立を続けた。

採択された決議は47で,そのうち先進国の反対をおしきって行なわれた決議は15にのぼる。主な決議は次の通りである。

① 国際金融とSDRリンク

SDRと開発援助のリンクは,実施の可能性を含めてIMFに検討させる。通貨,貿易,援助が関連しているのにかんがみ,これらの問題が調整的に解決されるようUNCTAD事務局長がIMF事務理事ならびにガット事務局長と協議することを要請する。

② 援助の量

1975年までに先進国は援助の総量をGNPの1%とし,そのうちの政府べース援助を0.7%とすることを目標とする。

③ 政府借款の条件

先進国は(a)政府開発借款の金利が平均2%以上とならないこと,(b)償還期間が少くとも,25~40年,据置期間が7~10年,(c)グランド・エレメントの比率を増大させることという発展途上国の要求に考慮を払うとともに,全D AC加盟国が1969年勧告を履行することについて努力する。

④ 新国際ラウンド

先進国は発展途上国が主張している原則に,注意をはらう。

(3) 東南アジア

東南アジア諸国の回復テンポは国別にかなりまちまちになっている。東南アジア全体としての輸出動向を対OECD向け輸出でみると,今年上期の伸び率は22.0%増(前年同期比)と鈍化した昨年下期(11.7%増)をかなり上回る伸び率を記録している。工業製品が中心の韓国,台湾,香港の輸出は71年後半,意外に堅調を維持し,72年も引続き高水準の伸びを受けている。また,近年,国際収支の悪化に悩んでいたタイは,米,タピオカ,スズ,ジュートなどの一次産品輸出が好転しているし,パキスタン,インド,バングラデッシュも綿花やジュートの輸出が増加している。ただ,ゴム輸出に大きく依存しているマレーシアの輸出は不振を続けている。

一方,輸入は,昨年末の通貨調整後,概して伸び悩んでいる。これまで輸入急増を記録してきた韓国の今年上期の輸入は前年同期比横ばいであり,香港やタイなどの増加率も比較的緩慢である。東南アジア全体としての輸入は対OECD輸入でみると前年同期比5.3%増にすぎなかった。とくにわが国から輸入が大きく鈍化,上期の増加率は4.1%増とかつてない低率である。

昨年末の円切上げが響いているものとみられる。

輸出がやや回復に向っているのに対して,輸入の伸びが概して鈍化していることからタイ,韓国などでは昨年に比べて貿易収支が改善している。ただ,貿易動向は概して良好であるのに対して国内物価の上昇が,今年に入って一部の国を除いてのき並み上昇テンボを高めている。これまでもインフレに悩んできた韓国,インドの卸売物価は今年第1・四半期に急騰し,比較的安定をもってきた台湾の物価上昇も著しい。このほか,香港,スリ・ランカ,インドネシアなどの物価も今年に入って上昇テンポを高めている。経済開発にともなう赤字財政と通貨増発がこれまで物価上昇の大きな要因であったが今回は輸入価格の上昇が国内物価に波及する度合が高まってきている。中間原材料や機械輸入の多くを日本など通貨切上げ国に依存している国では,これがとくに顕著で,たとえば韓国では第1・四半期の輸入品価格は前年比12.6%高とかつてない高騰を記録した。また,台風や干ばつのためフィリピン,インドネシア,タイ,インドでは農業生産の大幅な減産が予想されている。国内経済に占める農業生産のウエイトが大きいだけに影響は大きい。これら諸国では,食料確保自体困難が予想されている。

第4-28図 アジア発展途上国一人当り国民所得

第4-29図 72年に入ってから再び伸び率を高める東南アジアの輸出


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