昭和45年

年次世界経済報告

新たな発展のための条件

昭和45年12月18日

経済企画庁


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第1部 1970年の世界経済動向

第4章 主要国の経済動向

6. 東南アジア:輸出鈍化のきざし

発展途上国の経済情勢は,先進国経済の好況と一次産品市況の高騰による輸出の増加,線の革命による農業生産の著増,工業生産の加速化などにより,1968年,69年と好調をつづけた。とりわけ東南アジアは好調で,輸出,生産とも発展途上国平均を上回る伸びを示した。ただしその半面で多くの発展途上国で69年から物価上昇傾向がめだつようになり,70年上期もその傾向がつづいた。

以下においてはわが国ととくに関係の深い東南アジアの経済情勢について述べることにする。

アジア諸国の農業生産は69年も好調を示し,67年からおおむね3年連続の増産を記録した。66年頃からの高収量品種の作付けが67年,68年とかけて急速なテンポで普及しており,最近の食糧増産の大きな要因になっている。

工業生産も,韓国,台湾では69年は前年の伸びをやや下回ったものの依然として高水準の伸びを続けた。インドでは年間目標を下回ったが,前年に引き続いて増勢を続けている。

こうした農,工業生産の増勢に加えて,輸出の好調が69年のアジア経済の好調を支えた大きな要因である。一次産品市況は68年後半から回復をみせ,69年間を通じて活況をみせたことから,マレーシア,シンガポールなどの輸出の増加をもたらした。また,欧米景気の上昇という要因もあって,香港,台湾では前年の増加テンポを上回る輸出の好調をみせた。しかし,西アジア3カ国では,インドが機械類などの工業製品輸出の伸び悩み,パキスタンがジュート,セイロンが茶の輸出減少により不振を続けた。

一方,輸入は,韓国が国内経済の引締めで前年の増加率を大きく下回り,インドでも輸入抑制により大きく減少したが,他の国の輸入増加があったのでアジア全体としては前年の伸び率を上回った。

しかし,アジア諸国の貿易収支は輸出の好調に支えられて68年より改善した。また外貨準備高は46.6億ドルに達した。

以上のような農業と輸出の好調を主軸に,多くの国で高い経済成長率を示した。韓国では実質成長率15.9%と高成長であったのをはじめ,マレーシア,インドも高い成長率を記録した。しかし,タイではベトナム特需の減少という要因が加わって前年の成長率を下回り,フィリピンでも対外部門の不振により成長率が鈍化した。

69年は,「第1次国連開発の10年」の最終年であったが,前年に引続いて経済成長率が5%の目標を上回ったものとみられる。この結果,60~67年の成長率が4.7%とやや目標を下回っていたが,ここ2年間の高成長により開発の10年の目標を達成したものとみられている。

第25表 鉱工業生産の伸び率

68年以降,アジア諸国の経済は,欧米先進国の景気回復,一次産品市況の回復などに支えられて概じて順調な経済発展を続けてきたが,70年に入りこうした対外要因が悪化に転じている。

欧米先進諸国の景気は,アメリカ経済が70年に入ってさらに後退,ヨーロツパ経済も概して鈍化の様相をみせている。すでに韓国,台湾,香港では,70年上期の対米輸出の伸び悩みを主因に前年の伸び率を下回った。

第22図 東南アジアの貿易と外賃準備高

また,上昇を続けてきた一次産品市況は70年4月末ピークを記録したが,その後軟化をみせており,7月のイギリスの港湾ストで一時反騰がみられたものの依然として軟化基調にある。69年,一次産品市況の回復を背景に輸出の好調を続けてきたマレーシア,シンガポールなどでは,今年上半期の輸出が大幅鈍化となっている。

この結果東南アジア諸国の輸出(主要10カ国)牡69年第4四半期の17.2%増(前年同期比)から70年第1四半期には,14%増(同)に止まった。一方輸入はアジアでは輸入額のウエイトの高い香港,シンガポールが好景気を反映して高水準の輸入を続けたこと,韓国,タイ,マレーシアなどで輸入増加テンポを高めたことにより69年第4四半期の8.3%増(同)から70年第1四半期13.6%増(同)へと伸びを高めている。(ただし69年第1四半期がアメリカの港湾ストの影響などでかなり低水準であったことも一因である。)また,先進国の援助供与額は,68年,69年にかけて民間投資の増加が続いている一方で政府援助が伸び悩んでいるため総じて頭打ち傾向にある。

今後,ベトナム特需の漸減と相まってアジア諸国の対外環境はかなり厳しいものになるであろう。


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