昭和45年

年次世界経済報告

新たな発展のための条件

昭和45年12月18日

経済企画庁


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第1部 1970年の世界経済動向

第1章 1970年の世界経済-概観

3. 好調を続けた世界貿易

(1)世界貿易の増勢つづく

先進諸国の生産活動が鈍化したにもかかわらず,世界貿易は,68・69年にひきつづき,70年上期も活発な拡大をつづけた。すなわち,世界貿易(共産圏を除く)を輸入額でみると(第5表),68年前年比12%,69年13%増のあと,70年上期にも前年同期比14.6%増とむしろ増勢を高めた。

もっとも四半期別にみると,70年第1四半期の世界輸入の増加率が異常に高かった(16.1%増)半面,第2四半期には増勢がやや鈍化している(13.3%増)。

70年上期の世界貿易の前年同期比増加率が大きかった一つの理由は,69年はじめにアメリカの港湾ストによりアメリカの輸入水準が比較的低位にあったという事情にもあるが,OECD全体の輸入額(季節調整済み)の前期比増加率(年率)でみても69年上期の14.3%,下期の16.0%,70年上期の17.3%と,むしろ増勢が高まっている。

70年下期の世界貿易の増加率は鈍化を免れないであろうが,70年全体としての伸び率が10%を超えることは確実であろう。

世界貿易が3年つづけて10%以上も増加したことになり,これは戦後はじめてである。

(2)旺盛な工業国の輸入

地域別にみると70年上期の世界貿易の大幅増加には,前年にひきつづき主として工業地域とくに欧大陸諸国と日本の輸入増加が大きく寄与した。

すなわち,欧州工業国10カ国の輸入は,69年に20%増のあと,70年上期にも前年同期比19%増えた。国別では日本の輸入増加率が高く(29.4%),このほかスエーデン(24%),西ドイツ(23.5%),オランダ(22.6%),イタリア(21%)など欧大陸諸国が特別に高い増加率を示した。もっともフランスの輸入はフラン表示では70年上期に前年同期比22%増であったが,これは69年8月のフラン切下げのためにフラン表示額が膨張したためであって,ドル表示でみると前年比わずか6.5%増(69年は24.6%増)で,フラン切下げの効果が示されている。アメリカの輸入も景気後退にもかかわらず前年同期の水準を約14%上回る高水準の伸びを続けたが,これには69年はじめの港湾ストという要因もあったことは前述のとおりである。

他方,発展途上国の輸入は69年の5.8%増につづいて70年上期には前年同期比5.9%増となった。これは近年の発展途上国における経済活動の高まりに伴い,その輸入が全体として順調に伸びていることを示すものであろう。

他方,共産圏諸国の自由圏からの輸入も70年にはいって急増した。

(3)欧米諸国の輸出いずれも著増

70年上期の輸出を国別にみると,日本が最大の伸びを示したが,西ドイツ,アメリカでも前年同期比20%を上回る拡大を示し,その他,オランダ,ベルギー,カナダ,フランスにおいても大幅な増加が見られた。

アメリカの輸出の伸びが大きかったのは,国内不振で輸出力に余裕があったのに加えて,欧州と日本の好況によるものである。フランスの輸出もドル表示で約17%(フラン表示の輸出額は33.7%増)と大きく伸びたが,輸出価格がほぼ横ばいであったので数量でも17%伸びたことになり,ここでもフラン切下げの効果がはっきりと現われている。西ドイツの輸出がマルク切上げにもかかわらず前年同期比21%も増加したことが注目されるが,これは切上げ時に受注残が非常に多かったために目先きの輸出量が切上げの影響をあまりうけなかったうえに,平価切上げによってドル表示額が膨張したためである(マルク表示の輸出額は上期に10.7%)。

第6表 世界輸出

他方,発展途上国の輸出は70年上期に前年同期比5.6%増で,68年の9.3%増,69年の9.2%増にくらべて,伸び率の著しい鈍化がみられる。

(4)貿易価格の上昇

70年上期の世界貿易が先進国の生産増勢の鈍化にもかかわらず著増した要因としては,第1に貿易価格の大幅上昇をあげることができる。

先進国からの輸出価格は70年上期に前年同期比で5.7%上昇し,開発途上国のそれも4.4%上昇した。これらのの資料によって推定すると,70年上期には世界貿易価格(ドル表示価格)は,おそらく5%前後上昇したとみられる。

したがって,価格上昇分を控除した数量では70年上期の世界輸入の伸び率は,約9~10%となるが,それでも先進国の生産鈍化を考慮すると,なお高い増加率といえる。

第7表 貿易価格(ドル表示)の推移

価格上昇は国際商品相場の上昇に最も端的に現われている。国際商品相場をNIESR指数でみると,69年に9.7%上昇のあと,70年上期にも前年同期比6.5%上昇した。これは非鉄金属の高騰を主因とした値上りであったが,70年5月以降はやはり非鉄の値下りにより低落に転じた(第2図)

このほか,西ドイツの輸出価格が69年上期-70年上期間に約10%という異常に大幅な上昇ぶりを示した。

70年上期の世界貿易が先進国の生産鈍化にもかかわらず大幅に増加した第2の要因として,欧大陸諸国の生産が(フランスを別にして)供給側の隘路で鈍化した反面,需要は非常に活発であったから,輸入が量的にも大幅に増加したという事情があげられる。

第3の要因は,景気後退にもかかわらずアメリカの輸入がよく維持されたことであり,これは景気後退期にも消費が減らずに消費財の輸入がふえたことのほか,とくに自動車のように国産車の売行きは激減したが輸入が増えた商品もあるなど,価格競争力の変化ないし消費多様化も影響していると考えられる。


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