昭和45年

年次世界経済報告

新たな発展のための条件

昭和45年12月18日

経済企画庁


[前節] [次節] [目次] [年次リスト]

第1部 1970年の世界経済動向

第4章 主要国の経済動向

4. フランス:国際収支好調とリフレ政策

フラン危機に対処するため,フランス政府は69年8月にフランを切下げ,9月に一連の引締め措置(政府支出の凍結,減価償却率引下げ,投資減税期間の延長,貯蓄奨励賦払信用規制など)をとったが,これらの措置により過大な国内需要が漸次抑制される半面,対外収支はフランに対する信認の回復もあって急速に改善された。貿易収支(通関ベース)は70年にはいって均衡点(カバー率93%)を上回り,1~9月平均では93.8%となった。これに短資の還流が加わって,金外貨準備は70年に逐月増加しつづけ,1~9月間には9.1億ドルも増加し,その残高は9月末現在で47.4億ドルに達した。

このようにフラン切下げは一応の成功をおさめたわけだが,これにはマルク切上げや世界的なインフレ傾向などといった対外的要因の存在も見逃すことができない。

第19図 西ドイツの主要経済指標

フラン切下げ以来の政府の目標が輸出促進のための国内消費需要の抑制にあったのだから,消費需要が抑えられたのも当然であるが,しかし需要増勢の鈍化から失業が増加傾向をみせたため,政府は70年春から慎重ながらも緩和政策に踏切り,賦払信用規制の部分的緩和のあと,銀行貸出制限の一部緩和景気調整基金の一部解除を実施,8月下旬には海外金利の低落もあって公定歩合の引下げに(18.0%から7.5%へ)踏切った。さらに,10月下旬には公定歩合の再引下げ(7.0%へ)とともに信用規制の撤廃を行なった。

70年の実質経済成長率は69年(7.9%)より鈍化したとはいうものの依然として高く(政府推定6.2%)また71年の成長率も9月発表の71年度予算案によると実質5.7%と比較的高く想定されており,政府がかなり楽観的な経済見通しを持っていることを示している。

問題は賃金,物価の動向である。消費者物価は,8月までに69年12月比4.6%高(年率)となり,年初の政府目標4%を大きく上回ったため,最近は政府も見通しを5%へ引上げた。

賃金も上期に前年同期比10%上昇し,その後も同様な上昇テンポを続けており,賃金面からのコスト圧力が相変らず強い。

第20図 フランスの主要経済指標

このように賃金・物価面になお問題を残しているものの,国際収支の改善のみならず,設備投資も増加しており,(70年の設備投資は実質21%増の予想)その点フラン切下げはポンド切下げにくらべると輸出・投資主導型の経済成長の実現に成功したといえる。

71年度予算案は,支出規模の増加率がGNPの名目増加率とほぼ同じ(8.7%)であり,また収支均衡という点で,政府は中立型予算としているが,約36億フランの減税を予定している点で若干の刺激型予算とみることができるし,とくに食糧品に対する付加価値税の引下げは,物価抑制的に働くものとして期待されている。なお政府の予想では71年の消費者物価の上昇幅は3%へ鈍化するとしている。


[前節] [次節] [目次] [年次リスト]