昭和47年
年次世界経済報告
福祉志向強まる世界経済
昭和47年12月5日
経済企画庁
第1部 通貨調整後の世界経済
第4章 主要国の経済動向
1971年のGNP実績はカナダを除きいずれも政府見通しを下回ったことでわかるように,各国とも不満足な結果に終ったが,72年には,アメリカの景気上昇が本格化し,日本も回復過程に入った。ヨーロッパでは,フランスが引続き好調,西ドイツが緩慢ながら上昇,一方イギリスは上期に関する限り不振であった。
鉱工業生産の伸びをみると,アメリカは71年期待ほど伸びなかったが,72年はきわめて好調である。日本も71年に落ちこんだあと再び上昇している。
ヨーロッパでは最近,イギリスの回復が著しくフランスが高水準で安定,他の諸国はこれまでのところ活気に乏しい。
設備稼動率をみると,72年第3四半期,アメリカ77%,西ドイツ85%となお低い。全般的に設備投資意欲が沈滞し,また,70年後半から失業率が各国軒並み上昇して,減少のテンポがおそいことが,今回の回復過程の特徴といえる。失業の内容については,アメリカ,イギリス,カナダがほぼ同じ傾向を示していて,若年労働者,婦人労働者の失業率が高い。
卸売物価は肉を中心とする食品の価格上昇が各国で問題になっているが,このほか第1次産品価格が急騰している。
消費者物価をみると,アメリカは所得政策を71年後半から実施し上昇率は前年同月比3%の線に近づいている。ヨーロッパ諸国の消費者物価上昇は景気停滞の影響を受けて,71年末にかけて落ちてきたが,景気回復とともに強含みに転じている。かつての不景気時にはマイナスにまで下がったのであるが,今回は5%前後のところで反騰に転じている。なかんずく,オランダは工業品卸売物価の安定にもかかわらず,消費者物価が過去20年で最高の伸びを示し,具体的施策で閣内不一致が生じて5党連立が4党連立になるほどインフレ問題が政策論争の対象となっている。西ドイツも中期計画目標2.5~3%からみると,6%というかなり高い水準にあって,失業の増大する心配がなくなるや,これ以上の景気刺激を避けるとの方針である。イギリスも年度当初は景気拡大策を打出していたが,9月には早くもイングランド銀行はインフレ抑制を優先させるとの態度を明らかにし,さらに11月,政府は所得政策を打出した。
今年の総選挙は5月のイタリアのあと,10月カナダ,11月アメリカ,西ドイツで行なわれ,さらにオランダ,フランス,イギリスなどが控えている。
このため,各国とも基本的に景気維持をはかっているが,インフレ問題が政治問題化していることでもあり,いっそうの景気拡大には慎重である。
第4-1表 71年の実質成長率はほとんどの国で政府見通しを大きく下回ったが,72年にはアメリカの回復いちじるしい
新経済政策発表後の1年を顧みると,経済は拡大を続け,失業率も低下し,物価の上昇速度もかつてほどではなくなり,国際収支も最悪時代を脱却したようである。
実質GNP伸び率は個人消費,住宅建築,設備投資,政府支出増にささえられて1971年第3四半期の2.5%(前期比,年率)のあと第4四半期,6.7%72年第1四半期6.5%,第2四半期,9.4%,第3四半期6.3%と急速に回復している。とくに第2四半期の伸び率はベトナム軍事支出が急増し始めた65年第4四半期の9.4%と同一であった。
新経済政策に盛られた自動車物品税の廃止,個人所得税の減税および3ヵ月間の物価凍結をきっかけに乗用車売上げが急速に回復しこの3ヵ月間のアメリカ製乗用軍売上台数は季節調整後の年率で1,000万台,それ以前の3ヵ月間の800万台を大きく上回わり,景気上昇にはずみがついた。
71年第3四半期まで1年間の固定投資は実質4%減であったが,71年第3四半期から72年第2四半期までの間に非住宅固定投資は実質14%(年率)ふえ,住宅着工数もまた金融緩慢化に助けられて71年6~7月の205万戸(季節調整年率)から72年2月の268万戸(最高記録)に激増,その後減少したとはいえ,9月でもなお235万戸と高水準を維持している。
生産の回復を反映して,雇用数は72年7月までの1年間に3.4%増,71年7月以前の1年間のわずか0.5%増と著しい対照をなした。一方,失業率は6%で越年したあと,72年1月5.9%から,10月5.5%へと減少,政府が72年初に掲げた年末約5%の目標にいちだんと近付いた。
物価安定化に関し,政府は71年暮の賃金,物価のガイドライン設定に続いて,72年春以降は不当値上げに対して撤回あるいは不当値上げ分の顧客に対する返却を指示し,その件数は4月28日以降8月までに3,040件に達し,8月央には4大自動車メーカーに新車値上げの撤回を要求した。このような政策もきいて消費者物価は71年8月から72年6月までの間に季節調整後の年率で2.7%(70年12月~71年8月までは3.8%)騰貴にとどまった。卸売物価は同じ期間に年率4.0%上昇し,71年8月以前の8ヵ月間の上昇率(5.2%)を下回った。とはいえ農産物,食品の価格が上昇しているため,9月は前年同月比5%高となっている。
72年上期申に締結された労働協約(労働者1,000人以上)の平均賃上げ幅は年7.1%で71年の8.1%を下回るだけでなく,68年以来の最低である。
しかし賃金ガイドラインの5.5%を越えていて,協約有効期間も25平均ヵ月に短縮(昨年末までは平均34ヵ月)された。
国際収支は,公的準備取引収支で71年に約298億ドルの赤字を記録したものの72年上期で約41億ドルの赤字となり,短期資金流出の減少ないしは還流という形で大幅に好転した。しかし経常収支は引続き悪化し,貿易収支赤字はドル切下げ後も増大,1~9月には約48億ドルとなって71年全体の赤字の倍以上となった。
財政,金融のポリシー・ミックスも成長加速の役割をはたしている。連邦財政収支は72年第2四半期までの3四半期に実質6.6%ふえ,また通貨供給量は71年の物価凍結期間中微減ののち年末からふえ始め,71年上期9.3%(年率)第2四半期5.3%,7月14.4%と大幅に増大した。8~9月にはこれが半減したが,それにしても安定成長に必要な増加率6%を越えているし,また財政赤字の増大を防ぐため政府支出を2,500億ドルにおさえる法案は議会で否決され,インフレ再燃が懸念されている。
このほか個人消費意欲も71年央ごろよりは高く,設備投資意欲も上向いており,上昇基調はなお続くだろう。政府は9月,年初の実質成長見通し6%を上向きに修正し,実質6.25%とした。
1970年を底に回復に転じたカナダ経済は71年,拡大政策によって名目9.1%,実質5.4%とすう勢を上回る成長を遂げた。四半期別GNPの前期比は71年第4四半期0.8%のあと,72年は1.2%,2.1%と成長率を高めている。
個人消費が景気拡大の推進力となっているが,設備投資は過剰設備のため振わない。なお,政府は72年の実質経済成長率を6.0~6.5%に引上げるべく,設備投資の促進措置として,製造業,加工業に対し設備の特別償却および法人税の減税を打ち出した。
失業率の動きをみると,雇用は増加しているが,若年層を中心に労働力人口が大幅に増加したうえに,回復過程特有の現象で生産性が上昇したため,71年秋,6.9%に達した。
その後若干低下したが,失業率はなお6%台にある。これに関し昨年中の失業者の増加5万7千人のうち3万2千人が若年層であることから職業訓練が重視されているし,また,失業率の高い過疎地域の開発が進められている。
物価は71年,食料品価格の高騰と需要増大に伴うマージン幅の拡大で根強い動きを示したが,72年に入っての騰勢はさして鈍化していない。
すなわち,消費者物価の上昇率は71年央,3.5%程度(前年同月比)であったが,12月には5.1%にはねあがり,72年に入っても4.5%近辺で推移している。他方,卸売物価をみると,71年に対前年比3.4%の減(70年1.9%増)となった工業原材料関係が市況の回復から強含みに転じているほか,完成品,住宅建設用資材ともに値上がりして,72年6月の卸売物価は5,9%高(前年同期比)となっている。
71年12月の平均賃金は前年同月にくらべて10.7%,6月は8.8%の上昇を示した。71年末が期限であった物価所得委員会は72年6月末まで存続することになった。
国内景気の上昇に伴ない輸入が急速に増加した反面,アメリカ以外の国の景気停滞から輸出が伸び悩み,貿易収支は,70年29億ドルの黒字から71年21億ドルに縮小した。72年1~6月も,輸出10.5%の伸びに対し輸入21.5%の伸びとなった。経常収支は72年第1四半期に,前期よりも大きな赤字になった。
資本取引をみると,外国からの直接投資がいぜん増加傾向にあるものの外国市場での証券発行がいちじるしく減少したため,71年の長期資本の純流入は,1952年末以来の最低(4億7,800万ドル)となったが,従来大幅な純流出を続けていた短期資本勘定が71年第4四半期(アメリカから大量にドルが流出した時期)に多額の流入となったため,資本収支全体では前年を上回る黒字となった。72年第1四半期も引き続き主として短資を中心とする資本の流入が続きカナダドルの高騰要因となっている。インフレ懸念から金融緩和政策をいくぶん手控えざるをえなくなったため,カナダ国内の金利が上昇してアメリカの金利との間の格差が開き,短資流入を招いたのである。
今年こそはと期待された1972年も,1月早々炭鉱ストに見舞われ,これが電力供給の危機を招いて2月に非常事態が宣言された。一時解雇が急増し,経済的,社会的不安が激化,この第1四半期だけで「争議によって失われた労働日数」は昨年1年分にほぼ匹敵する状況で,国内総生産は前期比3.1%減,前年同期比わずか1.1%増にとどまった。第2四半期に入って消費,輸出を中心に回復に向ったが,6月には港湾ストが尖鋭化し,懸念されたゼネストは避けられたが,8月には再び非常事態が宣言された。以前から経済困難の原因のーっとして労使関係が旧時代的で不規律であることに基づく「山猫スト」の多発があげられ(70年のストの96%までが非公認である),こうした弊害を除くために,65年4月労働組合と使用者団体についての王立委員会(ドノバン委員会)の設立をみ,労使関係法が71年8月5日に成立,10月以降法律の段階的施行に入り,72年2月28日までにすべての規定が施行された。この法律に基づき登録を行なった組合の数は6月現在で約300,全組合数の3分の2に達するが,大組合が登録していないため,組合員数では2~3割にすぎず,十分な効果をあげえないでいるし,組合側はなおこれが悪法であると反対している。
このような労働不安はあったものの鉱工業生産は上向きに転じ,7月には3月末の予算発表時の成長見通し(71年下期~73年上期,年率5%)に沿ったところまで持直したが,投資需要はいぜん停滞をつづけているため,景気にもりあがりを欠いている。完全失業者数は年末82万人のあと,3月88万人に達したが,10月以降80万人を割り,未充足求人数も増加傾向にある。一方,賃金上昇率は72年1~7月12%増(前年同期比)と71年下期並みの上昇率を続けている。最近,約3ヵ月近いストの末妥結した建設部門の賃金協約改訂は14%の大幅賃上げとなり,この後も,自動車,電機部門や公共部門の賃金協約改訂をひかえて,その動向が注目されていた。
卸売物価の上昇は71年7月の8.6%(前年同月比)を最高に,72年に入ってからは4~5%の水準で推移していたが,8~10月には5.4%に高まった。
消費者物価の騰勢も71年の夏の10.3%(前年同月比)をピークに鈍化,7月5.8%まで下がったあと,8~10月は再び7%になった。71年7月以来のCB I(イギリス産業連盟)物価自主規制措置は10月末まで続いた(加盟大企業200社中,160社が署名。前年は179社が署名)。その後の措置について政府,CBI,TUC(労働組合会議)の3者会談が開かれたが,結局決裂し,政府は11月6日,所得・物価統制法案を議会に提出した。
貿易収支(輸出・入ともFOB)は年初来赤字基調となり,6,7月には黒字を計上したが,8,9月には港湾ストもあって輸出が急減したため大幅の赤字となった。輸出は1~7月に金額で前年同期比7.8%(71年は13.8%増),数量で2.9%増(71年5.8%増),一方,輸入は着実に増加し,金額で8.9%増(71年9.0増),数量では6.4%増(71年は4.5%増)となった。貿易外収支が月平均5,000万ポンドの黒字基調にあるため,経常収支は黒字を計上しているが,72年上期の黒字幅は年率2億7,000万ポンドに縮小した(71年は10.4億ボンドの黒字)。6月央のボンド危機による短資の大量流出から第2四半期の国際収支は大幅赤字となった。外貨準備はポンド危機発生までは連続増加していたが,7月末にはEC各中央銀行に対する決済(総額26億700万ドル)が行なわれたために大幅に減少した。その後も外貨準備は漸減して,10月末の水準は58億5,900万ドルである。
3月21日発表された72年度予算は一般の予想をかなり上回る需要促進措置を導入した。(①大幅減税,②設備,機械の自由償却,産業用建物の初年度償却率40%を開発地域以外にも適用,③年金の引上げなど。)これによって歳入が前年度を若干下回る一方,歳出が前年比7.3%増となるため,融資特別会計の借入金が大幅に増加する。
しかし,9月には,(1)生産拡大テンポがほぼ政府目標に近づいた,(2)物価と賃金の騰勢が高まった。(3)通貨供給量が急増している(4~7月間に前年同期比30%増),(4)ポンド固定相場制への復帰が近づいたなどの理由から,イングランド銀行は抑制政策の必要性を強調,10月には公定歩合制にかえて最低貸出し金利(大蔵省証券の割引市場における平均入札レートプラス0.5%)制を導入し,実質上の金利引上げを行なった。
西ドイツ経済は,1971年5月のマルク・フロート以来,財政,金融の引締め政策もあって,景気が鎮静化し,停滞的となり,第4四半期の実質GNPは通貨不安や金属ストなどの影響もあって第1四半期比で1.5%減となった。年間としても71年の実質成長率は2.8%.(前年は5.5%)ど,67年(マイナス0.2%)を除いて戦後の最低となった。失業もわずかながら増え,求人数も減少した。そこで,72年度予算案には本予算のほかに,必要な場合に景気対策としてすぐ発動できる緊急予算(25億マルク)が編成された。
ところが72年にはいると,一般の予想を裏切って景気情勢が好転し,第1四半期の実質GNPは前期比4.5%も増加し,雇用情勢もやや好転した。他方,物価は鈍化とはいえ,なお高い上昇率を示していたため,政策の重点が再び安定重視の方向へ移り,3月には緊急予算の棚上げ,6月には本予算の一部削減を決定した。
しかしながら,この72年はじめの急速な景気回復は,①多角的通貨調整の成立,②71年11~12月の金属ストからの回復,③異例の好天候などといったとどまった。鉱工業生産一時的な要因に負うところが大きかった。
春以降,住宅建築,公共建設,個人消費が好調な半面,設備投資と在庫投資がいぜんとして低調,また,一時回復した輸出も頭打ちとなったため,実質GNPは第2四半期に2.5%減少となり,第3四半期もわずか0.5%増にとどまった。鉱工率生産は第2四半期以降横ばいに推移している。
年初来一時低下した失業率も,3月以降再び上昇した(ただし8月1.4%で,なお完全雇用であることに変りはないが)。しかし,高率の物価上昇がつづいていることから,現在のような穏かな景気上昇の方がむしろ過熱防止の見地から望ましいとされている。すなわち,工業製品生産者価格は鈍化傾向がとまる一方,消費者物価も食料品,公共料金を中心に再び騰勢を高めはじめて,政府目標4.5%を大きく上回わり,4~8月は前年同期比5.4%,9月は前年同月比6.2%と朝鮮動乱以来となった。
政府は9月に物価安定と公共サービス増加を2本の柱とする73年度予算案を閣議決定したほか,ブンデスバンクは金融政策手段の増強策(貸出準備率の導入や銀行貸出規制)の検討にのり出し,公定歩合を10月3%から3.5% ,さらに11月はじめ4%へ引上げた。経常収支はほぼ均衡しているが,資本の大量流入で国際収支は大幅な黒字となり,外貨準備は1~7月間に64億ドル増の247.9億ドルとなった。年初は金利差による資本流入があって,3月に現金預託制を導入,6,7月にポンド危機やドル投機で再び大量の資本流入,7月以降は現金預託制の強化,確定利付債券の非居住者向け売却の許可制などのほか,アメリカの金利上昇でようやく資本の流入がとまって,8月には1.1億ドル,9月1.2億ドルと外貨準備は減少した。
1970年央を底にして回復に転じたフランス経済は,71年個人消費と輸出需要を原動力に順調な拡大過程をたどり,国内総生産で名目10.2%,実質5.2%の成長を遂げた。71年末に一時景気の先行きに不安感が出たものの,71年末から,72年初にかけての一連のリフレ措置もあってフランス経済は72年にも順調に拡大し,国内総生産で71年並みの実質5.6%の成長が見込まれている。これに伴なって雇用は増加しつつあるが,若年層を中心に労働力人口が大幅に増加していることや,地域的に労働需給のバランスが崩れていることもあって,失業者は増加傾向にある。このため,72年5月に次のような若年失業者に対する措置を採用することを決定した。
① 待機手当の設置―1年以内に学校を卒業し3ヵ月以上就職する旨を登録しかつ技術教育を受けた証書を有する17才の男子青年に対して1種の失業保険を支払う。
② 青年労働者のモビリティを高めるための措置―就職する旨を登録しているかあるいは当局の許可を得て登録地以外の所で初めて就職する17才の青年労働者に手当を与える。
③ 当局と教育機関の連絡を密接にする。
④ 青年労働者用宿舎の増設―過去数年間に4,000ベット設置してきたが,更に73年に8,000ベット設置する。
他方,物価面をみると,消費者物価は71年に食料品,サービスの値上りを中心に6.4%高となったが,72年に入っても対前年同月比で6%程度の騰勢を続けている。賃金が71年中に10.7%高騰した後72年に入っても3月に対前年同期比で10.6%高,7月には11.2%高となっている。このような状勢下にあって71年9月~72年3月を対象期間とした「物価抑制に関する契約制度」の有効期間が切れた後も,製品に関して「年間価格契約」制度を設け,72年4月から向う1年間の平均上昇率を3%以内に抑えかつ商業,サービスマージンおよび公共料金の上昇率を4~4.5%以内に抑えることにより,全体の物価上昇率を4~4.5%以内に抑えることを目標にする旨が,72年3月に決定された。さらに,8月末には次のような一連の物価抑制措置が採用された。
① 食料品価格の上昇に対処ずるため,EC共通関税の引下げを要請するとともに,農林省は8月末に食肉の増産とその分配の改善を目指す機関の設置を提案する。
② 4月より運用されている製品に関する「年間価格計画」制度の違反は認めない。来年1月末に終了するサービス価格の上昇抑制協定は4月のはじめまで延長する。
③ 公共料金の引上げを73年3月末まで行なわない。(但し,5月に国鉄料金,8月にガス電気の料金が引上げられている)。
④ 6月上旬に,フランス銀行が課すことのできる貸出し準備率の上限率を5%(10%→15%)引上げるという決定に従って貸出準備率の引上げが9月4日より実施されることになった。従来は71年3月3181こおける貸出し残高の90%を越える部分につき4%の貸出し準備率が設けられていた。72年4月5日以降の貸出し増加額に対しては15%の準備率を適用する。この措置により20~25億フランの資金が吸収されるものとみられている。
⑤ EC経済通貨同盟の段階的達成という枠の中で,EC各国がインフレ抑制のための共同行動をとることができるかどうかをEC各国及びEC委員会に提案する。
国際収支面をみると,輸出の好調を背景に71年第4四半期に54,5億フランの大幅な黒字を記録した後,72年第1四半期は季節的な要因もあり25.9億フランの赤字となった。季節調整後の数字では,対前期比で,上期に輸出が17.2%増となり,また輸入も,国内景気の拡大持続により17.4%増となっている。また金外貨準備も,第2四半期に,前期に比べ11%増加し,94億ドルとなった。
以上のように,フランスの経済は成長,輸出については好調に推移しており,今後も拡大基調が予想されている。しかしながら物価の騰勢は今後も持続するものとみられている。
9月15日に閣議決定された1973年度の予算法案もこれを受けてインフレに対しては中立的に,予算の均衡という原則を厳格に維持して編成された。予算総額は2,007億フラン(今年度予算総額1,806億フラン)前年比11.4%の増加となっている。公共投資は経済活動基金(FAC)を復活させ国庫債務負担行為のうち23億2,800万フラン分を凍結するが,FACを含め対前年比11.4%増,FACを除いて19.87%増となる。特に高速自動車道路(FACを除き20%増),通信(同29%),保養,社会施設(同32%)に重点がおかれている。社会政策費は2度にわたり政府がその充実を公約したこともあって11.8%の増加となった。73年の予算編成の前提になった経済見通しは実質国内総生産成長率5.8%(72年見通し5.6%),家計消費5.6%(5.4%)増,民間投資6.2%(5.8%)増,輸出11.2%(8.1%)増となっている。73年度の税制改正については所得税の税率表の課税所得金額の引上げ,給与所得者に対する3%の控除の税率表組入れ,高所得者に対する増加率の廃止,自動車税,揮発油税の引上げなどが主な内容となっている。
「イタリアの奇蹟」といわれるほどに高成長をとげたイタリア経済も,労働組合が3年間の労働契約を戦いとった1969年の「暑い秋」頃から,急速に力を失ない,71年に入ってから景気は大幅に後退,7月には景気刺激策を発表するとともに,72年度予算に大幅赤字を計上,10月には公定歩合引下げを行なうなどしたが,結局,工業生産が低下し,実質成長率はわずか1.4%と戦後最悪の年になった。鉱工業生産指数の動きをみると,71年秋若干の回復を示したが,72年はじめから再び下降,夏に持ち直したが,70年秋の水準に今なお達していない。景気刺激策をとっているにもかかわらず民間設備投資が減退しているのは,設備稼働率が75%と低い上に,労働不安が年中行事になっているためで,労働側の要求は賃上げにとどまらず,住宅供給,社会保障,教育制度など福祉改善を政府に迫るものだけに,解決は容易でない。
景気の回復は政府部門に期待されるが,社会資本の建設は予定どおりには進まず,とくに人口の都市集中から最近の労働問題とつながっている低所得者用住宅の建設が立ち遅れていて,住宅投資は71年に前年比12%減であった。
この1,2年とくに欠勤率が高く,自動車工業など組立産業の生産能率を低下させている。生産性向上を上回る賃金上昇によって企業利潤が低下傾向をたどっているが,企業が倒れれば職場がなくなるといった警告や,温情主義は通用しにくくなっている。
イタリア経済の大半を占める中小企業にとっては資金難は解消せず,加えて,景気後退,賃金コスト上昇,ストライキの頻発など経営環境が悪化し,倒産ないし事業の縮小がふえて中小企業の雇用者が減少している。
72年7月の失業者数は前年末に比べて10万人増加して,ついに727,000人を記録した。7月末,閣議決定の73年予算では,赤字額は前年比51.8%の大幅増加になっているが,これは,給与,年金,利子などの非弾力的な支出によるものである。予算編成の基礎となった73年の名目GNP見通しは11%,歳出の対GNP比率は23.1%(72年はそれぞれ10%,22.2%)である。
こういったなかで,3年目の労働協約改定時期を迎えて暑い秋が再来するかどうかに関心が向けられている。
国際収支をみると,上半期の経常収支は運輸,観光,移民送金が貿易赤字をカバーして3,871億リラの黒字であったが,資本収支は5,624億リラの赤字,誤差脱漏は1,509億リラの赤字で,総合収支は結局3,262億リラの赤字であった。この赤字の大部分は6月の誤差脱漏(1,435億リラの赤字)によるもので,下旬のポンド危機発生後の国内商社のリーズ・アンド・ラッグズに由来するが,銀行券の流出はとくにはげしいものではなく,結局リラ投機はたいしたものではなかったといえる。7月はリーズ・アンド・ラッグズの動きを反映して貿易収支が極端に悪化,経常収支が1,130億リラの赤字になったが,資本収支および誤差脱漏は2,130億リラの黒字で,総合収支は1,000億リラの黒字になった。金外貨準備は5月末の65億5,500万ドルから6月末の64億3,100万ドルに減少したあと,7月末は64億6,000万ドルに増加した。
この10年間,中道左派内閣(キリスト教民主党,社会党,民主社会党,共和党の連立)が政権を担当してきたが,共和党が経済危機,失業増大,社会不安をとりあげて,閣僚を引上げ,さらに同党の要求する予算の修正要求に対して,与党3党は統一見解に達することができず1月ついにコロンボ内閣は総辞職,結局,イタリアとしては戦後はじめての繰上げ総選挙を5月に実施することになった。その結果,党派別の勢力に大きな変化はなく6月アンドレオッチ中道内閣(キリスト教民主党,民主社会党,自由党)が成立したが,与野党間の議席数は接近している。政治の空白は4カ月に及んだわけで,この間,左右両翼の衝突が激化するなど,社会情勢は不安定であった。
① オーストラリア
実質経済成長率は1968-69年度の8.5%をピークに年々低下し,71-72年度には3.1%にまで低下した。
名自のGNPは364億8,500万オーストラリア・ドル(以下Aドルとする)ドルで,前年度比10.3%の増加であった。
農業生産は8.6%増で70~71年度の7.1%減に比べれば大幅な回復である。羊毛は世界的な需要増大によって10月には20年ぶりの高値を記録した。したがって低下傾向から増加へとその趨勢を転じてきた。酪農品,砂糖などの主要農産品も市価の上昇等のため増産が予想されている。
鉄鉱石を中心とする鉱山業は,いわゆるドル・ショックによる日本の輸入手控えなどから伸び悩みとなったが,石油および天然ガスの生産は新しい鉱区の開発によって著増した。
製造業生産は2月を底に化学品,繊維品など非耐久財を中心に逐月拡大しているが,金属,機械,自動車などの生産増加テンポは緩慢である。
景気は一応上向きの形をみせ初めたが,雇用状態ばなお悪化を続けている。失業率は3月末の1.75%から8月末の2.14%に急上昇した。
消費者物価の対前年度増加率をみると,69~70年度の3.2%から70~71年度には4.8%,そして71~72年度には6.7%と上昇している。賃金裁定委員会は5月2日,72年の最低賃金を週4.7Aドルアップするとの裁定を行なった。前年(71年1月)の6%アップに比べれば低く抑えられたにもかかわらず,6月の賃金は前年同月比8.1%の上昇となっている。
国内需要は小売売上高をみても,72年1~6月を前年期に比べ6.4%の上昇で,物価の上昇,人口の増加(約2.2%)を考慮すれば依然低調ながら,住宅建築と自動車に明るさがみえる。
71~72年度の貿易は,輸出49億1,190万Aドル,輸入40億710万Aドルで,前年度に比べ輸出が12.3%増という好調であったのに対し,輸入は逆に3.4%の減少であった。このため貿易収支の黒字幅は前年度の2億2,460万Aドルから9億480万Aドルへと著しい増加となった。輸出の増加は金属鉱石,果実,小麦などを除きほとんどの品目にわたっている。なかでも肉類,穀類,砂糖,羊毛,石炭などの主要品目が好調であった。一方,輸入では,繊維製品,食料品,石油製品の増加にもかかわらず,全輸入の40%を占める機械類が前年度比10%減となったため,全体として3.4%の減少となった。
国別でみると,輸出の首位を占める日本が前年度比18.2%増,アメリカが19.0%増と好調であったが,イギリスは逆に15.8%の減少となった。一方,輸入のシェアをみると,日本が13.3%の増加であったのに対し,アメリカは16,9%,イギリスは4.5%の減少を示した。3ヵ国のこの明暗は主力製品の相違によるものといえよう。
国際収支は,貿易収支の好調と資本の記録的な純流入によって著しく改善した。経常収支の赤字幅は貿易収支の黒字増大によって,前年の8億2,000万Aドルから半分以下の3億9,800万Aドルに縮小した。一方,資本純流入は前年度の14億1,800万Aドルから18億4,100万Aドルへと記録を更新した。
高金利と平価の切上げ期待感から短資は流入し,外貨準備も次第に増加して72年6月末には前年同月より14億8,500万Aドル増加して37億6,400万Aドルに達した。この外貨流入の急増に対して,政府は9月26日(a)外国からの短資借入れを認めない,(b)外資系会社の現地資金調達に関するガイドラインを撤廃する。(c)これまで禁止されていたオーストラリア居住者の外国株式への投資規制を大幅に緩和する,(d)外資による乗っ取りを監視するための政府機関を設置する,旨を発表,27日から実施した。
全体的にいって,72年の初めを底として,回復の曙光がみえはじめた。製造業生産指数も3月以降急カーブで上昇に転じ,年央には前年同期の水準近くまで回復した。政府は8月の72~73年度の予算案で,生産性の3%増を前提とし,本年度の実質経済成長率を5%(71~72年度は3.1%)と推定している。週35時間の労働時間制の波及化傾向や頻発する労働不安はあるが,回復過程を考えれば,この生産性の向上は達成可能であろう。
② ニュージーランド
1971~72年度(4月~3月)の実質成長率は2.5%であった(前度は3.3%)。最大の問題は生産の停滞と賃金・物価のスパイラル的上昇である。71~72年度の農業生産とほぼ同一の水準で足踏みしているし,71年(暦年)の工業生産も前年比3.3%の増加に過ぎなかった。不況はすでに底をついこと一般的にみられているが,失業者が増大している。
対外経済面はオーストラリアと同様,明るく,71~72年度の国際収支は大幅な輸出増加(前年度比14.4%増)および貿易外収支の赤字幅減少により,経常収支は前年度の3,890万ニュージーランド・ドル(以下NZドルとする)の赤字から9,500万NZドルの黒字にかわった。また,民間資本の純流入は前年度に比べ2,290万NZドル増加して7,100万NZドルとなった。したがって,金,外貨準備も72年8月末には5億9,100万米ドル(前年同月末は2億7,900万米ドル)を記録した。