昭和45年

年次世界経済報告

新たな発展のための条件

昭和45年12月18日

経済企画庁


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第1部 1970年の世界経済動向

第4章 主要国の経済動向

3. 西ドイツ:マルク切上げとインフレの持続

西ドイツは1969年10月26日に,国際収支不均衡の是正とインフレの克服のためにマルク切上げを断行したのであるが,その後1年をへた現在なお十分な成果をあげたとはいい難い。たしかに国際収支不均衡の是正という目的は一応達成された。すなわちマルク切上げ思惑から西ドイツヘ流入した大量の短資(40億ドルといわれる)の追い出しに成功したほか,経常収支の黒字も減少した(69年1~9月の41.0億マルクから70年同期の8.0億マルクヘ)。しかし金融引締め政策による金利の上昇と国内金融のひっぱくから資本収支が前年の赤字から黒字へ変ったため,総合収支は大幅な黒字となり,金外貨準備は1~10月間に170億マルク(約46.5億ドル)も増加した。

他方,マルク切上げは肝心のインフレ克服に対しては,これまでのところあまり効果がなかったといえる。切上げ後にその補強として金融,財政上の引締め政策が数回にわたって実施されたにもかかわらず,物価はむしろ上昇テンポを早めており,最近になってようやく若干の鈍化がみられるていどである。すなわち消費者物価の上昇率は69年中は前年同期比2.7-2.8%高だったのが,70年第1四半期になると前年同期比3.5%高となり1~10月平均では3.8%高となった。

また工業製品生産者価格も同様な動きをみせ,69年第3四半期の前年同期比2.6%高から,切上げ後の第4四半期には4.4%高と一挙にはねあがり,さらに70年1~10月間には6.1%と騰勢が高まった。

このように,物価の上昇テンポが切上げ後にも衰えず,むしろ逆に高まった理由は,切上げが海外需要の抑制を通して国内の過熱景気の鎮静化に一応役立ったにもかかわらず,切上げ直前に賃金の爆発的上昇がおこって,コストインフレ要因が強く働き出したことと,外国のインフレのために輸入価格が予想ほど低落しなかったことにある。.いま賃金の動きをみると,工業賃金(時間あたり賃金俸給収入)は,69年第3四半期にはまだ前年同期比8.8%増だったのが,第4四半期には一挙に13.5%増へはねあがった。これは9月の石炭,鉄鋼業のやまねこストによる大幅賃上げが他産業にも波及したためである。賃金上昇率は70年にはいってさらに高まり,70年上期には前年同期比15.8%となった。

このように,賃金の増勢が高まる半面,生産性の上昇率は超完全雇用の達成で次第に鈍化したので,69年上期中安定していた賃金コストは上昇に転じ,70年上期の賃金コストは前年同期比11.6%増となった。

このような情勢から政府は70年7月に増税を含む一連の財政引締め措置をとった。他方,公定歩合は3月に引上げられた(6.0%から7.5%へ)あと,7月中旬に7.5%から7.0%へ引下げられ,さらに11月17日に6.5%へ再引下げられた。これは短資流入の阻止を目的としたもので,金融引締めの基調は緩和されていない,政府は70年の消費者物価上昇率4%に対して71年には3%へ鈍化すると見込んでいるが,その半面で経済成長率は70年の名目12.5%から71年の7.5~8.5%へ大幅に鈍化するとみている。だが,民間研究所のなかには71年の景気停滞を予想して,引締め政策の早期緩和を望む向きもあり,安定か成長かの問題は71年の西ドイツにとって切実な問題となるものと思われる。

第24表 西ドイツの物価・賃金,賃金コスト


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