昭和45年

年次世界経済報告

新たな発展のための条件

昭和45年12月18日

経済企画庁


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第1部 1970年の世界経済動向

第4章 主要国の経済動向

5. イタリア:ストによる生産と輪出の減少

1970年はじめのイタリア経済は,前年秋から暮にかけての広汎なストによる生産のロスと大幅賃上げから大きな影響をうけた。すなわちストからの回復要因(とりわけ在庫蓄積)と大幅賃上げによる消費需要の増大から経済活動が活発化し,第1四半期の工業生産(季節調整済み)は前期比15.3%増,前年同期比5.6%増となった。ところが第2四半期にはいってストが再燃したため,工業生産も前期比2%減,前年同期比ではわずか2.1%増にすぎず,その後も横ばい傾向を示している。

こうした生産のロスは輸出にもひびき,1~9月間の輸出は前年同期比わずか9.1%増で,主要西欧諸国の輸出増加率15-20%にくらべて半分にもみたぬ増加率であった。

生産がストで抑えられていたのに需要が旺盛だったので輸入は膨脹し,1~9月間に前年同期比21%増となった。このため,貿易赤字額も大幅に悪化し,69年1~9月の約2億ドル(通関)から70年同期の約13億ドルヘ転落した。こうした貿易収支の悪化から,経常収支(季節未調整)も1~8月間に,4.6億ドルの赤字を出した(69年同期は12.5億ドルの黒字)他方,資本収支は本年2月にリーズ・アンド・ラグの防止措置と資本逃避阻止措置がとられたほか,外債の起債による資本調達もあったため,第1四半期に赤字額が縮小したあと,第212g半期には黒字化した。その結果綜合でも第2四半期には1億8,200万ドルの黒字となった。

8月はじめのコロンボ政権の成立により,政情不安は解消し,リラに対する信認も一応回復した。新政権は,消費需要抑制策としてガソリン税,取引高税の増税のほか,生産と投資促進のために中小企業や農業に対する低利融資,企業合同課税軽減期限の延長などの措置をとった。ただし賃金の爆発的上昇(上期に前年同期比22%増)のおりから,間接税の引上げは,それでなくても高い物価上昇率(上期の前年同期比上昇率は卸売物価8.8%,消費者物価4.9%)に一層の拍車をかけることになろう。

第21図 イタリアの主要経済指標

このように賃金,物価面に問題が残されているが,今後の経済動向はストさえなければかなり高い成長率が見込めそうである。消費需要は増税による抑制はあるものの,賃上げにより著増するであろうし,設備投資も大幅な増加が見込まれている。他方供給側に大きな余裕があり,OECDも70年の経済成長率を7%とみていた。


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